12 / 68
クリスマス
ピアスをつけて
しおりを挟む
「そんなかおするの、珍しいね。気に入ってもらえた?」
愛おしそうに目を細められて、不覚にもドキッとしてしまう。
無表情で殴ってもつまらないと言われ続けてきたが、気に入ったという表情を作れたのかと思うと嬉しかった。
彼と過ごしてきたから表情が少しは豊かになったのだろうか。
「うん。すごく。ありがとう。それで、」
「どうした?」
「僕もつけたいから、その、
…怖いからアシュリーがあけてくれる?」
アシュリーがしてくれたように、自分もそれを身に付けたいと思った。
ピアスなら外すこともないだろうから、失くさないだろうし。
鏡を見たらアシュリーがいなくても彼の瞳がこちらを見ているように感じるかもしれない。
自分で自分の耳に穴をあけるのがこわい、なんて子供っぽいかもしれない。
でも、アシュリーにあけてもらう方が、自分でするよりもずっと怖くない気がした。
「じゃあ、体洗った後でね。とりあえずケーキを食べてしまおう。」
「ありがとう。」
少し驚いたように見えたが、あっさりと許可してくれた。痛いはずなのに、このピアスをアシュリーにつけてもらえるのが楽しみだと思ってしまう。
「一応確認だけど、本当にいいんだね?痛いし、一度あけたらピアスはなかなか外せないよ。」
アシュリーが裁縫で使うより太めの針とピアスを消毒しながら聞いてくる。
針を持っている姿がとても様になっていて、その消毒を慣れた感じで真剣に行っているところになるほど医師っぽいな、となんとなく思った。ただの偏見かもしれないけれど。
そしてなぜかその仕草がなんというか色っぽい。
「テオ、聞いてる?」
ぼーっと見惚れてしまって、返事を忘れていたことに気付きハッとする。
「問題ない。ずっとつけていたい。」
「わかった。じゃあ、じっとしててね。」
針とピアスを持ったアシュリーが近づいてきて、真剣な眼差しで僕の耳を掴む。少しくすぐったくてピクッと動くと、動かないでといつもよりトーンの低い声で囁かれた。
彼の顔も近くてただでさえ緊張しているのに、その声を聞いて顔が熱くなるのを感じた。それを知られたくなくて、動かないように体を硬直させる。
針を持っている手が近づいてくることより、真剣な彼の表情の方に目がいってしまう。
綺麗で美しく、そして格好いい。そんなことを考えているうちに心臓の鼓動が止まらなくなってしまった。
「テオ、そんなに見つめられると照れる。」
全く照れていないような表情だが、気づかれていたかと急に恥ずかしくなる。
その瞬間に耳たぶの一点に痛みが一瞬だけ走った。そして彼が手早く針とピアスを持ち替えてピアスが入れられた。
とはいえ針が入れられた時は見とれているのに気付かれて恥ずかしい、という気持ちで混乱していたため、意外なくらいあっさりと終わったように感じていた。
「ひとつ終わったよ。もう1つは今度にする?」
後からじわじわくる痛みにじっと耐えていると、アシュリーはそれに気づいたのか、そう聞いてきた。
「こ、今度で。」
「わかった。じゃあ今日は、お休みなさい。」
優しく頭を撫でられて、そのあともう一度真剣な目で大丈夫だね?と耳を確認された。
そして彼に離された途端におやすみなさい、と一言だけ言って不自然なくらいいそいそと部屋を出た。
「はぁーーーーーっ。」
ゆっくりと部屋へと戻ると、深くため息をついた。なんだかとてもドキドキする。
もう1つの耳を今度にするといった理由は、どちらかといえば痛みではなくこのドキドキの方にある。
あんなに真剣な表情で、あんなに近くて、こちらの耳をじっと見つめて針を刺す姿を見て、心臓が飛び出そうだった。
いつも抱きしめられた時などにドキドキしているが、その比ではなかった。
特にあの低い声。あの声で次囁かれたら死んでしまうのではないかと思う。緊張、とは違う、辛さ、とも違う…トキメキ…?のようなドキドキで心臓がもたない。
それでも、鏡を見て自分の耳にあの綺麗な宝石が煌めいているのをみると、顔がにやけてしまった。なんだかこの顔は気持ち悪い気がする。
自分にはもったいないようなプレゼントだけれど、彼の瞳に似たこの宝石が自分の一部になっている、というだけでこの上ない幸福を感じた。あの綺麗な、僕を救ってくれた大好きな人の瞳。
ベッドの上に寝そべり目を瞑るとまたあのアシュリーの真剣な表情がフラッシュバックしてきた。
もうダメだと思いながら残りの毛糸で自分の長い髪をまとめるための髪留めを無心で編み始める。
手袋は似合っていたけど、指がとても長くて綺麗だからそれが隠れちゃうのはもったいないな。
そんなことを思っては、また変な方向に考えてしまい、最近の自分はなんだかおかしいと思った。
頭の中でぐるぐると考えの巡る忙しく夜はまだ終わらない。
