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転生石原莞爾
第35話 最後の事前打ち合わせ
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=呉=
世界最大にして世界最強の超戦艦は満州型海防戦艦に挟まれている。日本海軍の最高機密事項と徹底的な秘匿が図られた。あえて偽りの情報を流すことはもちろん、物理的に視界をシャットアウトし、海軍将校の中でも真の姿を知る者は少ないだろう。そんな超戦艦は格好の会議場だった。連合艦隊司令長官と参謀は密会の場に重宝している。
「御前会議が開かれる前にウェーク島攻略とダッチハーバー陽動空襲を伝えてある。大和はシンガポールより出撃する英海軍東洋艦隊の迎撃に出撃する予定に変更は無い」
「我々の戦略は米艦隊を誘き寄せることにありました。米艦隊を引きずり込んで基地航空隊と空母機動部隊が撃滅する。米国市民に厭戦気分を蔓延させてフィリピンとグアム程度は諦めようと」
「それが上手くいけば苦労しない。やはり、ハワイを撃つべきではないのか。黒島は賛同してくれたぞ」
「あいにく、黒島元主席参謀は適性なしと陸上勤務に送られています。三和義勇主席参謀こそ長官の右腕に相応しかった。私は左腕で結構でございます」
「よく言う。その若さで次期主席参謀を確実としているのに」
1941年も終わりそうな11月下旬に御前会議を射程に収める密会を繰り返した。日本海軍連合艦隊は軍令部に匹敵する発言力を有する。山本長官と参謀の一言が行き先を変更する力を秘めていた。軍令部と連合艦隊は毎日のように対立する。陸軍を味方につけた方が優勢を確保した。石原莞爾ら満州派の機嫌を取った者が勝利する。石原莞爾を筆頭に陸軍は簡単に首を縦に振らないことで有名だ。特に山本の秘蔵のハワイ奇襲攻撃作戦はピシャっと封じられる。
連合艦隊は陸軍と協議した末にウェーク島攻略や南方電撃作戦を間接的に支援する陽動作戦とダッチハーバー空襲作戦に落ち着いた。アラスカのダッチハーバーは北方海域の大拠点である。ハワイに比べれると遥かに小さく太平洋艦隊が駐留することもなかった。名ばかりの臨時的な北方艦隊が編成されるばかりで巡洋艦と駆逐艦の小規模が常駐する。艦艇運用の都合で旧式戦艦や航空母艦が一時的に滞在することはあれどダッチハーバーひいてはアラスカの重要度は低く見積もられた。
日本海軍は自身の遠洋拠点であるトラック泊地を防衛したい。これの前哨基地にウェーク島を欲した。ウェーク島は米軍基地のあるミッドウェー島やハワイ真珠湾基地から近く、潜水艦と長距離偵察機、飛行艇を配置して強硬偵察の母地に適した。米海軍の一挙手一投足を監視する。米軍も要塞化を進めているようで頑強な抵抗を予想した。ハワイ攻撃作戦に充当するはずだった大機動部隊の一部を割いて陸軍特殊船も確保して万全を期す。
「英海軍東洋艦隊の所在はわかるか」
「あいにく、詳細な位置までは掴めていません。しかし、現地の諜報員と協力者が曰くキング・ジョージⅤ世級戦艦とレナウン級巡洋戦艦がシンガポールに集結する予定です。さらに、何かしらの航空母艦、護衛の駆逐艦も集結する」
「栄光の連合艦隊が相手するに不足ばかり。46cm砲が全てを破壊すると砲術班が息巻きそうで」
「あぁ。砲術長の威勢の良さが容易に浮かんでくる」
「私は未だに納得できておりません。鹿児島や仏印から陸攻を飛ばして一方的に撃滅する方が安全ではありませんか。わざわざ、連合艦隊が本土から出張ることは非効率です」
「樋端君は若いね。そういうことを言うと源田航空参謀が夜間雷撃だと言い始めよう」
「なるほど、よく理解しました」
「夜間雷撃は諦めていません」
陸軍の南方電撃作戦に最大の障害はマレー半島のジットラ・ラインでもシンガポール大要塞でもなかった。英海軍の東洋艦隊以外に何があろうかと断言する。英海軍の嘗ての栄光は薄れた。日本海軍が世界最強の海軍の座を誇る。もっとも、明確な戦果は日露戦争時の日本海海戦ぐらいだ。どうも威光に欠けて欧米人を圧倒するに不足が否めない。
英海軍の東洋艦隊を撃滅することは英国の権威を失墜させた。欧米人の鼻っ柱をへし折る。英国を屈服させずとも離脱に追い込むのだ。彼らにお灸を据えるどころか精神的な支柱を折る。極東から手を引かせて眼前のナチス・ドイツらファシストの戦いに集中させた。
パフォーマンスの舞台をマレー沖の大海戦に定める。日本海軍の華たる連合艦隊が英海軍の東洋艦隊を砲撃戦の末に破ること以上にドラマチックな展開があるわけがなかった。世界最強の超戦艦が敵弾を弾き返して無類の防御力を見せつけ、圧倒的な火力を以て一撃で沈めるという、一大もエンターテインメントを志向する。
「連合艦隊も空母を2隻か3隻を連れて行ってもよろしいのでは?」
「それは否定しない。龍驤型軽空母を連れていくことが適当か」
「それが良いと思われます。雲竜型と大鳳型は貴重な量産型空母です。ここは戦時量産型の龍驤型を用いるべき」
「龍驤の欠陥を洗いざらい改善した量産型軽空母に隙はありません。艦上偵察機も揃えました」
「艦隊随伴型軽空母は艦上戦闘機と艦上偵察機だけでよい。なんという極論だが合理的で正鵠を射た。巡洋艦の水偵乗りが文句を言ってきそうだがな」
「それなら扶桑型と伊勢型の襲撃機に回せばよいことです。美濃部は水上機乗りの出身ですから」
「そいつは妙案だ」
日本海軍が古典的な戦艦同士の撃ち合いこと艦隊決戦を望むことは異例も異例だが、充実した索敵による先手必勝は変わらず、陸地か海上か空中かの如何を問わなかった。とにかく相手よりも先に発見して先手を打った者が有利である。もう言うまでもないことだ。これをひっくり返すことは容易でない。日本海海戦はロシア帝国海軍のバルチック艦隊を大日本帝国海軍の特設巡洋艦が発見して通報したことが大勝利を招致した。
艦隊が索敵を行うに水上偵察機が一般的である。日本海軍も巡洋艦の水偵が索敵を担当した。海洋国家故に熱心な水上機の開発が実を結び、高性能機が占めて各国の水上機が玩具と見ることでき、水上機は補助ながら主力機を立派に勤め上げる。米軍の主力戦闘機に高速爆撃機を撃墜する大金星を挙げることもあった。
水偵に頼り切ることも危険である。
海軍は専門の艦上偵察機を要求した。
「英海軍東洋艦隊を撃破した後は弾薬と食料、燃料が尽きるまでシンガポールを砲撃する。英軍が押し込まれた先は大要塞だが、陸上と海上、空中の三方向から包囲した。あっという間に陥落しよう」
「どれだけ分厚いコンクリートを押し立てようと構いません。46cm徹甲弾が貫徹します。この巨砲を前にして平然を保てるは皆無です。最初はなんと無駄な戦艦を造ると思いましたが使いようで大化けする」
「最初は艦隊決戦の主役を与えたが今は空母機動部隊の護衛に用いられた。石原大臣から何度も釘を刺されている。戦艦を出し惜しむ愚行は認められないとね」
「奴は気に食わないもんですが本当に恐ろしい男です」
「あまり好みでないが仕方あるまい。石原なくして今の日本はなかろう」
「長官!?」
山本長官の爆弾発言に三和主席参謀と樋端参謀補佐は驚きを隠せない。当の本人は苦虫を噛み潰したようで納得を余儀なくされた。山本五十六という軍人は主人公の立場を得ることが多いと雖も間違う時は間違うのである。完璧な人間は軍人にも存在しなかった。それ故に周囲が修正を加えなければならない。長官の側近たる主席参謀以下が修正を加えるが、若者のフレッシュさも凝り固まった思想に呑み込まれ、旧態依然を打破するのが陸軍の満州派と言うのだから驚きの凝縮だった。
「認めたくないものだよ。石原莞爾が陸軍大臣でなければ米内さんが首相になることは起こり得なかった。長谷川さんや堀さんの復権もなかった。あいつは未来を見透かしている」
「未来予知者でありますか? にわかには信じがたい」
「そうだな。簡単に信じられては降ろすところだった」
「長官は人が悪うございます」
「すまん、すまん。お詫びに水饅頭をごちそうしようか。間宮の職人が腕を振るってくれた」
「やむを得ませんね」
「まったくです」
大和艦内に笑い声が響いた。
続く
世界最大にして世界最強の超戦艦は満州型海防戦艦に挟まれている。日本海軍の最高機密事項と徹底的な秘匿が図られた。あえて偽りの情報を流すことはもちろん、物理的に視界をシャットアウトし、海軍将校の中でも真の姿を知る者は少ないだろう。そんな超戦艦は格好の会議場だった。連合艦隊司令長官と参謀は密会の場に重宝している。
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1941年も終わりそうな11月下旬に御前会議を射程に収める密会を繰り返した。日本海軍連合艦隊は軍令部に匹敵する発言力を有する。山本長官と参謀の一言が行き先を変更する力を秘めていた。軍令部と連合艦隊は毎日のように対立する。陸軍を味方につけた方が優勢を確保した。石原莞爾ら満州派の機嫌を取った者が勝利する。石原莞爾を筆頭に陸軍は簡単に首を縦に振らないことで有名だ。特に山本の秘蔵のハワイ奇襲攻撃作戦はピシャっと封じられる。
連合艦隊は陸軍と協議した末にウェーク島攻略や南方電撃作戦を間接的に支援する陽動作戦とダッチハーバー空襲作戦に落ち着いた。アラスカのダッチハーバーは北方海域の大拠点である。ハワイに比べれると遥かに小さく太平洋艦隊が駐留することもなかった。名ばかりの臨時的な北方艦隊が編成されるばかりで巡洋艦と駆逐艦の小規模が常駐する。艦艇運用の都合で旧式戦艦や航空母艦が一時的に滞在することはあれどダッチハーバーひいてはアラスカの重要度は低く見積もられた。
日本海軍は自身の遠洋拠点であるトラック泊地を防衛したい。これの前哨基地にウェーク島を欲した。ウェーク島は米軍基地のあるミッドウェー島やハワイ真珠湾基地から近く、潜水艦と長距離偵察機、飛行艇を配置して強硬偵察の母地に適した。米海軍の一挙手一投足を監視する。米軍も要塞化を進めているようで頑強な抵抗を予想した。ハワイ攻撃作戦に充当するはずだった大機動部隊の一部を割いて陸軍特殊船も確保して万全を期す。
「英海軍東洋艦隊の所在はわかるか」
「あいにく、詳細な位置までは掴めていません。しかし、現地の諜報員と協力者が曰くキング・ジョージⅤ世級戦艦とレナウン級巡洋戦艦がシンガポールに集結する予定です。さらに、何かしらの航空母艦、護衛の駆逐艦も集結する」
「栄光の連合艦隊が相手するに不足ばかり。46cm砲が全てを破壊すると砲術班が息巻きそうで」
「あぁ。砲術長の威勢の良さが容易に浮かんでくる」
「私は未だに納得できておりません。鹿児島や仏印から陸攻を飛ばして一方的に撃滅する方が安全ではありませんか。わざわざ、連合艦隊が本土から出張ることは非効率です」
「樋端君は若いね。そういうことを言うと源田航空参謀が夜間雷撃だと言い始めよう」
「なるほど、よく理解しました」
「夜間雷撃は諦めていません」
陸軍の南方電撃作戦に最大の障害はマレー半島のジットラ・ラインでもシンガポール大要塞でもなかった。英海軍の東洋艦隊以外に何があろうかと断言する。英海軍の嘗ての栄光は薄れた。日本海軍が世界最強の海軍の座を誇る。もっとも、明確な戦果は日露戦争時の日本海海戦ぐらいだ。どうも威光に欠けて欧米人を圧倒するに不足が否めない。
英海軍の東洋艦隊を撃滅することは英国の権威を失墜させた。欧米人の鼻っ柱をへし折る。英国を屈服させずとも離脱に追い込むのだ。彼らにお灸を据えるどころか精神的な支柱を折る。極東から手を引かせて眼前のナチス・ドイツらファシストの戦いに集中させた。
