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6、品評会ー剣城の巣
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『こちらは、剣道部エース、剣城君の巣です』
普段使っているタオルや制服、ハンカチが丁寧に折り畳まれた状態で円状に並べられていた。
手拭いや胴着の上には、大会で勝ち取ったメダルや校内新聞の記事を切り抜いたファイルが綺麗に置かれていた。
『自分のこれまでの武勲を並べていますね、メダルの数は圧巻です』
穴井が、連なるように並べられているメダルやトロフィーを指摘する。
それを受けて、会永が興味深そうに頷いた。
『巣とは通常、番のモノで作られますが、これは逆に自分のモノで作られています。
番を自分のテリトリーに埋没させたいという独占欲を見せつけるような巣ですね』
会永の言葉を聞いて、剣城の顔が真っ赤になった。
初めての巣作りに勝手がわからず、気がつくと自分のものばかり並べてしまって自己PRみたいな巣になっただけなのに。
剣城は、妙な分析をされて恥ずかしさのあまり意識が遠のきそうになるのをグッと堪える。
その姿を見ていた長内が椅子に縛られた状態でぼやく。
「ほれみろ。だから退場させときゃよかったんだ」
想像力豊かに評価する会永の斜め前でカメラを構えていた岸屋が、ふと何かに気がついてファインダーから顔を上げた。
「あれは・・・オレが書いた記事?」
岸屋がこぼした言葉に、剣城は下を向いて大きな体を縮こませた。
剣城の巣に使われている記事は、剣城が入学した時に岸屋がインタビューした時のものだ。
よく見ると、並べられている写真は校内新聞用に、岸屋が剣城を撮影したものばかりだった。
さらに注意深く見ていると、綺麗に畳まれたハンカチが目に止まる。
「あ。なんや見覚えあるな~思たら、オレのハンカチや」
無くしたんやと思てたわ、と笑う岸屋に、剣城が立ち上がって頭を下げた。
「前に、お借りしてから。ずっと、返しそびれいて・・・すいませんでした」
「いや、ええねんて!無くしたことも忘れとったし」
それよりも、なぜそこにあるのか。
その事の方が気になって岸屋は剣城を見つめる。
視線を受けた剣城は顔を真っ赤にしたまま、石のように動かなくなってしまった。
その姿に、初めて会った時のことが蘇ってきた。
剣道部に入部してきた、期待の新人へインタビューにきた岸屋は、無口で口下手な剣城に困り果てた。
簡単な質問をして早々に切り上げようとした時、剣城が泣いているのに気がついた。
「すいません」と謝り続ける剣城にハンカチを差し出して話を聞くと、口下手な自分に悩んでいると打ち明けられた。
どうしてもあがってしまい、何を話しているのかもわからなくなるのだ、と。
「せっかく話して下さっているのに。俺、申し訳なくて・・・」
その時、剣城が手の中に小さな紙を握りしめているのに気がついた。
そこにはびっしりと文字が書いてあった。
カンペを用意してきたのかもしれない。
「剣城君は、なんでも一生懸命なんやな」
苦手なことから逃げずに向かい合おうとする姿勢が、好ましく思った。
「もっと肩の力抜いてもええんちゃう?」
「え?」
「気負っとると上手くいくもんもいかへんようになるで」
剣城は、剣道の県大会で何度も優勝している高校から編入してきた。
二次性がΩだというだけで、今まで頑張ってきた場所から突然追い出されたのだ。
普通なら腐ってしまう所だが、剣城は気落ちすることなく、新たな場所で剣道を続けている。
「俺、負けたくないんです。自分にも・・・。その、二次性にも」
先ほどのインタビューで、自分に言い聞かせるように言っていた言葉が思い出される。
こんなに健気で泣き虫な後輩が頑張っている姿に、何かしてやりたい気持ちになった。
「せや、友達なろうや。そしたらインタビューやのうて、ただの友達同士の会話になるやろ?」
こんなんナシナシっと、持っていたノートとペンをしまうと、「なんか食べへん?俺、腹減っててん」と言って食事に誘った。
おこがましいかもしれないが、剣城が少しでも気を抜ける場所を作れたらいいと思った。
そのきっかけに自分がなれたらいいと。
岸屋が過去のことを思い出していると、剣城が意を決したように話し始める。
「お、俺。この学校に来たばかりの時。正直、どうしていいのか、わからなくて。剣道にしか縋れなくて。つらかったんです」
「だから、このハンカチを貸してもらった日に、岸屋さんに話を聞いてもらえて。すごく楽になれて。ほんとに感謝していて・・・。だから、あの・・・」
あとは震えて言葉にならないようだ。
王子谷が口を挟む。
「剣城は、岸屋にハンカチの礼がしたいって、参加したんだ」
そういえば、開催案内の協賛欄に自分の名前も出していた。
目立つのが苦手な剣城が参加するのは、先輩への義理堅い性格のためかと思っていたが、それだけではなかったようだ。
「剣城、ありがとうな」
「・・・っいえ、俺は何も」
隣で見ていた長内がよかったな、と足で小突く。
