されど番

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されど番

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運命の番という存在を、教えられる前に体感した。

“運命の番”ロルフは、世界で活躍するピアニストだ。
俺が彼と出会ったのは、小学校の課外授業で彼のピアノ演奏を聴きに行ったときだった。
彼を見たとき、なくしていたものを見つけたような感覚になった。

「お兄ちゃんは、ぼくのだよね?」
「そうだよ、よくわかったね」

演奏後の交流会の時に言うと、ロルフは驚いた顔をした。

「一緒にくる?」
「うん」

それが初めての会話だった。
両親を亡くしていて身寄りのない俺は、そのままロルフに引き取られて世界各地を一緒に過ごした。
ロルフは16歳年上で、年の離れた兄のように俺を見守って育ててくれた。
それが変わったのが、13歳の俺の誕生日。
ロルフから「離れて暮らそう」と言われたのだ。

「私以外の人間を知るためにも、一度離れて暮らすことが必要だと思うんだ。
お互いのためにもね」

ごちゃごちゃ言ってるけど、要は俺のことを性的対象として見てしまうのが辛いから、今は離れて暮らそうってことなんだろう。

「番にしてもいいよ。オレはアンタしかいないし」

まぁ、世間的にはまだ若いけど、この先ロルフ以外と過ごす未来は考えられない。
それなら無理に離れなくとも、番になってしまえば良いのでは?
そう思って言ったんだけど、ロルフは複雑そうに笑うだけだった。

「嬉しいケド、まだダメだ」
「そう・・・。ま、アンタの気がすんだらいつでも言って」

ロルフはそれには答えず、カップの縁をなでる。話題を変える時の癖だ。

「実は頼みたいことがあるんだ」
「頼み?」
「私の親戚の子がαでね。彼の番の友達になって欲しいんだ」
「友だちになって監視しろってこと?」
「・・・君はαを知りすぎてるね、そうだよ。彼に気づかれないように仲良くしてあげて」

ロルフは悪びれもせず笑った。
こういう、αの行動を目の当たりにするほど思ってしまう。

αとは、なんと難儀な生き物なんだ。

ロルフと過ごしていて思ったことだが、αという生き物は本当に厄介だ。
番やΩが絡むとそれだけで理性を失ってしまうし、異常な行動をとる。

俺自身、困ったことがあると、いつのまにかロルフがそばにいて解決している、
ということが何度もあった。
改めて実感したのは、初めての発情期の時。
ロルフとは離れて暮らしていたのに、突然帰ってきて俺を隔離施設へぶち込んだ。
その後、一切会わずに発情期を終え、施設から出る日に迎えにきた。
それから俺を隈なくチェックした後、満足して帰っていった。
ロルフが帰った後、彼が海外での公演を中止してまで戻ってきたことを知った。

俺が話そうと思っていたことを、すでに知っていることもよくある。
それ話したっけ?と言うと、「聞いてないけど知ってる」と言われる。
まぁ、いろんな方法で俺を監視?観察?しているんだろう。
このことについては、かなり前に話し合いの場が持たれた。
嫌ならやめると言われたけど、気になるんなら変に不安がられるより調べてもらった方が楽なので、そのままにしてもらっている。
今では、部屋の隠しカメラを見つけて、手を振って投げキスするくらいの余裕がある。
それくらいじゃないと、αの番なんてやってられないのだ。

そんな彼を、俺は愛を込めて『魔王』と呼んでいる。
「前はスーパーマンって呼んでくれてたのに」って苦笑いされる。
悪いヤツってのは、最初はいい人の仮面を被っているもんだ。
幼くて純粋だったシンくんが、大人になってヒーローの正体を知っただけだ。


*****


日本で公演があるから来日すると聞いていたから、日本のエージェント・佐藤さんと一緒に迎えにいく。
飛行機は少し遅れているらしく気長に待っていると、到着ゲートから人が流れ込んできた。

「シン!」
聞きなれたバリトンボイスで呼ばれた方を見る。
くすみがかったダークブロンドを一纏めにした背の高い外国人が、スーツケースを引いて足早にやってくるところだった。

「おかえり、ロルフ」
ガバッと音がするほど抱きしめられて、あぁ、ほんとに帰ってきたんだなと実感した。
ビデオ通話もメールも毎日のようにしていたから、久しぶりという感覚はなかったけど、実際に体が触れ合うと、込み上げるものがあった。
「出迎えありがとう」
「無事に着いてよかった。疲れたよな、早くホテルに行こう」
サングラス越しでもわかる、愛おしげに俺を見る目が気恥ずかしくて、少し目を逸らした。



ホテルに到着して、送ってくれた佐藤さんに別れを告げる。
通された部屋で荷解きを手伝っていると、後ろから抱きしめられた。

「会いたかったよ、ベイビー」
「オレも」と返してキスを交わす。

「このまますんの?」
「流石に疲れたからシャワーを浴びて休むよ」
もう一度キスをすると強く抱きしめられる。
「君を適当に抱きたくはないからね」

ロルフの低く響くようなバリトンボイスに俺は弱い。
額にキスを落として洗面所に向かうロルフに、バレないように火がつきかけた体を落ち着かせる。
じゃあ、今日は帰ると言おうとすると、洗面所の中から声がかかる。

「今日の君は抱き枕だよ」


*****

「シン、私の番になってくれないか」

ほんとに抱き枕にされた翌朝。
ルームサービスで朝食をとっていると、思い出したように言われた。
ずっと待っていた言葉をあっさりと言われて、一瞬理解できなかった。

「もういいのか」
「君も大人だ」
「ようやく大人認定されたか」
「日本での公演が2週間後に終わるから。次の発情期が来たら番になろう」

周期を把握してることに今更驚かない。だって魔王だから。
俺が頷くと、魔王は楽しそうにパンにバターを塗った。


*****


時間が経てば経つほど、不安になってきた。
首を噛まれるってどんな感じだろう。
痛いんだろうか。
うっかりネット検索して、噛み跡のグロ画像を見てしまい、ますます怖くなってしまった。
その夜、魔王から電話がかかってきて『この件について調べないこと』を約束させられた。


「なぁ、首噛まれた時どうだった?」
来週提出のレポートと睨めっこしている、Ωの友人・レイジに尋ねた。
「うーん、俺は記憶飛んでたからな」
そうだった。なんて羨ましい男なんだ。何も知らないまま終えられたら、そんな幸せなことはない。
(・・・俺は結構覚えてるし、発情期も割としっかりしているタイプなんだよなぁ)

「あ、でも起きたら気持ちが落ちついてて、すごく満たされてたのは覚えてる」
「へぇ~」
友人の穏やかな表情に驚きつつ、無意識に首のチョーカーを弄った。

「ついに魔王の軍門に下るのか」
レイジの番、コウキが現れて彼の隣に座る。
どこから聞いていたのか、何処となく嬉しそうだ。
コウキは手に持っているレポート資料をレイジに渡し、「サンキュー」と言われると満足そうにレイジの作業を眺めていた。

「オレが拒否ってたわけじゃねぇよ。やっと魔王のお許しが出たの。
ま、すでに番みたいなもんだし、そんなに変わらないだろうよ」
「いや、変わるね。お前の臭さが変わる」

コウキに渋い顔で言われて、思い出した。
自分では気が付かないから忘れてた。
俺の周りにαが寄ってこないのは、決して俺の容姿がイカついからではない。
俺にはとんでもない強さの所有フェロモン臭がついているらしい。
離れているのにどうやってそんな匂いつけられるのか謎だけど。
まぁ、魔王だしな、と思考停止している。

チョーカーを弄びながら、ぼんやりしているとコウキがからかってくる。
「ビビってるのか?」
「ばぁーか、そんなわけねぇだろ」
自分の不安を吹き飛ばすように、あえて軽い口調で言う。

「怖いときは怖いって泣けばいいんだよ、魔王はお前には弱いんだから。
番が泣くと冷静になるし」
「そうなの?」
「俺はな」

だから心配するな、と言うコウキからの励ましを意外に思っていると、レイジが笑って軽口を叩いた。
「じゃあ、何かあれば泣くことにしよう」
「やめてくれ、マジで。どうすればいいか困るんだって」


友人2人から励まされ、自分を鼓舞して過ごした2週間。
予言通り発情期を迎えた俺は、魔王が滞在するホテルに向かった。




「麻酔も考えたんだが、上手く噛み跡が残せないこともあるらしいから、やめたんだ。
一回で終わった方がいいだろう?」
「そりゃもちろん」
何度も痛い思いをするのは嫌だ。
体温を測るように頬を撫でていた手が、チョーカーを外した俺の首に触れる。
「なるべく痛くないようにしてくれよ」
魔王は、応えるように俺の手の甲に口付けた。


*****


「ん・・、んぅ・・・・っふぅ、はぁ」
ベッドに四つん這いになった俺の後ろをロルフがしつこく・・・いや、丁寧に解してくれる。
「もぅ・・・、いいんじゃない?」
「もう少し、慣らしておこう。痛いのは嫌だろう?」

ロルフの舌と長い指が、音を立てながら穴を広げていく。俺はこの瞬間が一番苦手だ。
発情期で程よく体が熱っているせいで、ロルフのひんやりした指をリアルに感じる。
いつもより長い時間、しっかりと弄られて、すでに一度達してしまっていた。
始まる前からヘロヘロになっている俺を、楽しそうに嬲る魔王に、早くも白旗をあげる。

「ロルフ、ほしい。はやくロルフを感じたい」
わざと煽るように言うと、魔王は笑みを浮かべて尻にキスをした。
「いけない子だ。どこで覚えてきたんだ?」

それでも、指を抜いて欲しかったものをくれる。
傷つけないようにと、ゆっくりと挿入される。
俺は浅いところを擦られた衝撃でイキそうになり、慌てて握って堪えた。
これ以上イッたら、後が地獄だ。
「我慢しなくていいよ、たっぷり感じて。君が言ったんだから」
肩にキスを落としながら優しさ全開で言われるが、鵜呑みにしてはいけない。
これから嫌と言うほどイかされるのだから。
俺は、ロルフのモノが受け入れきるまで自分のチンコを握って耐え続けた。


