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一章〜ギルド設立を目指して〜

二十六話 バトルロイヤルの激闘⑩

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 アリアータが目覚めてくれた、それが何より私にとって嬉しいことだった。
 ムーンデッドアタックーーアリアータの固有魔法。
 それが発動されるやいなや、シャイニングソードはゆっくりとオーラを消していき太陽光を吸収するだけとなる。

「うーんーーこの剣、アリアータ行きね」

「……あなた達、本当に何者でしょうか?」

「え? ……愚問ね。私達は夢を追うだけのただの、人生の放浪者よ」

「人生の迷い人が、夢を? 笑えません」

「笑えないの? 私は笑うわよ、だって夢を追いかけて迷うのよ、馬鹿で滑稽じゃない。計算無しに動くんだものね、それでもーー迷ったらまた戻れば良い。そして違う道に行ってみれば良い。そうしたらね、気づいたら……夢に近づいているのよ、私がそうだったように」

 私は観客席に目を移した。
 観客席では、ジーゼルとグレモリーが泣きそうな顔をして私を見守っている。
 親心ーーそんな温もりが伝わってくる。
 実際、ただの魔道士とその右腕なのに。
 人との出会いで、道が増えた私にとってはまた二人との日々が、冒険者になるための新たな道だった。

 私は二人に、ウインクしてみせるとジーゼルが早速泣いてしまった。
 唇を噛み締めながら、右腕で目を覆っているが涙が漏れる漏れる。
 ジーゼルは親ではない。祖父に近い存在かもしれない。

「ーーて、ことよ?」

「……あなた、まさか本当にーーそんな、お姉様の言うことが本当にーー」

「さあ? ただの魔道士の知り合いーーかもね。でも、これは事実よアルバータ。人は出会う人とその人との出会い方次第で、大きく変わる。夢を追いかけられるようになったり、強くなれたり、あの馬鹿な子みたいに……どれだけやられても死ぬその寸前まで、戦えたりね」

「そんな哲学的思想で、冒険者をやっていけるとでも?」

「やってるわよ、それでやれているから私はこうして、あんたにやられても立っているじゃない? それに今の私はピンピンよーーアルバータ、頭ずらした方が……良いわよ?」

「何を言ってーーっ!?」

 私が忠告してあげると、アルバータは意味不明と言わんばかりに首を大きく傾げた。
 だが、すぐに目をかっぴらいて自分の肩を見ることになった。

「そん、な……っ!」

「どうしたの? 肩に見えない攻撃でも来たのかしら、そりゃ災難だったわね」

「……くっ! 何をしたのでしょうか」

「簡単よ。この私を包むオーラを凝縮して、あんたの肩目掛けて投げただけよ」

「しかし動いてーー」

 そう、私は動いていない。じゃあ、誰が飛ばしたのか。
 動いていない私である。

「どう飛ばしたのかーー簡単簡単! 目で飛ばせば良いのよーー目で。三白眼のあんたにはできない、これはある程度の視野を持つ者ができること。凝縮した魔力を磨き尖らせ、刃物ばりの凶器に変え、更に目にも魔力を巡らせて結界を飛ばす用量を使うだけ。でも三白眼は視野が狭いから自分の纏うオーラを少ししか見えていない。つまりあんたには使えない、三白眼で冒険者をしていることに驚いたし凄いと思えたーーでもね、だからこそ弱点を探るのは簡単だったわあ。ありがとうね、神獣鏡」

 神獣鏡を見下ろしたアルバータは、

「ーーまさかっ!」

「ええ! まさかのまさかでおおまさか!? あんたが神獣鏡に実は視力を移植していたなんて、どこの誰が思いつくかーーあ、私だったあ! そう、あんたは神獣鏡に目を明け渡した。少ししか見えないその三白眼の視力を全て捧げて視界を手に入れた。けど、鏡にも映らない物はあるわよ魔力とかね?」

「……そんな、そんなことが……」

「無いと思うのなら、確かめてみる? 今から私の繰り出す攻撃は全て、弾けない。だって、鏡には映らないのだから、鏡はそれを見ていないのだから」

 神器に視力を全て捧げたアルバータ。
 その事に気づいたのは、実はたった今。
 実は最初から気づいていながら、やられてチャンスを伺っていたーーなんて、計算で動ける程私は賢くない。
 猪突猛進しかできない馬鹿は、気づくために何をするか。
 
 できることを全てする。それでやっと気づく、相手の弱点に。
 私がさっき、魔力の凝縮体を飛ばし、その攻撃が当たったことで気づけた。
 つまり偶然、奇跡的に見つけることのできた弱点に過ぎないがはなから知っていたとばかりに笑い、相手を見下ろすのが私。
 バルテン・リリーではない、今のカルシャーナ・リリーである。

「さあーーこれは弾ける!?」

「ーーうっ!」

 魔法陣をアルバータの頭上に出現させ、私はそこから氷柱を落とす。
 神獣鏡に視力を渡し、リンクしているアルバータには鏡の向く方向しか見えていない。
 頭上の攻撃は完全に守備範囲外。

 神獣鏡を頭上に向ける前に氷柱はアルバータを襲う。
 さっきやった肩に氷柱が刺さり、アルバータは右肩の機能を失い神獣鏡を左手のみで何とか持っている。
 が、そんなの左肩も機能不全としてしまえば終わりの話。
 
 しかしーーそうしないのが私である。
 頭上に神獣鏡を左手のみで向けたアルバータだが、その隙をついて背後に移動する。
 気配で察知したのか急いで振り向くアルバーターーの、意表を突いてさらに私は目の前に移動する。

「ご機嫌あそばせ? アルバータさん」

「……あ、あなた……一体……!」

「ただのーー冒険者よおおおお!!」

 アルバータと息が掛かる距離まで詰めた私は、その険しい顔に魔力を込めた右手をぶち込む。
 神獣鏡は私の胴体部分で隠れ、何も見えなくなっているためすんなりと殴ることができた。
 
 結界を咄嗟に張ったアルバータは、数メートル程後方に吹き飛んだ。
 そこに追撃する私ーーを、横目で見てくれたシュートがニヤッと笑った。
 ーー良い男ね、馬鹿だけど。




「ーーアルバータアアアア!! 神器に頼ったことを悔い改めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」




 アルバータの目の前で、私は一回転して爪先で顎を蹴り上げる。
 魔力を込めていない蹴り上げは、神獣鏡は見えていても反撃できるはずもなく。
 アルバータは口から血を吐きながら、空へ向かって飛んでいく。
 太陽と重なり、神獣鏡が激しく輝くが、その輝きは涙にも見えた。

「ーーうっ!! がはっ! ……私が負けるなんて…………っ!」

「アルバータ、神獣鏡の使い方をもう少し頭捻って考えないとね? ちなみに、もうあんたは戦えない。脳が大きく揺れて、リンクしている目の本来の保有者であるあんたは何も見えていない。私とあんたとの勝負はここまでよ、脳震盪で意識が飛ばなかったことが幸いだったわね」

「…………認めましょう。カルシャーナ・リリー……あなたに、負けたと認めましょう……」

 無様に観客席の空いた部分へ落下したアルバータは、目を閉じている。
 私は異空間移動して、アルバータの前に立ち、そして負けを認めさせることができた。

 ーーアルバータは戦意喪失。

 仰向けに寝ながら、アルバータは息を整えると神獣鏡を手の感覚のみで探し、見つけると引き寄せて抱きしめた。
 流石は神器ーー鏡面は無傷である。

「神獣鏡……申し訳ありませんでした……。あなたは、本来、こんな馬鹿な私の元にいる神器ではないのに……」

「それは違うわよアルバータ。神器は人を選ぶ。ただ、選んだ人が変わってしまっただけなのよ……だから、あんたがまた変われば良い。神獣鏡と共にありたいのなら」

「……馬鹿のくせに、良い言葉だけは持ち合わせているのですね……。はあ……お姉様以外に負けたことなかったのですが、これはこれでーーこの負けは、良い経験でした。カルシャーナ・リリー、一度こうして戦った仲ですが私とお友達になってくれますか?」

「ええ、もちろんよ! いつでも遊びましょう、魔法で」

「普通に、お互い女の子らしく買い物とでもいかないのでしょうか?」

「私達はあくまで冒険者。まあ、でも? アルバータがそういうのなら、それでも良いけどーーって、うわあ!」

「ーーリリー! 倒した、倒したよっ! 『クイーン』の副リーダーをっ!」

 と、観客達の頭を踏みつけながら私のところへすっ飛んできたガリレオが抱きついてくる。

「そんなに凄いこと?」

 私がとぼけて見せると、ガリレオは満面の笑みで頷いた。
 その満面の笑みに、「まあ、これくらい余裕よ」と嘘をついた。
 さて、それはさておき。

「……アリアータ…………勝ちなさいよ。あんたはもう輝けているわよ」

 私は勝ったが、まだ最後のおおとりであるアリアータとアルラーネ戦は終わっていない。
 やっとの思いで立ち上がったのだろう疲労しきったアルラーネと私、そして駆けつけてきたシュートとネネ。抱きついて離れないガリレオ。
 私達五人は、この観客席から今年の歴史に残るバトルロイヤル最終決戦を見守るしかないのだった。
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