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僕は巣作りが上手くできない

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Ωが巣作りしたら、番は喜ぶはずだ。
一般的には。



「えっなに?!泥棒?!警察は?怪我してない?!」
「・・・・・心霊現象??」
「なんじゃこりゃぁあ?!お前、責任持って全部片付けとけよ!俺はホテルに泊まる!」
「そんなに別れたいなら、こんなやり方じゃなくて口で言えよ。最低だよ」

俺の巣作りを見た、歴代のパートナーからいただいた言葉だ。



そう。何を隠そう俺は、巣作りが超絶下手くそなのだ。
下手すぎて別れの原因になるくらいに。
なんとかしたいけど記憶も定かじゃない状態で作るから、自分では止められない。
気がついた時には全てが終わっているので、どうすることもできない。
その上、自分がいつ作り始めるかわからないから、発情期に恋人と過ごすことに恐怖心を抱くようになってしまった。
それはそれで別れる原因になってしまい・・・。


「なんで発情期に一緒にいられないんだよ。恋人なのにおかしいだろ」

こうしてまた、俺のフラれ記録が更新されていくのであった。



*****



付き合って3ヶ月目で別れを告げられた俺は、その足で馴染みのゲイバーに向かった。
このまま一人で家に帰って、気持ちを整理するなんて、悲しすぎて出来なかった。

「俺だって!発情期にセックスしたいよ!」

ぐいっと酒を煽り、思いの丈をぶちまける。

「番のフェロモンでドロドロにされたまま犯されたいよぅ!!」
「あーちゃん、飲み過ぎよ」

乱暴にグラスを置いた俺を、カウンター越しにママが注意した。

「もう、1人で生きて行くしかないんだぁ~・・・うわぁんっ」

あらあら、と呆れ顔で放置されて、俺はチビチビと虚しくグラスを舐める。

「よぅ、またフラれたのか?」
「うるさい。あっちいけ、ヤリチン」

陽気に現れた男は、当たり前のように俺の隣に座った。
待ち合わせていたわけでもないのに。
俺はサッと自分の飲み物を守ると、心の中で舌打ちした。

こいつは俺の元・パートナーで、巣作り下手を知っているαだ。
ちなみに、いただいた言葉リストの3番目のセリフを言った男で、「ホテルに泊まる」と言って出て行った後、別のΩとセックスして帰ってきたクズ野郎だ。

「寂しいなら慰めてやろっか?」
「いらん!お前とヤるくらいなら1人でオナってた方がマシだ!」
「ひでぇ言いようだな~」

仲良くしようぜー、と肩を組まれそうになって素早く避けた。

(あーくそっ!酔いが覚めた)

今夜は酔っ払ってふて寝して全てを忘れるはずが、台無しである。

「また下手くそな巣作りが原因で別れたのか?」
「・・・・・」

無視を決め込んだ俺に構わず、1人喋り続ける。

「いや~、確かにヤバいもんな、お前の巣。
誰かに教えてもらったほうがいいんじゃねぇの?」

店内にいる可愛いΩを物色しながら言われて、ため息が出た。

「俺を使って出会おうとするな」
「あはは~、冗談だって。それか、誰かに見張って貰えばいいのに」
「見張るって、恋人に見ててもらえっていうの?そんな寛大で優しいαがいると思う?」

自分の部屋が徐々に壊されていく間、文句一つ言わないαがいたら、全裸で目の前に並べて欲しい。
とりあえず、チンコで選ぶから。
俺の言い分に苦笑いした相手は、グラスを傾けて回答を濁した。

「恋人じゃなくてもさ、友達でもいいじゃん。記録だけなら録画するとかさ」
「恋人以外がいると巣作りしないし・・・録画は意味なかった」

対策を練るために、1番初めにしたのは録画だった。
1回目は巣作り中に電源を引っこ抜いて録画できず。
2回目は巣の中に取り込まれて録画できず。
3回目に画面を割った時に無意味だと諦めた。