「ちょい、待って。少しだけ浸らせて」
いつも彼がたどり着く位置まで受け入れて、俺はロルフを止めた。
深く深呼吸を繰り返して、体を落ち着ける。
体内で脈打つロルフを感じながら心地よさに目を閉じると、ロルフが腕を回して後ろから抱きしめてくる。
ロルフが首筋に顔を寄せて深く息を吸った。
吐く息が震えている気がしたのは、俺のフェロモンに反応したからだろうか。
しばらく密着したまま、お互いの熱を感じ合っていると、腹に回っていた手が腰を掴んできて、ゆっくりと奥に侵入してきた。

「ん?」

いつも苦しみながら受け入れている場所の、さらに奥が開かれる感覚に頭が混乱した。
(は、え?え?)
「今まで最後まで入れたことはなかったんだが、大人になった君なら受け入れられるね?」
耳元で囁かれて言葉を失った。
(はぁ!?マジかよ、ちくしょうっ!)

徐々に圧迫感が増してくる緊急事態に、俺はパニックになる。
息が上手くできなくなって、生理的な涙がこぼれた。
「ベイビー、泣かないで。さぁ、ゆっくり息をして」
慰めるように涙を拭われるけど、全然中断される気配はない。
「な、泣いたらやめてくれるって言ってたぁ!」
「誰からきいたのか知らないけど、私は燃えるタイプだ」
(相手が魔王だって忘れてたよ、ファック!)

シーツを掴んで耐える手に長い指を持つ手が添えられ、唇がうなじに触れた。
噛まれるのかと思って、一瞬ビクッと体が跳ねた。
「怖いかい?私もだよ」
(嘘つけ!)
「む、武者震いだ」
「それなら、問題ないな」

俺の強がりを笑うと、またゆっくりと腰を押し進め始めた。
何度もうなじにキスをされて、体が慣れたのかいちいち反応しなくなってきた。
それよりも、体の中の異物がどこまで入ってくるのか、恐怖に耐えることで精一杯だった。
体内からグポッと音がして、チンコから液体がダラダラと垂れ流れてきた。
視界が霞んできて、頭が痺れてくると何も考えられなくなる。
ただ、痺れるような気持ちよさに鳥肌が止まらない。
口が閉じれなくなって、よだれがだらだらと溢れていく。
一瞬、身体が自分のものではなくなったかのように、コントロールできなくなった。

「あ゛ぁぁ、はぁぁ、あ゛、あ、はあ゛ぁぁ」

そこからまだ先に進もうとするので、精神的に限界が来てしまった。

「う゛えぇぇぇ~~~。か、身体が、変、怖ぇえよぉぉぉぉ~~」
恥もへったくれもなく泣き出すと、優しい声で囁かれる。
「よしよし、頑張ったね。いい子だよ、ベイビー」

頭を撫でて幼子にするみたいにキスされるけど、それどころじゃない。
腹に響くバリトンボイスで「大丈夫だよ、ベイビー」と繰り返される。

「泣かないで、強い子だね」
「う゛うぅ・・・、やだぁ、・・・や゛ぁだあ・ぁ・、う゛わあぁぁ・・・」

完全に子供がえりした俺は、苦しいのと感じたことのない快楽に泣き喚いた。
多分、生まれたときでもこんなに泣いてないだろう。
初めて侵入されたところをゆっくりと解されて、そこがビリビリと快楽を伝えてきて。
俺は震えが止まらなかった。

「愛してるよ、シン。私の全てを君にあげよう」

そう言われてキスをされたのが、最後の記憶だった。


*****


誰だ。
番になった瞬間、幸せな気持ちになったとか気持ちが満たされた、なんて言ったヤツ。

「最悪じゃねぇか」

身体はガタガタだし、AVみたいな自分の喘ぎ声が脳にこびりついて離れないし。

「どこか痛むのか?」

ベッドから起き上がれず頭を抱えていると、バリトンのいい声が降ってきて、
布団の上から背中に手を置かれた。

「全部」

むすっとして言うと布団ごと抱きしめられて、宥めるようにキスをされる。

「機嫌を直して、私のエンジェル。痛いところ全部、キスしてあげよう」
「いらねぇよ。さわんな。クソ魔王」

拒絶の意味で背を向けて枕に顔を埋めた。
すると、いつの間にか巻かれていた包帯越しに、うなじを触れられる。

「気づかなかったろう?」
「それどころじゃなかったわ!」

確かに下半身のことで手一杯で、うなじを噛まれた瞬間のことは覚えていない。
ロルフは嬉しそうに「君の望みは全部叶えてあげるよ」と言って、包帯の上からキスを落とした。




やっぱり、αってヤツは、みんなイカれてやがる。
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