愛おしそうに目を細められて、不覚にもドキッとしてしまう。
無表情で殴ってもつまらないと言われ続けてきたが、気に入ったという表情を作れたのかと思うと嬉しかった。
彼と過ごしてきたから表情が少しは豊かになったのだろうか。
「うん。すごく。ありがとう。それで、」
「どうした?」
「僕もつけたいから、その、
…怖いからアシュリーがあけてくれる?」
アシュリーがしてくれたように、自分もそれを身に付けたいと思った。
ピアスなら外すこともないだろうから、失くさないだろうし。
鏡を見たらアシュリーがいなくても彼の瞳がこちらを見ているように感じるかもしれない。
自分で自分の耳に穴をあけるのがこわい、なんて子供っぽいかもしれない。
でも、アシュリーにあけてもらう方が、自分でするよりもずっと怖くない気がした。
「じゃあ、体洗った後でね。とりあえずケーキを食べてしまおう。」
「ありがとう。」
少し驚いたように見えたが、あっさりと許可してくれた。痛いはずなのに、このピアスをアシュリーにつけてもらえるのが楽しみだと思ってしまう。
「一応確認だけど、本当にいいんだね?痛いし、一度あけたらピアスはなかなか外せないよ。」
アシュリーが裁縫で使うより太めの針とピアスを消毒しながら聞いてくる。
針を持っている姿がとても様になっていて、その消毒を慣れた感じで真剣に行っているところになるほど医師っぽいな、となんとなく思った。ただの偏見かもしれないけれど。
そしてなぜかその仕草がなんというか色っぽい。
「テオ、聞いてる?」
ぼーっと見惚れてしまって、返事を忘れていたことに気付きハッとする。
「問題ない。ずっとつけていたい。」
「わかった。じゃあ、じっとしててね。」
針とピアスを持ったアシュリーが近づいてきて、真剣な眼差しで僕の耳を掴む。少しくすぐったくてピクッと動くと、動かないでといつもよりトーンの低い声で囁かれた。
彼の顔も近くてただでさえ緊張しているのに、その声を聞いて顔が熱くなるのを感じた。それを知られたくなくて、動かないように体を硬直させる。
針を持っている手が近づいてくることより、真剣な彼の表情の方に目がいってしまう。
綺麗で美しく、そして格好いい。そんなことを考えているうちに心臓の鼓動が止まらなくなってしまった。
「テオ、そんなに見つめられると照れる。」
全く照れていないような表情だが、気づかれていたかと急に恥ずかしくなる。
その瞬間に耳たぶの一点に痛みが一瞬だけ走った。そして彼が手早く針とピアスを持ち替えてピアスが入れられた。
とはいえ針が入れられた時は見とれているのに気付かれて恥ずかしい、という気持ちで混乱していたため、意外なくらいあっさりと終わったように感じていた。
「ひとつ終わったよ。もう1つは今度にする?」
後からじわじわくる痛みにじっと耐えていると、アシュリーはそれに気づいたのか、そう聞いてきた。
「こ、今度で。」
「わかった。じゃあ今日は、お休みなさい。」
優しく頭を撫でられて、そのあともう一度真剣な目で大丈夫だね?と耳を確認された。
そして彼に離された途端におやすみなさい、と一言だけ言って不自然なくらいいそいそと部屋を出た。
「はぁーーーーーっ。」
ゆっくりと部屋へと戻ると、深くため息をついた。なんだかとてもドキドキする。
もう1つの耳を今度にするといった理由は、どちらかといえば痛みではなくこのドキドキの方にある。
あんなに真剣な表情で、あんなに近くて、こちらの耳をじっと見つめて針を刺す姿を見て、心臓が飛び出そうだった。
いつも抱きしめられた時などにドキドキしているが、その比ではなかった。
特にあの低い声。あの声で次囁かれたら死んでしまうのではないかと思う。緊張、とは違う、辛さ、とも違う…トキメキ…?のようなドキドキで心臓がもたない。
それでも、鏡を見て自分の耳にあの綺麗な宝石が煌めいているのをみると、顔がにやけてしまった。なんだかこの顔は気持ち悪い気がする。
自分にはもったいないようなプレゼントだけれど、彼の瞳に似たこの宝石が自分の一部になっている、というだけでこの上ない幸福を感じた。あの綺麗な、僕を救ってくれた大好きな人の瞳。
ベッドの上に寝そべり目を瞑るとまたあのアシュリーの真剣な表情がフラッシュバックしてきた。
もうダメだと思いながら残りの毛糸で自分の長い髪をまとめるための髪留めを無心で編み始める。
手袋は似合っていたけど、指がとても長くて綺麗だからそれが隠れちゃうのはもったいないな。
そんなことを思っては、また変な方向に考えてしまい、最近の自分はなんだかおかしいと思った。
頭の中でぐるぐると考えの巡る忙しく夜はまだ終わらない。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる