旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗

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転生石原莞爾

第6話 石原莞爾は敵なりや?

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現海軍航空本部長は連合艦隊司令長官を確実視された。それ故に地盤固めとして各方面に顔を見せては協力を依頼する。海軍も一枚岩ではないのだ。艦隊派と条約派のいざこざは代表的であろう。海軍は内側の事だけ注視すればよいなんてことはない。それどころか外側の事と陸軍の動きを警戒した。前代未聞のクーデター事件(二・二六事件)と早期鎮圧は記憶に新しい。



「山本さんが連合艦隊司令長官に抜擢された際は陸軍の動きも警戒することに」



「とっくに警戒している。こちらの予備役将校と接触して現役復帰を画策した。陸海軍が融和することで決戦に勝利することができ、逆に仲違いしている間は絶対に勝てんと断言している」



「石原莞爾…でしょうか」



「今や陸軍の重鎮にまで成り上がると、造船計画に強襲艦と輸送艦を捻じ込み、優秀船舶助成施設にまで口を挟んできました。堀さんや長谷川さんが頷けば反論しづらい」



 山本五十六という海軍航空本部長兼海軍次官は気心の知れた側近だけに本音を漏らした。彼は米内光政の推薦から連合艦隊司令長官を確実にしている。最近は対米決戦を見据えた大戦略の構築に忙殺された。海軍の大戦略家は陸軍と政府と交渉する一種の外交に疲弊を感じざるを得ない。



 特に陸軍の石原莞爾という関東軍参謀長(事実上の関東軍トップ)は掴みどころのない切れ者と警戒を厳に引き上げた。彼は張作霖を抱き込んで満州一帯を事実上の制圧を果たした。汪兆銘ら親日派勢力によるクーデターを裏から支援した。あれだけ難儀した中華民国の同盟国に変えている。武力を用いた脅しなどの外的な圧力は使わずに専ら中華の人民による自発的な改革を促した。あくまでも、良き友人から要請を受けてやむなく介入したに過ぎない。



 海軍の中で関東軍の動きを暴走と捉える者は少なくなかった。強硬派は「陸軍の石原莞爾はは大陸制覇を目指している」という流説も流説を披露する。あいにく、石原莞爾は海軍の主張に一定の理解を示したり、上司のはずの自軍を痛烈に批判したり、何が何だかわからなかった。



 しかし、堀や長谷川など予備役将校と接触して海軍の造船計画に陸海軍協調を建前にした陸軍特殊船を捻じ込んでいる。さらに、民間船の徴用を前提にした優秀船舶助成施設にも一枚噛んできた。これら異様な行動は理解の範疇を超えている。



「米内さんは内閣総理大臣を目指して自ら勇退を選び政党に参加するつもりだ。もしも、米内内閣が成立した暁には石原莞爾が陸軍大臣は無理でも次官には…」



「米内さんが石原莞爾なんて狂人を登用することはあり得ない」



「どうも、最近の動きは読めない。好物の水まんじゅうも味わえなかった」



 山本の執務室に沈む空気を一変させんと扉がノックされた。海軍航空本部長は将来の参謀候補として優秀な者を引き抜いては引き抜き、これを良く思わない者から「山本はマフィアのようだ。ファミリーを作ろうとしている」と言われる始末だが、本人は大真面目で若い芽を潰すまいと邁進を重ねる。



「三和義勇参りました」



「忙しいところ、すまなかった。君の戦闘機不要論まで石原莞爾に看破されたらしいね」



「恥ずかしながら、コテンパンにやられ、九六式艦戦の弱点まで暴露されて」



「何も恥ずかしく思うことはないだろう。石原莞爾を相手するどころか大立ち回りを演じてみせた」



「奴を信奉する者が現れることはよく理解できたことは成果です。海軍と陸軍は長らく犬猿の仲であることに真っ向から挑んでいました。予備役将校の皆様が懐柔されたことも無理はない」



「石原莞爾が考案したと言われる強襲艦と輸送艦が即効の切り札と素早く周り、かつ遅効の猛毒とじわりじわりと効き、一見して奇抜な考えも我々の常識を覆す画期的を随所に秘めた。海軍陸戦隊の母艦と枠を回してもらうことを提案します。むしろ、これを機にお互いの技術を融通し合っては?」



(石原莞爾め。なんという男なんだ)



 海軍においても石原莞爾の存在感は増すばかりである。薄れることを知らない。普通はコソコソと裏で手を回すはずが、石原莞爾は遠慮なく表舞台に立って、大戦略の提示や装備の刷新に大回転した。両軍参加の討論会を開催して痛烈に批判と手放しに称賛を織り交ぜる。



