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2人の日々
訪問者と彼の仕事①
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「おはよう。ご飯できてるよ。洗濯ももうしておいた。」
昨日休みだったから、アシュリーは今日1日仕事だろうと思ってゆっくり起きてきた。しかしアシュリーはリビングにいて、読書をしていた。
難しそうな本から目を離し、こちらを見て微笑んでいる。
ダイニングには普段なら家事をしたあとココアと昨日の残りのパン一個、などで1人の時は片付けてしまうのに、サラダとオムレツ、ベーコンと、しっかりおかずが並んでいた。
「あの、ありがとう。いただきます。」
彼はあまり感謝の時に謝る言葉を使われるのが好きではないから、素直に感謝を述べる。
「テオこそ、いつもやってくれてありがとうね。」
そうやって微笑まれたり、感謝されたりすると、こそばゆい気持ちになる。
でも、彼が仕事を2日続けて休む時なんて、あっただろうか…?3年近く一緒にいて、彼の生活リズム大体わかっている。
仕事のことについてはあまり聞かれたくないようだから、聞かないけれど。
一緒にいられるのは嬉しいけれど、編み物をする時間が少なくなってしまうな、と朝食を食べつつ考える。
クリスマスに間に合うだろうか、、、?
「今日は、映画を観に行こうと思うんだけど、どうかな?」
ゆっくり食べていると、ソファーで読書をしながら、再びアシュリーがこちらを覗いてきた。
その目は嬉しそうにキラキラ輝いている。…この人、こんなに表情に出やすかったっけ?いろいろ。
映画…。行ったことがないけれど、聞いたことがある。
昨日、アシュリーと出かけるのは楽しくて嬉しかった。だから誘われたら行ってみたいと思う。
それにしても、いきなり2日続けで外出なんて、一体どうしたんだろう。
「行く。」
そう答えると、嬉しそうに目を細められた。
そんな表情をさせるほどのなにかが僕にあるとは思えないけれど、単純に彼を笑顔にしたのが自分だと考えると嬉しくなる。
「じゃあ、お昼食べてから、行こう。昼も俺が作るから。」
「僕がやるよ。朝作ってもらったし。」
「いや、実は材料を買ってきて、作ろうと思っているものがあるから。」
「じゃあせめて手伝わせて。」
僕の仕事も自分でやろうとする。もしかしたらいらない、と言われているのだろうか、と考えると、いきなり恐怖に包まれた。
「大丈夫だよ。今日はゆっくりしてて。」
やっぱりそうなのだろうか…?不安になっても、こんなことを聞いてそうだよと言われたら僕の心は傷ついて壊れてしまうかもしれない。
そしてもし違えばこんなに愛をくれた彼への恩を仇で返すことになるだろう。だから何も聞かないことにする。
「じゃあ掃除してくるね。そのあと少し部屋で休もうかな。」
「そう、お昼できたら呼ぶね。」
「うん。」
素っ気なくしすぎたかもしれない。でもそうでもしないと何か聞いてしまいそうだった。
いつからこんなに僕はわがままで、甘くなったのだろう。情けない。信じると決めたし、もし仮に裏切られても、彼のくれた優しい日々は無くならないのに。
掃除を終えると部屋に戻り、昨日買った編み物セットを取り出す。
白を基調に、黒い印の入った手袋を作ろうと考える。アシュリーのAという頭文字も、黒で入れよう。
小学校で休み時間は、誰も話しかける人がいないからいつも編み物をしていた。そのせいか、編み始めると、何もかも忘れ、没頭していられた。
アシュリーの手の大きさは僕より一回り大きいから、そのことも忘れずにすこし大き目に編むよう気をつける。
