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2、参加者求む!
しおりを挟む「王子谷、これ見てよ」
姫野から渡された簡易なチラシを受け取って読み上げる。
「巣作り品評会、参加者募集中?・・・なんだこれ」
「生徒会企画のイベントだよ。参加者が作った巣の写真を見ながら評価し合って、Ωの技術を向上させようって企画」
「へぇー」
「君も参加するんだよ」
完全に他人事だった王子谷は、急に参加者宣言されて眉を顰めた。
「・・・なんで?」
「勝負しようよ」
姫野は挑戦的な笑みを浮かべる。
「僕と王子谷、どっちの巣の方が人気があるか、勝負しよう。得票数の多い方が勝ち」
「勝ったら何かあるのか?」
くだらないと一蹴されるかと思ったが、意外にも王子谷が乗り気で驚いた。
少し沈黙した後、王子谷の方から提案される。
「俺の巣の評価が高ければ、他人の前で巣を晒したり、肌の露出が多い写真をあげるのをやめるというのはどうだ?」
「いいよ。君が勝ったらね。僕が勝ったら王子谷も1か月間、毎日SNS投稿してよね」
「いいだろう。やってやる」
姫野は心の中でガッツポーズした。
これで舞台は整った。
後は参加者と観客を集めるだけだ。
一番の難関を突破し、ひと安心していた姫野だったが、予想外の事態が起こった。
参加者が集まらないのである。
最初は十数名の参加希望者が集まり、時間も限られているし参加者を選ばないと、なんて贅沢な悩みを抱えていたのに。
しばらくすると、次々と参加辞退の連絡が入り、結局1人も残らなかった。
みんな、恋人や番から反対されて、参加を取りやめてしまうらしい。
姫野は心の狭い番達に憤慨した。
「僕、王子谷、長内。これじゃ身内で遊んでるのと変わんないじゃん」
「おい、なんで当たり前のように俺の名前が入ってんだ」
長内の抗議は空気のように無視される。
「ねぇ、岸屋ー。出てくれそうな奴いないの?」
「うーん。観覧希望者はめっちゃおるんやけどなぁ」
宣伝のために新聞部を巻き込んだおかげで、品評会の話は瞬く間に学園中に広がった。
話題性は抜群で、用意した座席数以上の応募が殺到していた。
抽選をしようかと相談しに来ていた、新聞部部長の岸屋は苦笑いする。
「話題になりすぎたんがあかんかったかな?規模もデカなってもうたし、巣を披露するハードルが上がってしもたんかもしれへんな~」
「マジかぁー、そんなのアリ?」
頭を抱える姫野に、長内が物言いたげな目をして言う。
「お前、また俺を使って会長を動かしたろ?」
「ん~?なんのことかにゃ~?」
長内から詰められて、はぐらかしていると、入口の方で姫野を呼ぶ声がした。
「姫野ー、後輩くんがきてるよ~」
ガタイの良い、おとなしそうな男子生徒が、入口のところに立っていた。
「あれ?剣城じゃん」
入り口に立つ男子生徒を見た長内が、入ってこいよと手招きした。
剣城と呼ばれた生徒は、失礼します、と一礼して教室へ入ってきた。
「部長、副部長、お疲れ様です。岸屋さんも・・・こんにちわ」
剣城は、王子谷と長内に挨拶した後、岸屋にお辞儀した。
「剣城、久しぶりやな~。また今度、地区大会のインタビューさせてな」
「ぜひ、お願いします」と答える剣城に用件を尋ねると、新聞部のホームページに掲載されている、品評会の告知を見せてくる。
「あの、コレを見てきたんですが」
「まさか参加する気か!?」
「は、はい」
「マジ!?やったぁー!参加者ゲットだぜ~」
万歳した手でそのまま握手しようとした姫野を押し除けて、王子谷と長内が剣城に詰め寄った。
「早まるな、剣城!」
「誰かに脅されたんか!?」
「い、いえ。自分で決めました」
必死な王子谷と長内の勢いに気押されて、少し戸惑いながら剣城が答える。
「何があったか知らないが、やめておけ。後悔するだけだぞ」
「そうだぞ、剣城!我が剣道部を背負うエースが、こんなアホが企画したアホなイベントの見せ物になる必要はない!」
「アホって言った方がアホなんだよ?長内」
剣城は、参加者が集まらなくて困っているという話をどこかから聞いたらしい。
「部長達にはいつもお世話になっていますし、それに、その・・・俺も何か力になりたいと思いまして」
「いや、別に俺たちも参加したくてしてるわけじゃーーー」
「じゃあ決まりだね!後から出ませんとかナシだからね!」
姫野は長内の言葉を遮ると、改めて両手で握手して、きっちり逃げ道を塞いでおく。
「剣城が参加するんやったら、2年も参加しやすくなるんちゃう?」
岸屋は携帯を操作しながら、剣城に聞く。
「もう、新聞部のSNSに名前出してええの?」
はい、お願いします、と剣城が岸屋に頭を下げる。
その様子を、姫野は満面の笑みで、王子谷と長内は複雑な表情で見つめていた。
剣城の参加で下級生にも参加者が現れるのを期待をしていたが、やはり集まらない。
「匿名にするんやったら、もっと集まるかもしれへんよ?」
と岸屋からは助言されたが、それでは王子谷も匿名扱いになるし、この企画の意味がない。
出場するハードルが高いのならば、話題性のあるΩで固めるしかない。
姫野は、ファンの多い生徒会メンバーに声をかけることにした。
「ねぇ~喜録も参加してよ」
矛先を向けられた1年生書記の喜録は、キーボードを叩く手を止めた。
「無理ですよ。僕の番の嫉妬深さをご存知でしょう?」
「喜録の番は社会人でしょ。校内でのことならバレないよ」
「大丈夫だよー、やろうよー」と誘ってくる姫野にため息をつく。
「先輩は番の恐ろしさを分かってませんね」
隠し事なんて不可能なんですよ、と自嘲気味に笑った。
「だったら、番の許可を取ればいいんだね」
番に電話してよ、と言われる。
こうなった姫野は目的が達成されるまで諦めない。
仕方ない、番から直接断ってもらおう、と渋々電話をかける。
繋がった途端、姫野がすぐさま携帯を奪い取り、生徒会室の出入り口でコソコソと通話し始める。
しばらくして戻ってくると、晴れやかな笑顔で携帯を返された。
「はい!交渉成立。協力してくれるらしいから、ちゃんと撮ってもらってきてよね」
「え?許可もらえたんですか!?」
「もちろん」
一体どんな話し合いがなされたのか。
喜録は嫌な予感がしながら、当日を迎えることになった。
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