 あろうことか、石原莞爾ら満州派に参加する海軍軍人が現れる始末だ。海軍は内部統制の強化に終われる。昔は陸軍の弱小勢力に過ぎなかった満州派も実権を握り込んだ。嘗ての統制派と皇道派の人材を引き抜いて事実上の吸収から陸軍の自体を為している。遂には海軍軍人から外国人や大学教授、民間研究所職員、政治家、官僚まで含み始めた。



 もはや、満州派は陸軍を超えて日本の一大勢力なのである。



「中華民国の政変における神州丸の大活躍は目を見張りました。実戦で露見した改善点を洗い出しては改善と改良を加え、秋津丸ら大型強襲艦こと甲型、熊野丸ら中型強襲艦こと乙型、急造の輸送艦と称した小型強襲艦こと丙型の三種を一挙に」



「甲型に至っては航空機運用を抜本的な見直し、龍驤の全通式航空甲板を流用することで、陸軍独自の強襲機と直接協同偵察機、連絡機の円滑な運用を可能に変えました。これなら上陸兵力を吐き出すと同時に航空支援を行える」



「我々の空母の意味が損なわれると反撃しても無駄でした。彼らは空母の支援を絶対に必要であると述べると同時に戦艦の支援も大いに有用と言います。大艦巨砲主義者までも引き入れました」



「奴の手のひらの上で転がされたか。とはいえ、彼に感謝するべきことが多いのは事実だろう。陸軍航空隊も本格的な対艦戦闘に参加する旨で調整してくれた。まぁ、感謝しているさ。太平洋の諸島に基地航空隊を展開させれば不沈空母と機能する」



「陸軍の重爆は唯一無二の巨人機です。敵艦隊に多量の徹甲爆弾をばら撒く」



 ここまで石原莞爾を「敵か?敵か?」と警戒してきたものの、実は感謝と感嘆もあって一概に敵と言えず、山本五十六ら航空屋が勢いを増す一因にある。満州派は対ソを念頭に置いて活動する都合で航空機をどこよりも重視した。九七式重戦闘機や九七式高速爆撃機、九七式重爆撃機の新鋭機を強引に採用したかと思えば、陸軍航空隊も航空機の対艦戦闘に賛意を示し、陸海軍による敵艦撃滅案まで提示してくる。



 そして、陸軍特殊船という陸軍独自の艦船も革新的で先進的と驚嘆を強いられた。特に神州丸は世界初の強襲揚陸艦と大活躍を見せる。海軍陸戦隊にも欲しいと言わしめた程だが、神修丸は中華民国の政変で沿岸部の強襲上陸作戦に参加し、上陸部隊の迅速な展開に止まらなかった。上陸後の戦闘の支援や輸送まで持ち前の能力を遺憾なく発揮する。陸軍特殊船に関しては陸海軍協調の目玉として共同開発を目指した。



「一度でも会ってみる価値はあるのか」



「さぁ、それは、会ってみてから」



「それでは楽しみにとっておこうか」



 このような噂話が繰り広げられる中で当の本人は鋼鉄の龍に匿われている。



=新満州鉄道=



 中華民国と合同で建設した鉄道を臨時装甲列車が走行した。装甲列車の時代は終焉を迎えて無用と言われがちだろう。いいや、威圧感は半端ではないことに価値を見出した。鉄道の寸断を試みる共産党勢力など非力なゲリラに対して圧倒的な威圧を以て行動を封じ込められる。



「へっくしょい!」



「石原閣下の噂をする者が絶えませんな。医者でもさじを投げたぐらい」



「この石原莞爾も噂話には敵わない。共産党勢力の散発的な攻撃はどうとでもなる」



 私は中華民国で開業した新満州鉄道の視察と称して装甲列車を楽しんだ。現代の快適な鉄道に比べて遥かに居住性は劣ると雖もロマンが全てを解決しよう。現在乗車中の臨時装甲列車は過剰な装備の既存を見直して一定の量産性を確保した。主に武装面で10cm級カノン砲を88mmか75mmの高角砲に換装し、敵ゲリラを制圧する重機関銃を増設し、中の兵士が使用できる軽機関銃又は小銃の口も設けている。



「上空には直接協同偵察に襲撃機もおります。連中に勝手な真似は許しません」



「大陸の移動は鉄道が便利でも、島と島の移動は輸送機か輸送船になり、鉄道の出る幕は無いだろう」



「足は速いが量の少ない輸送機、足は遅いが量の多い輸送船」



「そういうわけだからこそ海軍との協調は欠かせん」



 私の目は大陸を超えたソ連を超えてアメリカを睨んだ。



続く
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