16 / 41
危険な任務と思い人
集団ヒート
しおりを挟む
ヒートが感染る、という現象が稀に起こる。滅多にないことだが、今デネボラの中はまさにそれだった。
現在組織員の約3分の1がヒートに陥っていて、ヒート中に働くことができる人など(アルを除いて)いないから、組織内は深刻な人員不足に陥っている。
「すまない、アル。お前にはもう少し安全な仕事を回したかったが、今回ばかりは… 」
深刻そうに眉をひそめたヨルに、アルは苦笑いした。俺はあなたの子供ですかと聞きたくなるくらいに過保護だ。
「大丈夫です。もう5年目ですよ。」
そう、もうこの仕事に就いて5年近くになる。今年で成人を迎え、後輩も何人もいる。
しっかりとそう言い放ったアルに、言ってくれるじゃないか、とヨルは笑いかけた。いきなり何か質量のあるものが投げられて反射的に受け取ると、それはかなり厚い紙の束。
「頼もしいな。これが資料だ。
…今回の件は、俺とヴィクターも任務につくが、お前に気を配れるかというと、多分その余裕はない。」
場の空気が張り詰めた。ヴィクター・ファーニバル。組織の中で最も優秀とされるボディーガードだ。そして組織のトップ、ヨル。
その2人が同時に派遣され、なおかつ自分の仕事に手一杯だなんて、どんな修羅場なのだろう。
アルは受け取った資料に自分の手汗がじっとりと染み込んでいくのを感じた。
「警護対象は2人。お前にはそのうち1人についてもらう。
俺は周りに注意を払わなくちゃならなくて。今回相手側にいる組織がちょっと厄介でな…。
また、何かあったら遠慮なく聞いてくれ。」
「わかりました。」
そのまま最上階のヨルの執務室を後にしたアルは、自室へと戻るべくエレベーターに乗った。一年前から個室が与えられた個室だ。
デスクに向かって渡された資料に目を通していく。
依頼に関しては簡単な情報しか与えられない場合が多いが、今回の件はそうでもなさそうだ。
かなり詳細に依頼人に関しての情報や、警護が必要な経緯などが綴られている。
依頼人であるジャック・ヴァーノンはエレンの旧友で、βの研究施設で働いている。
警護対象はジャックに加え、ルシアン・ターナーと名乗る彼の同僚のβ。
どうやら大きな学会での発表があるらしく、その学会に赴き、発表が終わるまでの1週間、警護に当たってほしいという依頼だ。
今までアルがついた任務で最長のものは3日。1週間なんてだいぶ長い。よく考えて行動する必要がある。
パラパラと分厚い資料を読んでいき、最後の方のとあるページで手を止め、アルは大きく目を見開いた。
そのページには付箋で、「今回の件にもしかしたら関わりがあるかもしれないから、一応目を通しておいてくれ」と書いてある。
その資料は、ある人物が絡んだ四年前の事件に関するものだった。
天才研究者、アラン・クロフォード。公にはされていないが、彼はある日謎の死を遂げ、その遺体は未だ見つかっていないらしい。
驚いたアルはその記事を見て、隣のパソコンで彼について検索をかける。今自分が考えていることが勘違いであってほしいと願いながら。
エンターを押して、結果を待つ。3秒とかからない表示されるまでの時間が、やけに長く感じられて。
表示された画面を見て、アルはごくりと息を飲む。
結果として、彼はやはり3年前にアルを助けた人と同一人物だった。
彼が今回の件にどう関係してくるのか、それはわからない。これは断った方がいい案件かもしれないとさえ思った。
でも。
胸が締め付けられるほどに疼く。恐怖からではなく、その感情は紛れもなく会えるかもしれないという期待を含んでいて。
本当にどうしようもない。
少し頭がおかしくなっているのかもしれないと、20分の仮眠をとった後再び考えても、出てきた答えは同じだった。
現在組織員の約3分の1がヒートに陥っていて、ヒート中に働くことができる人など(アルを除いて)いないから、組織内は深刻な人員不足に陥っている。
「すまない、アル。お前にはもう少し安全な仕事を回したかったが、今回ばかりは… 」
深刻そうに眉をひそめたヨルに、アルは苦笑いした。俺はあなたの子供ですかと聞きたくなるくらいに過保護だ。
「大丈夫です。もう5年目ですよ。」
そう、もうこの仕事に就いて5年近くになる。今年で成人を迎え、後輩も何人もいる。
しっかりとそう言い放ったアルに、言ってくれるじゃないか、とヨルは笑いかけた。いきなり何か質量のあるものが投げられて反射的に受け取ると、それはかなり厚い紙の束。
「頼もしいな。これが資料だ。
…今回の件は、俺とヴィクターも任務につくが、お前に気を配れるかというと、多分その余裕はない。」
場の空気が張り詰めた。ヴィクター・ファーニバル。組織の中で最も優秀とされるボディーガードだ。そして組織のトップ、ヨル。
その2人が同時に派遣され、なおかつ自分の仕事に手一杯だなんて、どんな修羅場なのだろう。
アルは受け取った資料に自分の手汗がじっとりと染み込んでいくのを感じた。
「警護対象は2人。お前にはそのうち1人についてもらう。
俺は周りに注意を払わなくちゃならなくて。今回相手側にいる組織がちょっと厄介でな…。
また、何かあったら遠慮なく聞いてくれ。」
「わかりました。」
そのまま最上階のヨルの執務室を後にしたアルは、自室へと戻るべくエレベーターに乗った。一年前から個室が与えられた個室だ。
デスクに向かって渡された資料に目を通していく。
依頼に関しては簡単な情報しか与えられない場合が多いが、今回の件はそうでもなさそうだ。
かなり詳細に依頼人に関しての情報や、警護が必要な経緯などが綴られている。
依頼人であるジャック・ヴァーノンはエレンの旧友で、βの研究施設で働いている。
警護対象はジャックに加え、ルシアン・ターナーと名乗る彼の同僚のβ。
どうやら大きな学会での発表があるらしく、その学会に赴き、発表が終わるまでの1週間、警護に当たってほしいという依頼だ。
今までアルがついた任務で最長のものは3日。1週間なんてだいぶ長い。よく考えて行動する必要がある。
パラパラと分厚い資料を読んでいき、最後の方のとあるページで手を止め、アルは大きく目を見開いた。
そのページには付箋で、「今回の件にもしかしたら関わりがあるかもしれないから、一応目を通しておいてくれ」と書いてある。
その資料は、ある人物が絡んだ四年前の事件に関するものだった。
天才研究者、アラン・クロフォード。公にはされていないが、彼はある日謎の死を遂げ、その遺体は未だ見つかっていないらしい。
驚いたアルはその記事を見て、隣のパソコンで彼について検索をかける。今自分が考えていることが勘違いであってほしいと願いながら。
エンターを押して、結果を待つ。3秒とかからない表示されるまでの時間が、やけに長く感じられて。
表示された画面を見て、アルはごくりと息を飲む。
結果として、彼はやはり3年前にアルを助けた人と同一人物だった。
彼が今回の件にどう関係してくるのか、それはわからない。これは断った方がいい案件かもしれないとさえ思った。
でも。
胸が締め付けられるほどに疼く。恐怖からではなく、その感情は紛れもなく会えるかもしれないという期待を含んでいて。
本当にどうしようもない。
少し頭がおかしくなっているのかもしれないと、20分の仮眠をとった後再び考えても、出てきた答えは同じだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-
悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡
本編は完結済み。
この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^)
こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡
書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^;
こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる