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二章〜冒険者は時に、資金稼ぎとして依頼も受ける〜

四十話 純愛結晶

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「……今の激しい光は何だっ!?」

「シュートなのね!? ……前が、見えない。視界を持っていかれたわ!」

「どうするですよ! 戦えないですよ!」

「暗闇なら好都合だったですう! 眩しいのは嫌いですう!」

 私達は激しい光によって、視界を奪われた。
 今この状況下で、しっかりと目が見えているのはシュートだけだ。
 シュートは後から来ているから、光の影響を一番受けていない。

 私はとりあえず、感覚に任せてネネとベリアルの腕を引っ張り後退する。

「全く。リーダーが使い物にならないなんてダメじゃない」

「アリアータは、俺と同じで見えてるな前が」

「もちろん。私はこんなこともあろうかと、アルラーネ教えてもらった光反射結界を始めから張っているからね!」

 後退し、シュートとアリアータの会話が耳に入った。
 二人の居る場所まで一飛びで後退できたらしい。
 てか、アリアータの癖に生意気だ。

「………んんっ! やっと、前が見えた」

 目を擦り、何度か瞬きしてやっと前が見えた。
 ネネとベリアルも「回復したですよ」「ですう!」と、双子みたいに似た語尾で目が戻ったことを喜ぶ。
 しかし、見なければ良かったと思うことは、この世に存在することを実感する光景が目の前には広がっていた。

 これには、流石の私も絶句する。
 ペルセポネも、自然と黙ってしまうほどに、残酷で、生々しいーー。

「ロッド……また、君を手に入れることができた」

「ーーあいつ。とうとうやりやがった」

 ロッドは、グレイルが出した針山に突き刺さっていた。
 意識はあるが、胸部から腰に掛けて何十本もの針が刺さっていて動けず、苦しんでいる。
 針を伝って地面に落ちる血に、ベリアルが嘔吐する。

「グレイル……あんたっ!」

「ロッドはこれで俺の物。冥界へ連れて行こう」

「それは許せませんね」

「……その声は、誰だ」

「ペルセポネーー冥界第一皇女。罪の無い生身の人間は冥界に入れません。その女はこの我、ペルセポネの命によって冥界への立ち入りを禁じます」

 私の声を使って、ペルセポネがグレイルにそう言った。
 グレイルは針山で呻き苦しむロッドを見下ろし、「いや、行く」と、ペルセポネの命に背いて攻撃をしてくる。

 グレイルの右腕から、口だけの不気味なモンスターが数百体以上伸びてくる。
 私は杖で、襲い来るモンスターを斬る。
 気持ち悪い、あんなのもう人間じゃないじゃない。

 ネネはベリアルを守りながら、爪でモンスターを粉々に刻む。
 私の後ろに、シュートが寄って来ると、肩に手を置いてから横に退けられた。

「ーーうぜえ!」

 大剣を縦に振っただけで、得体のしれないモンスターの群れは全て消し飛ぶ。
 
「おい、気持ち悪い物を俺の女に見せるな。夜寝れなくなったらどうしてくれんだ、ああ!?」

 シュートは意味不明な理由でグレイルにキレる。
 一度自分を殺した相手に、何もなかったかのようにまた剣を向けるその強さを語る背中は大きく見えた。

「死ねば、夜も来ない」

「もう夜は過ぎちまったんだよテメェのせいで!」

「ならば今日の月を拝む前に、殺してやる」

「やってみろよ、一度お前に殺されたからってな、怯えたりしねーぜ? 一回死んだら何回死んでも一カウントなんだよおお!!」

「そのうち怯えることなるわあ!」

 シュートは大剣をグレイルに向かって投げ、追い掛ける。
 
「ーーよっしゃこいや!」

「尻の青いガキが……いきがるな」

 グレイルは、無数の魔法陣を周囲に展開すると、そこから針山と同じ針を発射した。
 シュートに向かって飛んでいく針は、日の出を終えた太陽でキラリと輝く。

 ーーグサグサグサッ!!

 ……人に突き刺さる音がした。
 まさかーーそう思ったが、しかし私達にはシュートが生きているとすぐに分かった。
 走っていたシュートの周りから土煙が舞い上がったが、その中から血が飛び散ることはなかった。
 そして、微風を切りながら飛んでいた大剣の音がピタリと止んでいる。

「そんな攻撃効くかよ頭使え!」

「ーー何!?」

 大剣を持ったシュートが、土煙の中から飛び出してグレイルの目前に迫る。
 しかし、グレイルを切ることはない。
 シュートは針山を根本から破壊すると、ロッドを片手で抱いた。

 グレイルの背後で着地したシュートは、後ろを見ずに一蹴で私達の元へと戻ってきた。
 
「お疲れ様」

「大したことじゃねー」

「流石、私の認めた男」

「五月蝿えよ。お前に認められなくても、世界が認めてるわ」

 シュートはロッドを寝かせ、私の横に立つ。

「行くわよ?」

「ああ。『純愛結晶』、頂くか」

「ロッド……俺のロッドオオオオ!」

 ロッドにしか意識が向いていないグレイルは、私達に針を飛ばしてくる。
 それをアリアータが撃ち落とし、道を開いてくれる。

「行って二人共ーー依頼をこなしてお金頂くわよっ!」

「これが終わっらあんたにはお肉ね!」

 私は魔族の力で生えた羽を使い、凄まじい速さでグレイルに向かっていく。
 その後ろからシュートが追い掛けてくる。

「ロッドオオオオオオオオオ!!」

 グレイルから更なる攻撃が私を襲い来る。
 二股の槍は数倍にも大きくなり、私に向かって飛んでくる。
 避けようにも避けきれないーー。
 私は小さな的だが、槍の速度と私の移動速度が嫌な程な見事噛み合い、逃げ道を失くしてしまった。

 私は止まり、杖を構えて結界を張る。
 すると、目前に迫った二股の槍は突如消え、巨大な魔法陣のみが空中に残る。

「ーーリリー様。魔族の力は使い方ですよ~」

 グレモリーの仕業だった。
 振り返ると、手を振って微笑んでいるグレモリーに私も思わず微笑んでしまう。
 二股の槍を一瞬にして異空間移動にて消し去ってしまう程の魔力ーー。
 
 この場でそんなことができるのは、グレモリーただ一人だろう。
 私はまた開けてもらった道を、一気に加速して突き進む。

「グレモリーには新しい服ねっ!」

「ーー行くぜリリー!」

「ロッド………ロッドオオッ!!」

「「ーーこれでトドメだああああ!!」」

 私の横に並び、並走していたシュートと二人でグレイルを殴り飛ばした。
 グレイルは後方へ吹き飛び、枯れた木々を十本程度貫いたところで勢いが落ち、地面に倒れた。

 殴った衝撃で、グレイルの着ている鎧の下から、輝く宝石が転げ落ち、私とシュートの足元に転がってきた。
 ダイヤモンドよりも輝き、そして愛の重みが全て詰まっている三大秘宝の一つ『純愛結晶』。

 私とシュートは、二人で『純愛結晶』を手に取った。
 『純愛結晶』は、キラリと輝きを放つと、中に見えていた赤い糸が切れてしまった。

「……糸が切れた」

「これで、グレイルとロッドを結ぶ糸は切れたんだ。ここに俺達ので書き換える……」

「させ……ない。させないぞそんなことっ!!」

「あいつ……まだ生きていたのか」

 グレイルの声が聞こえ、正面を向くと黒い鎧が半分ほど消え、赤髪も七割ほど黒髪に戻っている。
 
「それは俺のだ。俺とロッドの愛の結晶だ!」

「……愛の結晶なら、二人の胸の中にあれば……十分なのよ…………」

「やめろお……! やめろおおおお!!」


「「我らはここに誓う! いつ如何なる時でも、互いを愛し、互いを信じ合うことをっ! そして生涯このパートナーを愛し続けることをっ!!」」


「ーーやめろおおおおおおっ!!」


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