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転生石原莞爾

第5話 九七式戦闘機

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「石原閣下がご覧になられている。無様な飛行は見せるな。今更重戦を操れませんは通用せん」



 満州の大地が格好の試験場と言うことは既に語り尽くされた。中華の広大な大地は新進気鋭の航空兵力にとっても好都合である。なぜなら、航空機が離着陸する滑走路を幾らでも得ることができた。しっかりと平坦に整えられた整地の飛行場とガタガタした不整地の飛行場が拵えられる。戦時中は劣悪な環境で飛ぶことが多発した。陸軍航空隊は不整地の飛行場どころか何にもない平地に離着陸する。石ころの転がった平地でも離着陸可能な航空機を欲した。



 これらを前提に陸軍は時代遅れとなりつつある複葉機に見切りをつける。近代的な単葉機を志向した。スペイン内戦で欧州諸国の新型機を研究し、欧米に追い付き追い越せをスローガンに掲げ、軍もメーカーも大学も関係者は地道な努力を重ねる。それが今日実を結ぶのだ。



「やはり良い戦闘機だな。九五式戦闘機は遅くて上らなくて緩くてお話しにならん。この九七式重戦闘機は良く昇って良く走って良く下った。こいつの操縦が重いなんて言うのは軟弱者に違いない」



(宙返りで行きましょう。ただの編隊飛行じゃ味が無い)



(キビキビ動くことを証明しましょう)



「よっしゃ、軽戦の軟弱に見せてやるぞ」



 彼らの眼下では高級将校がズラッと並んでいる。本土から輸送機で遥々やって来た。お偉いさんの中には誰もが敬愛する石原莞爾閣下の姿も確認できる。石原閣下は本土に激震を走らせた国家転覆のクーデター事件を速やかに鎮圧した。これで一挙に主要人物と名乗りをあげる。関東軍の発言力を増したことで独自の研究も評価され始めた。日本本土のぬるま湯に浸かる者とは違う。中華の砂埃に塗れた者は現場に即した兵器を考案から研究と開発を経て実用化に漕ぎつけた。



 最新の戦闘機も一つに含める。陸軍は単発で単葉の新型戦闘機を各社に開発競争させた。諸事情から勝者も敗者もない結果に終わる。陸軍の本土組は中島社のキ-27を推した。陸軍の満州組(関東軍)は川崎社のキ-28を推す。三菱社は早々に海軍の九六式艦戦に集中したいと離脱していった。



 関東軍は石原莞爾を筆頭に兵器開発も正当な口出しを以て「自軍だけでも」と強引に手繰り寄せる。川崎社のキ-28は高性能の裏腹に扱い辛さが否めない。不採用のところを掬い取った。彼らはもっともらしい理由を叩きつけて戦闘機の運用をひっくり返す。



「今!」



(ここぉ!)



(いけぇ!)



 ちなみに航空無線機は鋭意開発中だ。雑音が混じる低品質は航空兵から「重いだけ」と嫌われる。熟練者同士のハンドサインと目線による意思疎通は阿吽の呼吸を誇った。とはいえ、総力戦に入ると新参者が多く参加して意思疎通は難化する。航空無線機は直接的な性能向上にならずとも必須の装備として品質向上に努めた。



「ほ~う。確かに見事な上昇である」



「ソ連空軍のSB爆撃機はスペイン内戦で高速性能を見せつけた。双発高速爆撃機を迎撃するに軽戦闘機は足りない。閣下の提唱した重戦闘機もしくは局地戦闘機でないと」



「我が軍も九七式双発爆撃機と試製四発爆撃機を作っている。それに対して海軍の航空畑ときたら」



「まぁまぁ。機材の共通化を図っても良い。我々の航空機が勝れば呑み込める」



 キ-28を開発した川崎航空機は関東軍の御用達である。陸軍の中でも関東軍専門に納入する道を歩み始めた。同社の天才技師である土井武夫氏は「石原莞爾という将軍はよくわかっている」とホクホク顔らしい。



 関東軍は中華民国を介して欧州情勢を俯瞰できた。スペイン内戦は各国の最新兵器の展覧会を開き、猛烈な勢いで拡大を続けるドイツ、大国と存在感を増したソ連が脚光を浴びた。航空機はドイツ空軍のBf-109(初期型)とソ連空軍のSB高速爆撃機を脅威に捉える。日本が単発で単葉の近代的な戦闘機を作っている間に高性能機を次々と送り出してきた。