「テオ、お昼できたよ」
呼ばれて気づいて時計を見ると、編み始めてから2時間経っていた。
アシュリーが部屋に入ってくることはあまりないが、もし何かあってもバレないように、引き出しの中に目を止めた編みかけの手袋を入れる。
まだあまり形になっていないが、このペースならクリスマスにはぎりぎり間に合う気がした。
階段を降りてダイニングに向かうと、見慣れない料理が広がっていた。
油で揚げてあるパンと赤いスープ、デザートらしき何かの果物がたくさん入って層になったケーキ。
「久しぶりに、作りたくなったんだ。俺の母が生きていた頃、よく作ってくれてたものなんだ。気に入ってくれると嬉しいんだけど。」
なんでいきなりみたことのないメニューが並んだのか?と疑問に思っていると、彼の方から説明してくれた。
きっと特に意味はないのだろうけど、これにも何か意図があるのだろうか、と勝手に深読みして、また自分に不利な方向に想像しようとしてしまう。
「美味しそう。いただきます。」
席について、まずはパンに手をのばす。どんな味がするのか、甘いのかしょっぱいのかさえも未知だ。
「あつっ!」
揚げたてなのだろうか、見た目よりずっと熱く、驚いて手を引っ込めた。
「ごめん、あつかったね。この紙に包んでたべて。火傷してるといけないから、すこし手を見せて?」
別にこれくらいなんてことはないと思うのに、真剣な眼差しに負けて手を差し出す。
僕の手を優しくつかみ、指や手のひらを優しく彼の指がなぞっていく。その優しさが心地よい。やがて何もないことを確認すると手を返された。
差し出された紙に包んで揚げたパンを食べる。
表面を歯が通過する時に、揚げてあるからカリッとして食感が楽しい。さらに食べ進めていくと中は空洞になっていて何かが入っている。
熱々の中身は塩胡椒やその他の香辛料で味付けされたひき肉で、熱々の肉汁が口の中を満たす。そしてひき肉と一緒に入っているチーズがトロリと溶けてひき肉に絡む。
「美味しい!」
思わず声に出てしまった。そのくらい、初めて食べたけれど作り方を教わり今度は自分が作りたいと思うくらい、おいしい。
「よかった。スープも食べてみて。あったまるよ。」
そう言われ冷めないうちにとスープに手をつける。
程よい塩気とともにすこし甘みがあり、これもとても美味で。
「これもおいしい。」
「そっか、よかった。」
なんども美味しいと伝えると、その度にアシュリーは口元を綻ばせ満面の笑みを浮かべた。
僕が食べるのをみては、嬉しそうに目を細める。自分の分は食べないのかとそちらを見ると、彼はもう食べ終わっていた。
昨日休みだったから、アシュリーは今日1日仕事だろうと思ってゆっくり起きてきた。しかしアシュリーはリビングにいて、読書をしていた。
難しそうな本から目を離し、こちらを見て微笑んでいる。
ダイニングには普段なら家事をしたあとココアと昨日の残りのパン一個、などで1人の時は片付けてしまうのに、サラダとオムレツ、ベーコンと、しっかりおかずが並んでいた。
「あの、ありがとう。いただきます。」
彼はあまり感謝の時に謝る言葉を使われるのが好きではないから、素直に感謝を述べる。
「テオこそ、いつもやってくれてありがとうね。」
そうやって微笑まれたり、感謝されたりすると、こそばゆい気持ちになる。
でも、彼が仕事を2日続けて休む時なんて、あっただろうか…?3年近く一緒にいて、彼の生活リズム大体わかっている。
仕事のことについてはあまり聞かれたくないようだから、聞かないけれど。
一緒にいられるのは嬉しいけれど、編み物をする時間が少なくなってしまうな、と朝食を食べつつ考える。
クリスマスに間に合うだろうか、、、?
