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一番近くに
アメリアさんへ
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朝目が覚めて目に入ってきた光景に、ああ、戻ってきたんだなと安堵した。帰る家、と言うものが僕にあるとしたら、ここなのだと思う。
アシュリーは午後から仕事に行くので、今日は午前中にアメリアさんの家に挨拶に行くことになっている。
着替えてから階段を降りていくと、焦げたバターの香りがふわっと鼻を掠めた。
「おはよう。朝はパンケーキにしたよ。」
まだパジャマのままのアシュリーが、ちょうど今出来たところだから、とメープルシロップとバターを添えたパンケーキをテーブルに運んでいた。
ああ、帰ってきたんだな、と彼を見て思う。でも、恋人、という実感は全くない。当たり前の毎日の光景だ。
今はそれがとても幸せなものだと前以上にわかっている。
「ありがとう。美味しそうだ。」
「いただきます」
「どうぞ」
手を洗って食卓に着くと、アシュリーも目の前に座って食べ始めた。耳にきらめくピアスが元からすでに美しすぎる彼の美しさを一層引き立たせているなと、思わず見惚れそうになる。
いけないいけない、とナイフでパンケーキに切れ目を入れバターを絡ませて口に運ぶ。
ほんのりの甘さとバターの香ばしさが同時に鼻に抜けて、美味しい。飲み物は久しぶりに飲むココアで、ミルクがたっぷり入った大好きな味だった。
「昨日はよく寝れた?」
「うん。ここにいるとすごく落ち着く。…あれ、アシュリーはあんまりよく寝れなかった?」
じっとみると、昨日よりは薄くなったが、目の下にはくまが残っている。サラサラの髪の毛は少しうねっており、まぶたも少しいつもより下がっている。
「…まあ、ちょっとね。」
そう言ってはぐらかした彼は、なぜか少し顔を赤くしながら、大丈夫だからと手を伸ばして僕の頭を撫でた。
アメリアさんの家に着くと、リュックを背負ったレオが駆け寄ってきた。そろそろ学校に出る時間だ。
「レオ、おはよう。行ってらっしゃい。」
そう声をかけると、何か言いたげな顔をしながらも、元気よく行ってきますといってレオは学校に向かった。
「ほら、アシュリー。
結局、家族の構成なんてあんまり関係ないのよ。1番大切な人が、1番近くにいるのが最高の幸せなんだから。」
アメリアさんはやっぱりね、と言ってあっさりと送り出してくれた。
「ありがとうございました。とてもお世話になりました。お菓子は、家でも作ってみます。」
そう言うと、アメリアさんは名残惜しそうにこちらをみてから、優しい笑顔を浮かべる。
「もう、ここはあなたの家でもあるのよ。いつでも帰ってきてね。
あと、アシュリーはもっと顔を出しなさい。じゃあ、おしあわせにね。」
最後の言葉に何か深い意味を感じなくもないが、気にしないことにした。僕ももう家族、と言う言葉に、胸がじんわり温かくなる。
アシュリーも、アシュリーの周りも、ここはとてもあたたかい。
帰り道。アシュリーはどんな気持ちで僕を彼女に預けたのだろう。彼の横顔を見ながらふと疑問に思った。
オレンジとブラウンのピアスは、綺麗な彼の横顔をより綺麗に見せてくれる。
彼は、僕がそばにいるように感じたいからこれをつけたのだろうか。なら、なぜそのあとすぐに送り出したのだろう。
まあいいか。
今がしあわせだから。なんとなく触りたくて、自分のピアスを触る。
「テオ、嬉しそう。」
気づけばアシュリーがこちらを見ていた。
「幸せだよ。」
一旦足を止めてアシュリーの方に向き直る。
鏡はないけれど、今自分は、うまく笑えているんじゃないかと思った。
アシュリーは午後から仕事に行くので、今日は午前中にアメリアさんの家に挨拶に行くことになっている。
着替えてから階段を降りていくと、焦げたバターの香りがふわっと鼻を掠めた。
「おはよう。朝はパンケーキにしたよ。」
まだパジャマのままのアシュリーが、ちょうど今出来たところだから、とメープルシロップとバターを添えたパンケーキをテーブルに運んでいた。
ああ、帰ってきたんだな、と彼を見て思う。でも、恋人、という実感は全くない。当たり前の毎日の光景だ。
今はそれがとても幸せなものだと前以上にわかっている。
「ありがとう。美味しそうだ。」
「いただきます」
「どうぞ」
手を洗って食卓に着くと、アシュリーも目の前に座って食べ始めた。耳にきらめくピアスが元からすでに美しすぎる彼の美しさを一層引き立たせているなと、思わず見惚れそうになる。
いけないいけない、とナイフでパンケーキに切れ目を入れバターを絡ませて口に運ぶ。
ほんのりの甘さとバターの香ばしさが同時に鼻に抜けて、美味しい。飲み物は久しぶりに飲むココアで、ミルクがたっぷり入った大好きな味だった。
「昨日はよく寝れた?」
「うん。ここにいるとすごく落ち着く。…あれ、アシュリーはあんまりよく寝れなかった?」
じっとみると、昨日よりは薄くなったが、目の下にはくまが残っている。サラサラの髪の毛は少しうねっており、まぶたも少しいつもより下がっている。
「…まあ、ちょっとね。」
そう言ってはぐらかした彼は、なぜか少し顔を赤くしながら、大丈夫だからと手を伸ばして僕の頭を撫でた。
アメリアさんの家に着くと、リュックを背負ったレオが駆け寄ってきた。そろそろ学校に出る時間だ。
「レオ、おはよう。行ってらっしゃい。」
そう声をかけると、何か言いたげな顔をしながらも、元気よく行ってきますといってレオは学校に向かった。
「ほら、アシュリー。
結局、家族の構成なんてあんまり関係ないのよ。1番大切な人が、1番近くにいるのが最高の幸せなんだから。」
アメリアさんはやっぱりね、と言ってあっさりと送り出してくれた。
「ありがとうございました。とてもお世話になりました。お菓子は、家でも作ってみます。」
そう言うと、アメリアさんは名残惜しそうにこちらをみてから、優しい笑顔を浮かべる。
「もう、ここはあなたの家でもあるのよ。いつでも帰ってきてね。
あと、アシュリーはもっと顔を出しなさい。じゃあ、おしあわせにね。」
最後の言葉に何か深い意味を感じなくもないが、気にしないことにした。僕ももう家族、と言う言葉に、胸がじんわり温かくなる。
アシュリーも、アシュリーの周りも、ここはとてもあたたかい。
帰り道。アシュリーはどんな気持ちで僕を彼女に預けたのだろう。彼の横顔を見ながらふと疑問に思った。
オレンジとブラウンのピアスは、綺麗な彼の横顔をより綺麗に見せてくれる。
彼は、僕がそばにいるように感じたいからこれをつけたのだろうか。なら、なぜそのあとすぐに送り出したのだろう。
まあいいか。
今がしあわせだから。なんとなく触りたくて、自分のピアスを触る。
「テオ、嬉しそう。」
気づけばアシュリーがこちらを見ていた。
「幸せだよ。」
一旦足を止めてアシュリーの方に向き直る。
鏡はないけれど、今自分は、うまく笑えているんじゃないかと思った。
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