剣城が照れたように笑う。
会場からも拍手が湧き起こる。
会場全体があたたかな空気に包まれていた。
普段使っているタオルや制服、ハンカチが丁寧に折り畳まれた状態で円状に並べられていた。
手拭いや胴着の上には、大会で勝ち取ったメダルや校内新聞の記事を切り抜いたファイルが綺麗に置かれていた。
『自分のこれまでの武勲を並べていますね、メダルの数は圧巻です』
穴井が、連なるように並べられているメダルやトロフィーを指摘する。
それを受けて、会永が興味深そうに頷いた。
『巣とは通常、番のモノで作られますが、これは逆に自分のモノで作られています。
番を自分のテリトリーに埋没させたいという独占欲を見せつけるような巣ですね』
会永の言葉を聞いて、剣城の顔が真っ赤になった。
初めての巣作りに勝手がわからず、気がつくと自分のものばかり並べてしまって自己PRみたいな巣になっただけなのに。
剣城は、妙な分析をされて恥ずかしさのあまり意識が遠のきそうになるのをグッと堪える。
その姿を見ていた長内が椅子に縛られた状態でぼやく。
「ほれみろ。だから退場させときゃよかったんだ」
想像力豊かに評価する会永の斜め前でカメラを構えていた岸屋が、ふと何かに気がついてファインダーから顔を上げた。
「あれは・・・オレが書いた記事?」
岸屋がこぼした言葉に、剣城は下を向いて大きな体を縮こませた。
剣城の巣に使われている記事は、剣城が入学した時に岸屋がインタビューした時のものだ。
よく見ると、並べられている写真は校内新聞用に、岸屋が剣城を撮影したものばかりだった。
さらに注意深く見ていると、綺麗に畳まれたハンカチが目に止まる。
「あ。なんや見覚えあるな~思たら、オレのハンカチや」
無くしたんやと思てたわ、と笑う岸屋に、剣城が立ち上がって頭を下げた。
「前に、お借りしてから。ずっと、返しそびれいて・・・すいませんでした」
「いや、ええねんて!無くしたことも忘れとったし」
それよりも、なぜそこにあるのか。
その事の方が気になって岸屋は剣城を見つめる。
視線を受けた剣城は顔を真っ赤にしたまま、石のように動かなくなってしまった。
その姿に、初めて会った時のことが蘇ってきた。
剣道部に入部してきた、期待の新人へインタビューにきた岸屋は、無口で口下手な剣城に困り果てた。
簡単な質問をして早々に切り上げようとした時、剣城が泣いているのに気がついた。
「すいません」と謝り続ける剣城にハンカチを差し出して話を聞くと、口下手な自分に悩んでいると打ち明けられた。
どうしてもあがってしまい、何を話しているのかもわからなくなるのだ、と。
「せっかく話して下さっているのに。俺、申し訳なくて・・・」
その時、剣城が手の中に小さな紙を握りしめているのに気がついた。
そこにはびっしりと文字が書いてあった。
カンペを用意してきたのかもしれない。
「剣城君は、なんでも一生懸命なんやな」
苦手なことから逃げずに向かい合おうとする姿勢が、好ましく思った。
「もっと肩の力抜いてもええんちゃう?」
「え?」
「気負っとると上手くいくもんもいかへんようになるで」
剣城は、剣道の県大会で何度も優勝している高校から編入してきた。
二次性がΩだというだけで、今まで頑張ってきた場所から突然追い出されたのだ。
普通なら腐ってしまう所だが、剣城は気落ちすることなく、新たな場所で剣道を続けている。
「俺、負けたくないんです。自分にも・・・。その、二次性にも」
先ほどのインタビューで、自分に言い聞かせるように言っていた言葉が思い出される。
こんなに健気で泣き虫な後輩が頑張っている姿に、何かしてやりたい気持ちになった。
「せや、友達なろうや。そしたらインタビューやのうて、ただの友達同士の会話になるやろ?」
こんなんナシナシっと、持っていたノートとペンをしまうと、「なんか食べへん?俺、腹減っててん」と言って食事に誘った。
おこがましいかもしれないが、剣城が少しでも気を抜ける場所を作れたらいいと思った。
そのきっかけに自分がなれたらいいと。
岸屋が過去のことを思い出していると、剣城が意を決したように話し始める。
「お、俺。この学校に来たばかりの時。正直、どうしていいのか、わからなくて。剣道にしか縋れなくて。つらかったんです」
「だから、このハンカチを貸してもらった日に、岸屋さんに話を聞いてもらえて。すごく楽になれて。ほんとに感謝していて・・・。だから、あの・・・」
あとは震えて言葉にならないようだ。
王子谷が口を挟む。
「剣城は、岸屋にハンカチの礼がしたいって、参加したんだ」
そういえば、開催案内の協賛欄に自分の名前も出していた。
目立つのが苦手な剣城が参加するのは、先輩への義理堅い性格のためかと思っていたが、それだけではなかったようだ。
「剣城、ありがとうな」
「・・・っいえ、俺は何も」
隣で見ていた長内がよかったな、と足で小突く。
剣城が照れたように笑う。
会場からも拍手が湧き起こる。
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