「今日は、映画を観に行こうと思うんだけど、どうかな?」
ゆっくり食べていると、ソファーで読書をしながら、再びアシュリーがこちらを覗いてきた。
その目は嬉しそうにキラキラ輝いている。…この人、こんなに表情に出やすかったっけ?いろいろ。
映画…。行ったことがないけれど、聞いたことがある。
昨日、アシュリーと出かけるのは楽しくて嬉しかった。だから誘われたら行ってみたいと思う。
それにしても、いきなり2日続けで外出なんて、一体どうしたんだろう。
「行く。」
そう答えると、嬉しそうに目を細められた。
そんな表情をさせるほどのなにかが僕にあるとは思えないけれど、単純に彼を笑顔にしたのが自分だと考えると嬉しくなる。
「じゃあ、お昼食べてから、行こう。昼も俺が作るから。」
「僕がやるよ。朝作ってもらったし。」
「いや、実は材料を買ってきて、作ろうと思っているものがあるから。」
「じゃあせめて手伝わせて。」
僕の仕事も自分でやろうとする。もしかしたらいらない、と言われているのだろうか、と考えると、いきなり恐怖に包まれた。
「大丈夫だよ。今日はゆっくりしてて。」
やっぱりそうなのだろうか…?不安になっても、こんなことを聞いてそうだよと言われたら僕の心は傷ついて壊れてしまうかもしれない。
そしてもし違えばこんなに愛をくれた彼への恩を仇で返すことになるだろう。だから何も聞かないことにする。
「じゃあ掃除してくるね。そのあと少し部屋で休もうかな。」
「そう、お昼できたら呼ぶね。」
「うん。」
素っ気なくしすぎたかもしれない。でもそうでもしないと何か聞いてしまいそうだった。
いつからこんなに僕はわがままで、甘くなったのだろう。情けない。信じると決めたし、もし仮に裏切られても、彼のくれた優しい日々は無くならないのに。
掃除を終えると部屋に戻り、昨日買った編み物セットを取り出す。
白を基調に、黒い印の入った手袋を作ろうと考える。アシュリーのAという頭文字も、黒で入れよう。
小学校で休み時間は、誰も話しかける人がいないからいつも編み物をしていた。そのせいか、編み始めると、何もかも忘れ、没頭していられた。
アシュリーの手の大きさは僕より一回り大きいから、そのことも忘れずにすこし大き目に編むよう気をつける。
「テオ、お昼できたよ」
呼ばれて気づいて時計を見ると、編み始めてから2時間経っていた。
アシュリーが部屋に入ってくることはあまりないが、もし何かあってもバレないように、引き出しの中に目を止めた編みかけの手袋を入れる。
まだあまり形になっていないが、このペースならクリスマスにはぎりぎり間に合う気がした。
階段を降りてダイニングに向かうと、見慣れない料理が広がっていた。
油で揚げてあるパンと赤いスープ、デザートらしき何かの果物がたくさん入って層になったケーキ。
「久しぶりに、作りたくなったんだ。俺の母が生きていた頃、よく作ってくれてたものなんだ。気に入ってくれると嬉しいんだけど。」
なんでいきなりみたことのないメニューが並んだのか?と疑問に思っていると、彼の方から説明してくれた。
きっと特に意味はないのだろうけど、これにも何か意図があるのだろうか、と勝手に深読みして、また自分に不利な方向に想像しようとしてしまう。
「美味しそう。いただきます。」
席について、まずはパンに手をのばす。どんな味がするのか、甘いのかしょっぱいのかさえも未知だ。
「あつっ!」
揚げたてなのだろうか、見た目よりずっと熱く、驚いて手を引っ込めた。
「ごめん、あつかったね。この紙に包んでたべて。火傷してるといけないから、すこし手を見せて?」
別にこれくらいなんてことはないと思うのに、真剣な眼差しに負けて手を差し出す。
僕の手を優しくつかみ、指や手のひらを優しく彼の指がなぞっていく。その優しさが心地よい。やがて何もないことを確認すると手を返された。
差し出された紙に包んで揚げたパンを食べる。
表面を歯が通過する時に、揚げてあるからカリッとして食感が楽しい。さらに食べ進めていくと中は空洞になっていて何かが入っている。
熱々の中身は塩胡椒やその他の香辛料で味付けされたひき肉で、熱々の肉汁が口の中を満たす。そしてひき肉と一緒に入っているチーズがトロリと溶けてひき肉に絡む。
「美味しい!」
思わず声に出てしまった。そのくらい、初めて食べたけれど作り方を教わり今度は自分が作りたいと思うくらい、おいしい。
「よかった。スープも食べてみて。あったまるよ。」
そう言われ冷めないうちにとスープに手をつける。
程よい塩気とともにすこし甘みがあり、これもとても美味で。
「これもおいしい。」
「そっか、よかった。」
なんども美味しいと伝えると、その度にアシュリーは口元を綻ばせ満面の笑みを浮かべた。
僕が食べるのをみては、嬉しそうに目を細める。自分の分は食べないのかとそちらを見ると、彼はもう食べ終わっていた。
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