 SB爆撃機は高速爆撃機の面目躍如と迎撃に上がった戦闘機の追従を許さない。関東軍はいち早く危機感を抱いた。陸軍で主流と定まりつつあった軽戦闘機に異を唱え、重戦闘機を基本として軽戦闘機は補助にする折衷案を提示し、完全に定まり切らない都合もあって一旦は重戦闘機と軽戦闘機の併用で纏まる。さらに、局地戦闘機や直接協同偵察機、襲撃機、司令部偵察機など多種多様な計画をぶち上げた。



「いつ見てもだ。液冷発動機特有の尖った機首から絞り込まれた胴体が綺麗で美しさを覚えます。空冷発動機特有のずんぐりむっくりはいただけません」



「何を言うか。液冷発動機は未だ複製ばかりで物まねも良いところじゃないか」



「これからです。ドイツと手を組むことは癪ですが工作機械を大量に導入しています。これを満州から本土まで浸透させることで高品質の国産品を生産でき…」



「いい加減にしろ。石原閣下の計画に泥を投げつける気か」



(関東軍でさえ頑迷を排除し切れていない。本国のお堅い連中はいちゃもんに等しい注文を付けてくる。俺は重戦闘機も軽戦闘機も運用次第で大化けすると理解した)



 九七式戦闘機は軽戦と重戦の二種が存在する。



 九七式軽戦闘機は史実の『九七式戦闘機』のために省略した。今日は異端児のキ28こと九七式重戦闘機に焦点を当てる。本機の特徴は何と言っても液冷発動機に始まる絞り込まれた胴体に置かれた。敵機よりも先に高度優位を得る「上昇力」に敵機の追従を許さない「加速力・速力」を求める。そもそもの液冷発動機が細い故に胴体を絞り込むことができた。



 肝心の発動機はハ9のⅡ型甲である。これは液冷V型12気筒発動機で大馬力の800馬力を発揮した。これに過給機を付ければ1000馬力を目指せる。あいにく、既に到達できる所まで到達していた。頭打ちが否めない。九七式重戦闘機は将来的に新型にして準国産の発動機に換装を予定したが、洗練された機体設計のおかげで九七式軽戦闘機を速力・加速力・上昇力で凌駕した。



「逆ガルと言いましたか?」



「たしかに逆ガル翼という。九七式軽爆撃機も採用した」



「その主翼が生む機動性には及第点を与えざるを得ない。いかに敵機の頭を押さえて覆い被されるかで勝敗は決まる。石原閣下は重戦闘機に一撃離脱を軽戦闘機に格闘とキッパリ分けた」



「必ず一個小隊で戦うことも付け加えていまし。お忘れなく」



 主翼も特徴的な逆ガル翼を採用している。



 主翼がW字に曲がっている様子から不安を抱いた。まったくの無問題である。逆ガル翼は一個前の試製戦闘機から参加するリヒャルト・フォークト博士が設計した。博士はドイツに帰国することなく、日本(満州)で革新的で先進的を提供してくれている。逆ガル翼の利点は多数あるものの安定性に欠ける弱点に難儀した。本機の機動性もお世辞にも良好と言えない。航空兵からの評価はキッパリと分かれた。本機の速力と上昇力に魅入られた者は重戦乗りを自称する。彼らは対ソから対英米までの大空戦に身を投じた。



「13.2mm機関砲が2門も閣下の一声添えによる。7.7mm機銃の豆鉄砲ではSB爆撃機を落とせない」



「海軍はエリコンの20mmを研究しています。我々は13.2mmを拡大して20mmとしたい。弾の規格が合えば融通し合えるのに…」



「そこは石原閣下でもなぁ…」



「海軍にも話の通る者はいる。予備役でも堀悌吉さんが味方してくれた」



 武装は機首に7.7mm機銃2門か13.2mm機関砲2門を装備する。あえて余裕を設けるという拡張性を重視した。7.7mm級の機銃が主流の中で13.2mm機関砲は過大と言われる。堅牢な爆撃機を撃墜するに豆鉄砲の威力不足を想定した。高高度を飛行する敵爆撃機の迎撃は少ない機会で有効打を与えなければならない。重戦闘機に7.7mm機銃を載せてチマチマ撃つことは非効率であり、12.7mm級の機関砲を与えて一回にドンドン撃った方が良いわけだ。最終的には20mm級の大口径機関砲も考えている。



「ノモンハンに間に合わせねば」



続く
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