パフォーマンスの舞台をマレー沖の大海戦に定める。日本海軍の華たる連合艦隊が英海軍の東洋艦隊を砲撃戦の末に破ること以上にドラマチックな展開があるわけがなかった。世界最強の超戦艦が敵弾を弾き返して無類の防御力を見せつけ、圧倒的な火力を以て一撃で沈めるという、一大もエンターテインメントを志向する。
「連合艦隊も空母を2隻か3隻を連れて行ってもよろしいのでは?」
「それは否定しない。龍驤型軽空母を連れていくことが適当か」
「それが良いと思われます。雲竜型と大鳳型は貴重な量産型空母です。ここは戦時量産型の龍驤型を用いるべき」
「龍驤の欠陥を洗いざらい改善した量産型軽空母に隙はありません。艦上偵察機も揃えました」
「艦隊随伴型軽空母は艦上戦闘機と艦上偵察機だけでよい。なんという極論だが合理的で正鵠を射た。巡洋艦の水偵乗りが文句を言ってきそうだがな」
「それなら扶桑型と伊勢型の襲撃機に回せばよいことです。美濃部は水上機乗りの出身ですから」
「そいつは妙案だ」
日本海軍が古典的な戦艦同士の撃ち合いこと艦隊決戦を望むことは異例も異例だが、充実した索敵による先手必勝は変わらず、陸地か海上か空中かの如何を問わなかった。とにかく相手よりも先に発見して先手を打った者が有利である。もう言うまでもないことだ。これをひっくり返すことは容易でない。日本海海戦はロシア帝国海軍のバルチック艦隊を大日本帝国海軍の特設巡洋艦が発見して通報したことが大勝利を招致した。
艦隊が索敵を行うに水上偵察機が一般的である。日本海軍も巡洋艦の水偵が索敵を担当した。海洋国家故に熱心な水上機の開発が実を結び、高性能機が占めて各国の水上機が玩具と見ることでき、水上機は補助ながら主力機を立派に勤め上げる。米軍の主力戦闘機に高速爆撃機を撃墜する大金星を挙げることもあった。
水偵に頼り切ることも危険である。
海軍は専門の艦上偵察機を要求した。
「英海軍東洋艦隊を撃破した後は弾薬と食料、燃料が尽きるまでシンガポールを砲撃する。英軍が押し込まれた先は大要塞だが、陸上と海上、空中の三方向から包囲した。あっという間に陥落しよう」
「どれだけ分厚いコンクリートを押し立てようと構いません。46cm徹甲弾が貫徹します。この巨砲を前にして平然を保てるは皆無です。最初はなんと無駄な戦艦を造ると思いましたが使いようで大化けする」
「最初は艦隊決戦の主役を与えたが今は空母機動部隊の護衛に用いられた。石原大臣から何度も釘を刺されている。戦艦を出し惜しむ愚行は認められないとね」
「奴は気に食わないもんですが本当に恐ろしい男です」
「あまり好みでないが仕方あるまい。石原なくして今の日本はなかろう」
「長官!?」
山本長官の爆弾発言に三和主席参謀と樋端参謀補佐は驚きを隠せない。当の本人は苦虫を噛み潰したようで納得を余儀なくされた。山本五十六という軍人は主人公の立場を得ることが多いと雖も間違う時は間違うのである。完璧な人間は軍人にも存在しなかった。それ故に周囲が修正を加えなければならない。長官の側近たる主席参謀以下が修正を加えるが、若者のフレッシュさも凝り固まった思想に呑み込まれ、旧態依然を打破するのが陸軍の満州派と言うのだから驚きの凝縮だった。
「認めたくないものだよ。石原莞爾が陸軍大臣でなければ米内さんが首相になることは起こり得なかった。長谷川さんや堀さんの復権もなかった。あいつは未来を見透かしている」
「未来予知者でありますか? にわかには信じがたい」
「そうだな。簡単に信じられては降ろすところだった」
「長官は人が悪うございます」
「すまん、すまん。お詫びに水饅頭をごちそうしようか。間宮の職人が腕を振るってくれた」
「やむを得ませんね」
「まったくです」
大和艦内に笑い声が響いた。
続く
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