91 / 92
第二部
ハロウィンss2021
しおりを挟む※東弥が博士課程に進んだ後の話となります
仕事仲間とのやり取りの中で今日がハロウィンだと認識した途端、東弥は家に帰ることがいつもの2倍楽しみになった。
大学2年生までの自分はクリスマスにすら興味を示さないタイプの人間だったのに、人生わからないものだと思う。
可愛い恋人が、“トリック オア トリート”、と言われて白い首をことんと傾げる様を思うだけで、帰りたくてたまらない。
「真鍋君、これが終わったら今日はおしまいにしよう。」
教授の言葉で、思わず笑顔になる。
「ありがとうございます。30分以内に終わらせますね!」
「それは、いくら君でも…。」
教授が苦笑を浮かべる一方で、今年研究室に入ってきた女子学生2人は何やら歓声を上げはじめた。
しかし、そのどちらも今の東弥にはまるで気にならない。
頼まれていたプログラムを20分で書き終え、驚く教授に頭を下げて研究室を出る。
そのプログラムがあまりに無駄なく美しかったことから後に研究室の伝説として語り継がれる事になるのは、また別の話だ。
「ただいま、静留。」
「東弥さん!!おかえりなさい!」
ドアを開ければ、静留がてとてとと玄関まで走って迎えにきてくれた。
勢い余って東弥の方にぼふっと倒れ込んでしまうのも、よくある事だ。本当に可愛らしくて、こんな日々を続けていたらほっぺたが緩んだまま戻らなくなってしまうのではないかと思う。
「静留、今日は何の日かわかる?」
ひとしきり頭を撫でた後で問いかけると、静留が東弥の胸のあたりに埋めていた顔を上げた。
「きょう…?えっと、なに、かな…?」
「ハロウィンだよ。静留、“trick or treat?”」
「とりっく おあ とりーと…??」
舌足らずな発音で繰り返しながら、静留がことんと首を傾げる。
予想通りの反応が、愛おしくてたまらない。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞって意味だよ。ハロウィンの日にこれを言われたら、お菓子をあげるか、悪戯をされなきゃいけないんだよ。」
「おかし、持ってない…。いたずら、どんないたずら…?」
「そうだな。静留のこと、こちょこちょしようかな?」
少し魔がさして、意地悪なことを言ってしまった。
静留の肩がピクリと跳ね、濡羽色色の瞳にうっすら涙が浮かぶ。
「…あの、ね、こちょこちょじゃなきゃ、だめ…?」
不安そうにこちらを見上げてくるその姿が酷くDom性を煽ることを、きっと静留は知らない。
知っていたならば、こんなに無防備な反応は見せないだろう。
心の中で大きく深呼吸をして、東弥はその欲をそっと鎮めた。
「そうだな、じゃあ、お菓子の代わりに静留を頂戴?」
「ぼく…?ぼくは、甘くないよ…?」
「おかしいな。こんなに甘いのに。」
不思議そうにぱちぱちと瞬く彼の白い首筋に、味を確かめるように舌を這わせれば、ほんのりとボディクリームのミルクの香りがする。
「んっ…ひぁっ…!東弥さん、それ、へんなかんじっ…!」
くすぐったそうに身を捩りながら、静留は東弥にしがみついて色っぽい息を漏らし始めた。
「ああもう、可愛い。天使みたいだ。羽根はどこにしまったの?」
「はね!?ぼく、人間だよ…?」
「うん。でも可愛すぎたら生えてくるんだよ。知ってた?」
「!?」
「ごめん、嘘ついた。でも、そのくらい静留は可愛い。」
「ぅー…。東弥さん、ずるい…。 」
真っ赤になった顔を覆う美しい両手をそっと剥がして、淡い唇に口付ける。
さらに顔を真っ赤にした静留は、とうとう東弥の胸に顔を埋めたまま動かなくなってしまった。
少しいじめすぎたかもしれない。
叶うならこのままお姫様抱っこでベッドに直行させたいが、そんなことをしたら流石に拗ねてしまうだろうか。
葛藤の末、東弥はもう一度、今度は全ての欲を深く鎮めた。
それからやさしく静留を身体から剥がし、上を向かせる。
「静留、ハロウィンだから、静留にお菓子を買ってきたんだ。静留の大好きなキャンディーだよ。俺に、“trick or treat”って言ってごらん。」
「とりっく、おあ、とりーと…?」
「よくできました。はい、これ。」
弱くglareを放ちながら、静留のために買ってきたハート型のペロペロキャンディーを差し出した。
「かわいい…っ!!」
受け取った静留がキラキラと目を輝かせ、ありがとうと述べる。
そのまま彼はキャンディーの包装を丁寧に剥がすと、小さな赤い舌を表面にそっと這わせて。
「あまい!!」
キャンディーを持っていない方の手を頬に添えながら、満面の笑みを浮かべる。
先ほどまで羞恥で真っ赤に染まっていたのに、すぐにこんなあどけない笑みを浮かべられるのだから、やはり天使なのだろうと東弥は思った。
ハッピーハロウィン。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

聖獣王~アダムは甘い果実~
南方まいこ
BL
日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。
アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。
竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。
※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる