元姫だった私、魔法適正値10000オーバーの冒険者〜勘当された姫は、冒険者の夢を叶え旅をする〜

永遠ノ宮

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二章〜冒険者は時に、資金稼ぎとして依頼も受ける〜

三十八話 変わってしまった(ロッド視点)

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 私がグレイルと出会ったのは、四年前。
 晴天の青空の中、家業継ぐのか、教授を続けるのかで迷い、一人街の中心区にある噴水のベンチに寝転んでいた。
 この物騒で、変わった街に安全地帯は常に無いが、私に限って通りすがりに殺されたり拉致されることはない。
 そうーーこの街で私は、有名だから。
 有名だからこそ目をつけられない、矛盾の街だから。

「横、良いか」

「……ああ、はい」

「すまない。俺はグレイルと言って、昨日からこの街に越してきた。宿を探しているんだが良いところを教えて欲しい」

「それは良いですけど、この街で知らない人に声を掛けるのは気をつけたほうが良いですよ。死ぬか売られるので」

「それは分かっている。だから、あなたのように美しい女性に声を掛けた」

「ーー私を何で女って!?」

 不思議な人だった。
 私はこの街で、ロッドと言えば女顔をした男で教授、その上長く教会を守り続ける一家の子供ーーだから手出しができない。
 そうやって私は身を守ってきた。だが、グレイルだけは私を女と見破り笑顔を見せた。

 この街でここまで良い笑顔をする者はいない。
 グレイルは余所者だが、この街に一日も居れば笑顔は消える。
 裏道に入れば人は死んでいる。ゴミ捨て場に行けば、臓器が袋に入って捨てられている。
 そんな血と臓物と、殺しや拉致のスキルが生活に大きく影響する場所で、グレイルだけは、太陽のように輝いていた。

 それを私は忘れられず、教えた宿に足を何度も運んだ。
 会えない日もあった。その時は宿のロビーでコーヒーを飲んで帰りが夜遅くなろうと待った。
 そしてそんな生活を送るに連れ、私とグレイルは恋に落ちこんな危険な街で恋人となっていた。
 そこで登場したのが、『純愛結晶』だった。
 
「だけど、私達はーー失敗した。秘宝に頼り、伝説を信じ、愛は二人の間にだけあれば良い物だったのに、永久的に残したいなんて、悪魔の秘宝に手を出して……結果、こうなってしまった。こうなるくらいならーー最初からあんな物、無ければ良かった」

「ロッド……さあ、俺と行こう。冥界へ」

「冥界になんて、私は行かない。桃源郷に行けなくても、私はまだ死ぬつもりはない。グレイル……過ちを私が絶ち切ってあげる。私もまた、過ちを抱えて後を追うから。だから、安らからに眠りなさい!」

「ロッド……俺は、間違っていない。お前と俺は、正しいことをした。愛を形に残して何が悪い、愛は今もーー」

「ーー愛など今の私達にはないっ!!」

 私ははっきりと言い切った。断言してみせた。
 私が愛したのは、優しく笑顔で太陽のように毎日輝くグレイルであり、亡霊の如く黒く染まり過ちと恋を自ら断ち切れない醜い男など、知らない。

「アイスエッジ!」

「ーーロッド……」

「もう名前を呼ばないでっ!」

「……ロッド。お前を連れて行く」

「五月蝿い! お前なんかに連れて行かれない。私は輝いていたグレイルと同じ墓に眠る! それが私の愛だ、幸せだああああ!! 貫けええええ!!」

 生成した氷は先の尖る氷柱となり、グレイルに向かって飛んでいく。
 グレイルは結界を張ることなく、私の攻撃をその身で受けた。
 砂埃が立ち、影にはしっかりと氷柱が刺さっている。

「やったか……」

「ロッド、何故逆らう。何故俺を拒む! ……そうか、お前は俺を元から愛してなどいなかったのか。フッ、辛いものだ……ロッド! それなら殺してでも冥界へ連れて行く! アンデッドとなり、共に暮らすのだっ!!」

「ーー何っ!?」


「集まれこの世に漂う未練残す亡霊達の魂よっ! 俺に力の為にその魂を捨てるのだああああ!!」


 グレイルは刺さった氷柱など気にも留めず、両手を広げて魔法陣を足元に展開する。
 すると、次々と四方八方ーー空からも土中からも、黒く燃える亡霊の魂が集まりだす。
 それに加え、木々は枯れはじめ悪臭も漂いだした。

「何だこれは……っ!」

「ロッドさん、一旦引くのですう!」

「ーーベリアルちゃん!? どうしてここに!」

「この悪臭を嗅ぎ付けて走ってきたですう! 早く、リリーさんとシュートさんの仲間も駆けつけたですう。それと、シュートさんはまだ生きているですう! だから立て直すですう!!」

「……そうですね」

 私はベリアルちゃんと走り、この場から一旦森の最奥地、避難所に向けて引くことに。
 後ろを振り返ってみると、グレイルは次に次に亡霊の魂を吸収してーー大きくなっている。
 もう、グレイルではないーー。ただの、化物に変わり果てていく。
 
 グレイルは本当に、どうしてしまったのか。
 いや、あの日からか。二年前に、一悶着あった騎士団を皆殺しにして、魂を抜き取る禁術に手を出した……あの日、あの時から。

「ーーロッドさん! 『純愛結晶』を取り返す方法はどうすですう!?」

「リリーさんと、シュートさんが二人同時に『純愛結晶』を手に取ること。それは触れた時点でーー結晶で結ばれた男女は書き換えられる。だからあの二人しかーー」

「それなら良かっですう! シュートさんは今、治療中で臓器再生しているですう! リリーさんとシュートさんを追ってきたお仲間の方と知り合いの魔術師の方がとても凄いですう!」

「……急いで行きましょう。シュートさんが生き返ったらすぐ動いてもらいますから」

 私とベリアルちゃんは、枯れていない木々の幹を蹴って移動する。
 走るより早く移動できて、それに地上性の動物と衝突することも無い。

 素早く移動しながらチラチラと、やはり気になって後ろを振り返る。
 その度に、黒いオーラは更に大きくなる一方。
 木々も私達を追いかけるように、枯れてきている。

「着いたですう! シュートさんどうですう!?」

「……大丈夫なのですか?」

「ええ……グレモリーが治療してくれてるの。私はずっと、手を握っているしかできないけど…………」

 避難所に行くと、リリーさんがシュートさんの手を握り続けながら涙を何度も拭いて座り込んでいた。
 その横で、紫髪の不気味な、それも強力な魔力を持った女がシュートさんの胸部に手を当てて治療していた。

 治療に使われている魔力量から計算して、日が昇る頃には完治していることだろう。
 あの瀕死ーーいや、もう死んでいた人間を蘇らせることができるのは魔導師の中でも限られている。
 バルテン王国ーーS級魔導師ジーゼルの補佐、グレモリーか。

「リリー様……魔族の紋章が額に出ていますよ~。膨大な魔力量の中にまさか魔族の血が流れていたなんて……親御様もびっくりですよお? ウフフッ……何処で手に入れたんですか~それ~?」

「知らないわよ……何でかなあ。シュートの事となったら私、あいつを殺したいと、本気で思って、そしたら意思に反して闇魔法が優先されてーーここに来て水溜りで自分の顔を見たらね……紋章。それに、右目が赤くなって炎を放っていた……私は、何なのかしら」

「それってーー」

「リリー、大丈夫大丈夫! あんたが魔族なんじゃないんだから。ただ、たまたま何かで流れた魔族の血が沸騰しただけシュートのことでね。気にしない気にしないっ!」

「そ、そうなのですよ? 私だって、何でか猫族ですよ! 同じなのですよお!」

 あれはもしかしてーーアリアータという少女と猫族の末裔と噂が今流れるネネ。
 そうかーーそれで、それで強いのか。
 リリーさんは、最近名が世界的に広がり始めたカルシャーナ・リリーだ。
 それでシュートさんーー分かった。私は今目の前に、バルテン王国新星のギルド『ドリーマー』だ。

「まあ、会えたらローズにでも聞いてみるけど……シュート。ごめんね、私って黒いみたい……」

「黒くない、リリーさんは黒くないです。一番今黒いのは……グレイルだから。だからお願いします、あなたは白いーー魔族の血が流れているなんて、関係なく、あなたは天使。だから止めてほしい……『純愛結晶』をシュートさんと二人で手にして、男女の書き換えをして欲しい……! お願いしますっ!」

「……はあ。そうね、私らしくないわよね、悩むなんて。私が実は魔族でしたとか、お父様が魔族でしたお母様が魔族でした、なんて知らないわねっ! 良いわ、やってあげる。シュートが生き返ることが確定した今だから、胸張って約束してあげるわあ!」

 リリーさんは涙を拭い、シュートさんの額に唇を当てると立ち上がる。

「それまで時間稼ぎよっ! あいつの魔力、馬鹿でかくなってきているからねーーだから、このまま私は魔族の力を活用して戦うわ! 今は自我もあるしね!」

「じゃあ私も参戦ね」

「やるですよお!」

「やるのですう! 翻弄してやるのですう!」

「皆さん……ありがとうございます。死なないように、お願いします。私ももう、誰かを失うのは嫌なので」

 私達は、避難所から出て、魂を吸い尽くして極限まで大きくなったグレイルを見つめる。
 グレイルは、崖の中腹辺りにある洞窟を活用したここ避難所と同じ高さまで成長している。
 推定で体長五メートル以上。

「グレイル……大きくなったところであなたは過去に縛られ続ける……小さい器の男。今、その器を割ってあげるから…………」

「行くわよーーみんなっ!」

「「ーーおおおお!!」」
 
 私達五人の声が洞窟の中にも響き渡り、村に住む鬼族の民達はこの状況を打破して欲しいとお願い、そして希望を背中に感じながら飛び出した。
 シュートさんが生き返るまでの、時間稼ぎだげでもできたらーーそれで良いと。
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