朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

文字の大きさ
上 下
39 / 92
第二部

※お泊まりと2度目の事件※④(東弥side)

しおりを挟む
帰宅後。

「静留、どうしたの。ほっぺたぱんぱんだよ?」

静留が夜寝る前に膝に乗ってくるのはいつものことだが、今日は何か様子が違った。

と言うのも、明らかにむくれているのである。

「…気持ち良くして欲しい?」

一応可能性として聞いてみると、静留はさらにほっぺたを大きく膨らませた。

その様子が愛らしすぎて一瞬笑みがこぼれそうになったが、いけない。余計に怒らせてしまう。

「どうしたの?言わないとわからないでしょう?」

じっと静留の目を見て問いかけると、彼は少し目を泳がせた後、大きく深呼吸をして口を開いた。

「…東弥さんのこと、きもちよくしたい。」

その言葉を聞いて東弥は唖然としたが、少し考えてああそういうことかと納得した。静留が性的な意味で言うはずがなく、だからただ幸せにしたいだとかそういう意味であろう。

「俺は静留がいればそれで幸せだよ?」

少しの間で邪念を鎮めて、静留に優しい口調で伝える。

しかし次の瞬間静留がとった行動に、東弥は言葉を失った。

「…ちがう、東弥さんのここ、きもちくしたいの…。どうしたらできる…?」

いつも鍵盤の上できらきらとした音を奏でる白い手が、ズボンの上から東弥の中心にそっと触れる。

上目遣いでそんなことを言われれば、東弥も男なのでさすがに勃ってしまう。

「俺はいいよ。静留が気持ち良ければそれで嬉しいから。」

静留の手首を優しく掴み、その部分から避けようとしたが、静留は一向に手を離してくれない。

それどころかまた頬を膨らませて、潤んだ瞳で言ったのだ。

「…きもちよくできないと、東弥さんが死んじゃうって、谷津さんが…。東弥さんは僕じゃ、きもちよくなれない…?僕のみりょくがないから…?東弥さんみたいにかっこよくないから…?」

__…谷津か。後で絶対締める。

心の中で決心しながら、東弥は断ることができずに思い悩む。

何せ聞き方がずるいのだ。

静留で気持ち良くなれないだなんて、魅力がないだなんて、そんなことはない。むしろ最近東弥が仕方なく自分のものを処理するときは、静留のことを思い浮かべてしまっている。

そのうえ今ここで断ってしまえば彼は泣いてしまうだろう。彼の涙に東弥はめっぽう弱い。

「まず、俺は死なないよ。それに静留が大切だから、無理させたくないんだ。だからいつも俺は静留にしてもらわない。

でも、静留が無理しないって約束するなら、お願いしてもいいかな?」

少し回りくどい言い方になってしまったが、伝わっているだろうか?

静留の方を見ると、彼は無邪気に笑って頷いた。

頬はもう膨らんでいないし、目も潤んでいない。

__…よかった、機嫌直してくれて…。

ほっとしたのも束の間、彼の手が東弥の下を脱がせようとしてうまく行かずに、また泣きそうな顔をしたので、東弥は自ら熱を取り出した。

__…俺はなんてことを…。

罪悪感に苛まれながら、しかし熱が収まることはない。東弥の屹立に手を触れ、静留が大きく目を見開く。

「あつい…。」

彼の手に触れられていると考えただけで、今にも達してしまいそうだ。

そのうえ、あろうことか愛おしげに先端に口付けるものだから、たまったものではない。

「静留が魅力的で、大好きだからだよ。」

“魅力が無い”、という誤解をさせないために髪を撫でながら言ってやると、静留は安心したようにふわりと笑んで。

いつも東弥が彼にしているように、指を動かし始めた。






「…静留っ…。そろそろやばいからっ…、離してっ…。」

静留に触れる際自分がするのと同じように静留が指を動かすから、東弥にとってそれは当然気持ち良くて、かなり早くに達してしまいそうになる。

静留がしている、ということを考えると尚更だ。

その白くて綺麗な手指とじっと東弥の熱を見つめる大きな瞳は、視覚的にたまらない。

止めてと言ったにもかかわらず、静留はきょとんと首を傾げて、“白いのだせる?”と聞いてきた。

「…出そうだから離してっ…。」

静留の顔を汚してしまいそうで必死に耐えるけれど、正直そろそろ限界だ。本当は静留の顔を今すぐにでも押し除けたいが、そうしたら多分彼は傷ついてしまう。

「汚れるからっ…。」

依然として手を止めない静留に、優しく言い聞かせる。

すると静留は少し考えるようにした後、驚きの行動に出た。

ぬるりとした柔らかな感触に雄を包まれ、東弥はあっけなく達してしまう。

いきなり先端を口に含むだなんて、不意打ちだ。そのうえ、口に含むために長い髪をかき分ける仕草はやけに色っぽかった。

__…どこでこんなことを覚えたんだ…。

後悔に浸ろうとしたが、東弥はすぐに自分の過ちに気が付き、慌ててティッシュを取り、静留の口を開ける。

「ほら、苦いから口開けて。そう、べってして。…待って静留、まさか飲んじゃった…?」

あーん、と開いた小さい口の中にすでに白濁がないことに気が付き、絶句した。コーヒーの苦味はおろか、青魚の生臭さすら受け付けないこの子が、なにをやっているのか。

なにも言えず口の端からわずかに垂れた白い液体を拭ってやると、静留はきもちよさそうに目を細めて、柔らかに笑んだ。

「これならよごれない。」

さらに彼は得意げにそんなことを言って。

大変可愛らしいがそれとこれとは別である。

「静留。」

少し強めにglareを放ちながら低い声で言うと、彼はびくりと肩を跳ねさせた。

「きもちよかったよ。でも、苦かったでしょう。もう口ではしないって約束できる?」

「いやっ!」

怯えた目をしているのに、静留は頑なに首を横に振り、ほっぺたを再び膨らませる。

「嫌じゃない。静留が辛いのは嫌だって言ったでしょう?」

「にがいけど、東弥さんのならきもちいい。東弥さんもきもちいのに、しちゃいけないの…?」

言い聞かせても、今度は涙目で反論された。

東弥さんのなら気持ちいい、と言う殺し文句に素直に喜んでしまうし、静留の涙には敵わないし、自分が憎らしい。

「だめじゃないから、泣かないで。」

さらりとした黒髪を撫でてやると、大きな瞳に浮かぶ滴が一筋落ちて、それ以上は流れてこなかった。

東弥はほっとして、立ち上がり机の引き出しを探る。

そしてバイトで生徒にもらったキャンディーを取り出し、口に含んだ。

「静留、口開けて。」

不思議そうに開いた小さな口に、マスカット味のキャンディーを口移しで押し込む。

「気持ちよかったよ。ありがとう。よくがんばったね。偉かった。」

甘いglareを放ちながら頭を撫でてやれば、静留は嬉しそうにカラコロと飴玉を転がして。

「あまい…。」

両手でほっぺたをおさえて、無邪気に笑うのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...