「じゃあ、新しい恋人作れば?βの」
「β?」
「そ。巣作り見張ってもらうには、フェロモンの影響を受けない状態で、冷静に見てもらった方がいいだろ」

そういうと、スマホをいじり始める。

「オレが飲み会セッティングしてやるよ」
「・・・お前がΩと出会いたいだけだろ?」
「まぁまぁ、そう言うなって」

お前も可愛いΩ用意しとけよ、と言って去っていく男に、結局ダシに使われた感じがして。
俺は大きくため息をついた。




*****




藍斗アイトくん、これ食べた?美味しかったよ」
「あ、いただきます」

あれから何度か飲み会が開催された。
本日もβとΩ、そしてなぜかαもいる飲み会に参加しているのだが、そんなに簡単に相性のいい相手なんて見つかるわけもなく。

「藍斗くんって、見た目より落ち着いてるね」
「あはは~。そうかな~?」

愛想笑いで初対面の人と話す飲み会に、俺は苦痛を感じ始めていた。
αなら匂いの好き嫌いで、ある程度判断できるが、βは匂いが薄いせいで、それが難しい。
バース性に頼らない恋愛の難しさに直面し、俺の心は折れていた。

「おいおい、藍斗~。何猫かぶってんだよ~。もっと積極的にいけよ~」
「・・・そろそろ飲むのやめないと、口説くどころの話じゃなくなるよ?」

飲み会開催の元凶であるα野郎が、俺の肩を組んでくる。
相当飲んだらしく、いつもの絡み酒が始まっていた。

「あぁ~!うざったいな、さっさと狩場に戻れ!」

俺はめんどくさくなって、一発蹴りを入れて自分の隣から追い出した。

「い、意外と逞しいんだね」

苦笑いして言われて、やってしまった、と後悔した。
俺は見た目から、華奢で可愛らしいと言われることが多い。
しかし、実態は口より先に手が出るタイプの乱暴者なので、そのギャップに引かれることが多い。
心なしか、さっきよりβの皆さんの距離が遠い。

(あの疫病神αめ!後で殴る!)

こうして何の成果も得られないまま、飲み会は終わりを迎えた。



*****



「あーちゃん、どうしよう」

解散の時間になり店を出ると、知り合いのΩたちが困った様子で話しかけてきた。
そこには酔い潰れた疫病神が、座り込んで眠っていた。

「あ~。俺、送ってくよ。コイツの家知ってるから」
「え?でも、君Ωでしょ?」

心配そうにβの男性が聞いてくる。

「ああ、大丈夫ですよ。コイツと何かあることは死んでもないんで」

(もし襲いかかってきたらスタンガン使うし。
連れ込まれそうになったら警察に突き出すし)

大丈夫ですっ、ときっぱり言い張ると、それなら、と相手は引き下がった。



*****



「おい、ちゃんと歩けよ~」
「う~ん、藍斗クンは可愛いねぇ~」
「そうだよ~。君に言われるまでもなく、俺はちょーぜつ可愛いから、襲ってきたらチンコ潰すからね~?」
「うわぁ~、こわぁ~い」

ケラケラ笑いながら千鳥足で進む男を、折りたたみ傘の柄で小突きながら前進させる。
やいやい騒ぎながら男のマンションの部屋までたどり着き、鍵を出せと脅そうとしたところで、鍵が開いた。

「兄ちゃん?近所迷惑だぞ」

声のボリュームを抑えた男性が、中からドアを開けた。
兄1人だと思っていたのか、俺を見て驚いた顔をする。
俺は慌てて折りたたみ傘を隠すと、男を押し込むようにして部屋に入った。

「騒がしくしてすみませんっ。一緒に飲んでたんですけど、潰れちゃって」
「いえ、兄がご迷惑をおかけしました」

自分のことのように頭を下げる青年は、見るからに誠実そうで、とてもコイツと兄弟とは思えなかった。

「いや、飲ませちゃった、こっちも悪いから」

遅くにごめんね、と笑いかけると、相手は俺を見つめたまま動かなくなってしまった。

「?何か・・・」
「うぅ・・・気持ち悪ぅぅぅ、オエエエェ」

顔についてるか?と問いかける前に、酔っ払いが俺に向かってリバースした。

「うぎゃぁああああああ」
「わぁぁ!兄ちゃん!ちょっと待って!!」

俺は、深夜に人ん家のシャワーを借りるハメになった。



「本当にすみませんでした」
「君が謝る必要ないよ。謝るべきは、呑気に眠ってる君の兄貴だ」

風呂から出てきた俺は、平伏して謝る弟くんに出迎えられる。
自室でスヤスヤと眠る兄に変わって、頭を下げる弟くんが不憫でならない。

「起きたら弟くんの分までしばき倒しとくから安心して」
「可愛いのに逞しいですね」

せめて弟くんの気持ちが晴れればと思って、肩を回しながら言うと、可笑しそうに笑われる。
その笑顔にキュンとしながら「君の方が可愛いと思う」という言葉を飲み込んだ。



*****



あれから、弟くんーーーー友隆トモタカ、と連絡先を交換した俺は、彼と友達になった。
友隆は俺の2つ下で、大学1年生のβだ。
ヒョロリとした体型で黒髪に黒縁メガネをかけた、あまり派手な印象はない奴だが、笑顔がめちゃくちゃ可愛い。
今まで俺の周りにいなかったタイプだから新鮮だった。
昨日のお詫びに、と誘われ、じゃあ次は俺が・・・と誘いあって出かけるうちに、一緒に過ごす時間が心地良くて、次の約束を待ち侘びるようになっていた。
気づけば俺は、友隆のことが好きになってしまっていた。
彼はノンケのβなのに。


友隆が好きだと自覚して、ますます恋人が欲しくなった。
じゃないと、不毛な恋ばかり意識してしまって辛い。
今ならまだ、彼氏という存在で上書きして、友隆への想いに蓋をすることができる気がする。

「ハァ~。下手な巣作りを許してくれる、海より広い心を持った恋人がほしい」
「そんなに巣作りって重要なの?」
「愛情表現の一種だから。大抵のΩは作るし、それを楽しみにしてるαも多いんだよ」
(俺の場合は、αに恐怖を植え付けてしまうけど)

食後のデザートを食べながらいうと、友隆は興味深そうにしていた。
が、不意に真面目な顔をして、俺を真っ直ぐ見つめてきた。

「俺じゃダメかな」
「え・・・」

思いがけない言葉に、俺は聞き間違いかと耳を疑った。

「俺が藍斗さんの恋人になるのは、ダメなのかな?」
「だ、ダメじゃないっ!ダメどころか、光栄だけど・・・。友隆はゲイじゃないだろ?」
「うーん、そのはずだったんだけど。藍斗さんは別みたい」

なんて都合のいいことを言ってくれるんだ。
俺はその言葉を信じそうになるが、頭を振って自問する。

(待て待て、落ち着け俺。ノンケの気の迷いってヤツかもしれないだろ)

「俺さ、藍斗さんと会った時、初めて男を可愛いって思って、自分でびっくりしたんだ」

だから、付き合えると思う、という言葉をいまいち信用しきれない。
こういうのは感覚の問題だし、頭では大丈夫でも体が拒絶してしまうこともある。
少し考えた後、俺は友隆に確認する。

「じゃあ、俺とセックスできるの?」
「それはーーー、わからない」
「・・・試してみる?」

俺の提案に、友隆は頷いた。



*****



ラブホテルに来た俺たちは、さっそく検証を始める。
お互いシャワーを浴びて、俺は発情期じゃないから諸々準備して。
ベッドの上で向き合った友隆に、念押しした。

「もしダメだと思ったら、すぐにストップって言えよ?」
「わかった」

よろしくお願いします、とお辞儀した友隆を押し倒すと、彼の着ていたバスローブの前を開いて、その体に触れた。

「気持ち悪くない?」
「全然平気」

嫌悪感はなさそうなので、今度は友隆の手をとり自分の肌に触らせる。

「これ、苦しくないの?」

友隆が俺のチョーカーに触れる。

「もう慣れた」
「そっか」

友隆はそのまま俺の鎖骨から胸へ手を滑らせる。
指が乳首を掠って、俺はビクッと反応してしまう。

「乳首弱いの?」
「ふ、不意打ちだっただけだ」

強がりを笑われたのが悔しくて、その口を唇で塞いだ。
喰むようにして合わせて、そのまま舌を滑り込ませた。
友隆は少しビクッと震えたが、俺の舌を受け入れてくれた。
一度唇を離すが、拒絶の言葉はない。
俺は、深いキスを繰り返しながら、許容範囲を探るように身体に触れていく。
友隆のモノに触れないように気をつけながら、抱きしめる。
肌を密着させて、後ろの回した手で肩や背中を撫でる。
友隆も俺の後頭部に手をやって優しく撫でてくれる。

俺は少し体を離すと、手を徐々に下半身の方へ滑らせていく。
友隆のモノにようやく触れると、人差し指で下から上になぞり上げる。
そのまま先端をくるくると撫でると、身体を震わせて唇が離された。

「それ、刺激強すぎるよ」
「気持ちよかった?」

頷いた友隆に満足した俺は、自分の後ろに手を伸ばして穴の具合を確かめる。
しっかり準備していたから、早めに受け入れられそうだ。

「俺の中に挿れてみる?」
「え、いいの?」
「うん、ほら」

俺は足を開いて友隆の手を掴むと、自分の穴に導いた。
躊躇しながら、ゆっくりと指が侵入してくる。

「うっ・・・わぁ、柔らかい」

最初は遠慮がちに動かされていた指が、内壁の感触を確かめるようにかき回してきた。
その指が良いところに当たって、ぎゅっと締め付けてしまう。
俺の反応を見て、重点的にその場所を攻めてくる。

「や、友隆っ、そこばっか・・・、いやぁッ」
「ここ、感じるんじゃないの?」
「感じるけど・・、うぅぅ・・・」

攻められるたびに勃ち上がっていく自分のモノが恥ずかしくて、手で顔を隠すけど、その手を掴んで阻まれる。

「や、見んなよ」
「だって、すごくエッチな顔してるから」

友隆のまっすぐな物言いが、さらに恥ずかしさを煽ってきて。
俺は仕返しするように友隆のモノに足で触れた。

「ッ・・・藍斗さん、」
「俺ばっかじゃ、恥ずかしいし」

足の指でくすぐるように触れると、友隆が耐えるようにシーツをつかんだ。

「ッ、はぁ・・、いじわるしないでよ」
「意地悪じゃないよ、俺の中に入れるように手伝ってあげただけ」

器用に足を動かして足の裏で刺激してやると、俺に煽られた友隆が限界を訴えてくる。

「もう、挿れてもいい?」
「うん、きて」

指が抜かれて、質量の大きなモノが侵入してくる。

「ぁっ・・・うぅ・・・ん、はっぁ・・」

焦ったいくらいゆっくりと挿れられて。
俺は、早く強い刺激が欲しくて、自分から腰を揺らしてしまう。

「うぅ、もっと、強くしていいから」
「こう?」
「・・・ッ!!」

急に奥深くを突かれて、圧迫感で一瞬息が止まる。

「そんなに良かった?」

上体を仰け反らせて震えた俺は、嬉しそうに声をかけられて何度も頷く。

「もっと、もっとちょうだい」
「うん、俺も足りない」

足を持って激しく突かれ、望んでいた刺激に翻弄される。
俺が耐えきれずにイクと、友隆も追うように吐精した。

息を整えていると、俺の頬に手を寄せてきた友隆が言う。

「俺の気持ち、信じてくれた?」
「うん、信じる。だから、もう一回しよ?」

こうして俺たちは、お付き合いすることになった。



付き合うことになったからって、2人の関係が変わることはあまりなく。
今までの過ごし方にスキンシップやセックスが増えたくらいで。
その間、一度も巣作りすることはなかった。
精神的に安定していると言うことだからいいことだ、と自分を納得させた。
αなら巣作りしないΩに不満を持つこともあるだろうけど、βの友隆には興味もないだろう。
俺は、このまま巣作りしませんように、と祈りながら過ごしていた。



*****




とてもふわふわして幸せな気分だ。
身体が熱くて目が覚めると、隣から柔らかく優しいフェロモンがほのかに香ってくる。
それがとても心地いい。
俺はぎゅっとしがみついて、わずかな匂いを嗅いだ。
(はあぁ・・・すっごい。しあわせ~)
脳が痺れるような感覚に俺は全身を震わせた。
こんなに幸せにしてくれる友隆に、俺はちゃんと愛を返せているんだろうか?
もっと友隆にわかってほしい。
どれだけ友隆を愛してるかってこと。


突然何かのスイッチが入った俺は、ベッドを抜け出してリビングへ向かう。
部屋はまだ暗い。
電気をつけて、その眩しさに顔を顰める。
ソファーの上には友隆のカーディガンが置いてあって、それを羽織ると抱きしめられているみたいで、胸がいっぱいになる。

「はっ!だめだ!友隆に大好きって見せつけないと」

カーディガンごと自分を抱きしめて酔いしれていた俺は、自分に課した任務を思い出した。
いつも友隆が座るソファーの一角に彼愛用のクッションを置く。

「ここを本拠地とするっ!」

俺はクッションに向かって指をさして、誰に言う訳でもなく宣言する。
洗面所にダッシュした俺は、友隆の服を持ってくると、クッションの上にばら撒いた。
今度は、畳まれた友隆の服やタオルを、丁寧に並べていく。
友隆が畳んだ形が崩れないように、注意しながら置く。
(よしよし。これで土台はいいだろう)

次に向かったのは台所。
そこには、今日の夜、友隆が作ってくれたカレーの入った鍋が置いてある。
俺は迷わずそれを手に取ると、巣へとーーーーーー。

「藍斗さん?何してるの?」
「あ~!友隆だぁ~、おはよ~」
「おはようの時間にはまだ早いと思うけど・・・」

声をかけられて振り返ると、不思議そうな顔をした友隆がいた。
俺は嬉しくて、鍋を持ったまま友隆に近づいた。

「それは・・・どうしてカレーを持ってるの?」
「だって、友隆が俺のために作ってくれたから」

巣に使いたくて・・・、というと、友隆は部屋を見渡し、ソファーの一角に目をとめた。
そして、全てを理解したように頷いた。

「そうか、なるほど。気持ちだけ受け取っとくね」

友隆は、こぼさないようにカレー鍋を受け取るとコンロの上に戻した。
俺が次に手に取ったのは包丁・・・だったのだが、すぐに取り上げられる。

「危ないよ、どうしたの?」
「お料理してる友隆が素敵だから」
「あ・・・ありがとう。でも、これは危ないから、やめとこうね」
「じゃあ、あれにする!友隆のご飯、すごく美味しいから、どうしても使いたいの」

俺が、お玉を指さして言うと、壁にかかっていた物を取って渡してくれる。

「これなら危なくないからいいよ」
「ふふっ。友隆優しいね、大好きだよ」

俺がぎゅっと抱きついて感謝の意を表現すると、恥ずかしそうに微笑んだ。
それが可愛くてほっぺたにちゅーした。

(待ってて!今から俺の愛を形にするからね!)

見てもらえることで俄然やる気が出てきた俺は、使えるものがないか周囲を見回した。
俺は机にあったペンを手に取って巣に放り投げた。

「ボールペン?」
「字が綺麗なの。あと、ペン持ってる時の指がすごく綺麗なんだよ?知ってた?」
「え、えーっと・・・。し、知らなかった」

褒められて照れる顔が可愛くて、残しておきたい衝動に駆られる。

「わぁ!今の、今の顔!写真撮りたい!」

俺はカバンをひっくり返して、ぶちまけた中からスマホを見つけると、友隆に向かってシャッターを切る。
遅すぎて撮りたかった表情とは違うけど、これはこれで可愛いから良い事にした。

「えへへ~、友隆は、かわいいなぁ~。待ち受けにしよ~っと」

満足した俺は、スマホを巣の中に投げ入れた。
今度は、リビングの観葉植物を持ってこようとすると、慌てて遮られてしまった。

「今度はどうしたの」
「植物を手入れしてる時も素敵なんだ」
「あ、ありがとう」

それからね、雨の日に迎えにきてくれたのが嬉しかった。
あとね、シャワーの時髪洗ってくれたのも嬉しかったし、楽しかった。
レポート書いてる時の横顔もかっこよくて好きだよ。
他にもね・・・。
傘やシャワーノズル、ドライヤーやノートパソコンなど、あらゆるものを手に取っては友隆のことを褒めていく。

その度に巣へ運ぼうとするけど、止められたり、代わりの物を提案されたりしながら、いつもよりコンパクトな巣が作られていく。
その間、友隆は顔を赤くしたり青くしたり、忙しそうに後ろからついてきた。
そのうち、身体が重だるくなってきて立っていられなくなった俺は、床にへたり込んでしまう。

「辛くなってきた?ベッドいく?」
「ううん、まだ、素敵なところ、いっぱいあるから、聞いてほしい・・・」

呼吸を荒くしながら、友隆が差し出した手に縋りつきながら言う。
友隆は膝をついて、俺の頭を優しく撫でた。

「もう十分伝わってるよ」
「ほんと?まだまだあるんだよ?」
「うん、すごく嬉しいよ、ありがとう。こんな素敵な巣作りを見せてくれて」

素敵?
嬉しい?
俺の巣が?

ボロボロ泣き始めた俺を、友隆は優しく抱きしめてくれた。

「うぅ~・・・友隆がやさしぃよぉぉぉ~好きぃ~~」
「うん、俺も藍斗さんが好きだよ」

初めて自分の巣が受け入れられて、嬉しすぎて涙が止まらない。
慰めるように抱きしめられると、友隆の匂いに包まれて、それだけでもうだめだった。
思考を溶かすような感覚が襲ってくる。

「ふあぁぁあぁ、ともたかぁ・・・」
「藍斗さん、大丈夫。ちゃんとわかってるからね」

こうして俺は友隆に抱きしめられながら、眠りについた。




*****



「~~~~って、なんでやねん!襲えや!!!」
「え?何?もう朝?」

叫んだ俺に、寝ぼけ眼の友隆が起き上がる。

「発情してる恋人が隣ではぁはぁしてんだぞ?なぜ襲わない!!」
「え、え?いや、しんどそうだったから寝かした方がいいかと・・・」
「しんどくてはぁはぁしてるんじゃないの!」

あれから程なくして、下半身が元気すぎて正気に戻った俺は、ソファーの上で友隆に抱き枕にされたまま一睡もできず、朝を迎えてしまった。
幸せそうに眠る友隆を、起こすことはできなくて。
俺は泣く泣く発情抑制剤を飲んだ。
まさか、こんなところでバース性の違いを感じるとは思いもしなかった。

(やっと発情期に愛してもらえると思ってたのにぃぃぃ)

「えーと、じゃあ、次回がんばります」
「エフンッ・・・よろしい」

理不尽な俺に怒ることなく、律儀に答える友隆が可愛くて、俺は簡単に許してしまう。



「前に、Ωの巣作りはαの楽しみって言ってたでしょ?」
「あぁ、うん」

俺の巣の後始末をしながら、友隆はふと思い出したように言う。

「気持ちがちょっとわかったかも」
「あんなので!?」

よく覚えていないけど、なんか色々迷惑をかけた気がする。
いつもよりかなりマシだが、部屋は荒れ放題になっていて。
現に今、2人で掃除する羽目になっている。

「あんなのって言わないでよ、俺は嬉しかったんだから」

ムッとした顔が可愛くて、頭をわしゃわしゃしたくなる衝動を抑え込んだ。

「今度作るときも、一緒に作りたいな~」なんて言ってくれるので、「そんなにすぐ作らないよ」と平静を装いながら返した。

俺は、隠れてちょっと泣いた。
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みんなの感想(1件)

るる
2024.02.23 るる

巣作り下手系のお話大好きです!しかも初めて見るタイプの下手さで最高でした!巣に使う理由を知らずに完成品だけ見たら確かに怖いですね…歴代彼氏の言葉の意味がわかりました笑 けど実はとっても愛されてるっていう…本人の安全のためにもこれからも一緒に巣作りしてほしいですね!

しづクロ
2024.02.23 しづクロ

感想ありがとうございます!
巣作り系の話が好きなので、もっと増えろ〜!と思いながら書きました(^◇^)

解除

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