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一章〜ギルド設立を目指して〜

二十話 バトルロワイヤルの激闘⑤

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 銃声が鳴り響く闘技場。
 銃弾を跳ね返し、砂埃の中から飛び出していく私。
 武器を変え、雷がカラクリの先端で渦を巻いているこれまた不思議な武器を持ったガリレオ。
 私とガリレオのカラクリから放たれた雷の凝縮体がぶつかり合う。

 雷の凝縮体ーーそれはボールのようで、呆気なく結界によって分散する。
 闘技場の内壁に雷が走った。

「ーーなんて言う、カラクリなのかしらっ!?」

「ーーレールガンよっ!」

 私の蹴りを、ガリレオはカラクリの盾で受け止める。
 左前腕部に取り付けられた、ホルスター型のカラクリには盾が仕舞いこまれていたらしい。
 私は驚いたが、しかし、これを壊すことくらい容易だ。
 防御は崩せばーー全てが崩れる。

「ガリレオーーもらったわあ!」

「甘いよ、リリー!」

「ーーまたカラクリ!?」

 着地する前に宙を蹴って、盾に高さを合わせて蹴りを放つ。
 すると、盾はすぐに壊れた。だがーー壊れたには壊れたが、すぐに新しい盾がカラクリから出てきた。
 いくらやっても、終わりそうにない勝負ーーいや、魔力枯渇になって私が敗北しそうな展開へと逆転する。

 逆転も何も、まだ勝負は始まったばかりだ。
 まだ勝負の結果を想像するには早い。
 一人の、仲間の過去と思いーー。
 負ける確率が上がっても、私はそれを更に、逆転してみせる。
 拳を握る力が、強くなり、足の先から闘気が漲ってくる。

「全身強化魔法ーープラズマアタック!」 

「また全身強化? しても無駄ーー雷と雷では、合体して大きくなって飲み込まれるだけよ」

「どうかな? 打ち消してしまえばーー残らなくない?」

「……やってみなよ! やれるなら!」

「良いわよ……ーーガリレオおおおお!!」

「来なさいよ……ーーリリいいいい!!」

 ーー私は飛び出す。
 
 雷の如く、閃光の如く、たった地面一蹴で、残像を残して。
 ガリレオは私が目の前に一瞬にして現れたが、冷静に大きく後方へ飛んで距離を取り、溜めたエネルギーを使ってまた雷ボールを飛ばしてくる。
 今回のは、一つ前より大きい。五倍はある。
 私一人くらい余裕で飲み込むことが可能だ。

「ーーやれっ!」

 飛んできた雷ボールにガリレオは魂を吹き込む。
 ーーただ、魂を吹き込むならもっと早くしておくべきだった。
 私は笑みを浮かべながら、右手に全身包み込む電流を移動させ、そして更に結界を掛け合わせた。

 雷ボールは、膨大なエネルギーを宿す電流と結界によって打ち消された。
 そしてまた、電流を全身へ流す。
 電流を全身に流すことで、筋肉が刺激される。これが全身強化魔法ーー『プラズマアタック』、私命名のオリジナル魔法である。

 ガリレオは一瞬にして消し飛んだ雷ボールを見て、膝から崩れ落ちた。
 武器から手を離し、盾も仕舞ってしまう。

「……う、うううっ! カラクリは、やっぱり……所詮、カラクリなんだよっ! ぐううううっ!」

 ガリレオは唇を噛み締め、涙を必死に堪える。その代わりに声が漏れてしまった。
 
「ガリレオ」


「リリー……やっぱり、僕のカラクリは……冒険者の為でもなくて…………人殺しの……兵器なのかな?」


 顔を上げたガリレオは、もう涙を堪えきれず泣きながら私に飛びついてきた。
 私の胸に顔を擦りつける度、ひんやりとした涙が火照った私の体温を冷ましていく。

 ガリレオのカラクリは、立派だ。多分、世界でこのカラクリを造れるのはガリレオしかいない。
 冒険者の為のカラクリーーそうあるべきであるとも、思える。
 人殺しの兵器になり、血を浴びたカラクリは錆びる。壊れる。
 ただのーー殺人鬼でしかなくなる。

 カラクリも、人も、それは同じだ。
 鬼になることは至極簡単だ。しかし、鬼から人へと戻ることは不可能だ。
 人は人を殺し過ぎると、そのうち感覚が麻痺してしまう。だから、殺人鬼が生まれ、言葉の最後には『鬼』と付けられて言い表されてしまう。

 カラクリも同じだ。
 人が動かしているから、カラクリは鬼とならないかと言われても、なるものはなる。
 カラクリにも心臓はある。
 だから、人が操作すれば動くのだ。一人で精一杯。
 カラクリも人を殺す兵器になれば、それは血を浴びて錆びてしまうし赤色の鬼へと生まれ変わる。
 人の血の味を知れば、一生忘れず生きていくことになるのがーー鬼だ。

 だから言いたいーー。

「あなたのカラクリは……兵器じゃない。ちゃんと、人として、冒険者の為に、あるわよ……もう、泣かないの。冒険者でしょ?」

「リリー……リリー……! 私、私……! ずっと考えてたの! 私のカラクリは戦争の為にあるの!? 私のカラクリは人の為にあるの!? でもでもーーだから! 私は冒険者になってカラクリを、壮大なファンタジーの世界で活躍する武器として造りたいと思った、造った! でも……あなたにたった一撃で全て壊れた気がした……砕けちった気がしたのっ! それでもーーそれでもーー!」

「馬鹿ね……そもそも、カラクリで強い奴に勝てる訳ないじゃない。でもね、あなた自身が強くなれば……カラクリもきっと、強くなる。人を殺す為に造るんじゃない、仲間を助ける為のカラクリを造れば良いの。発明家は、いついかなるときでも、そうやって最高の発明品を造りだすのでしょ?」

「リリー……。私……強くなれるかな?」

「なれるわよ。あなたが望めばそれは絶対に。夢は見るものじゃないの、叶える為にあり、叶える為に見るもの! 受け売りの言葉だけどねっ!」

 私が笑ってみせると、ガリレオは更に涙を増やして号泣してしまう。
 私を強く抱き締め、もうこれでは勝負にならない。
 そう思ったのは私だけでない。両チームの仲間が、私達の元へ集まってきた。

「リーダー。いつでも俺達は、あんたの仲間だ。だから発明を続けてくれ? 俺達はあんたのカラクリ、弱いとか思わない。温かい、熱を感じるんだよ」

「私達は……ガリレオじゃなきゃ、リーダー任せません。だから……弱いとか思わないでくださいよ……強いですよ……ううっ……ううっ!」

「そうだぜ。あんたはリーダーなら、この馬鹿みたいに胸張っていなきゃな。自分より弱くて、志の無い奴なんて、リーダーとして認めてもらえないからよ」

「あんたねえ……。ガリレオちゃん、あなたはそうして涙を流せるだけ、強いじゃない。だから、カラクリを私達にも提供してね? あなたのカラクリ、最強じゃない!」

「そ、そうですよ! 私も、欲しいのですよっ!」

 シュート、アリアータ、ネネが、ガリレオの頭を交代で撫でながら、カラクリとガリレオを褒めた。
 いや、この際、褒めたと言わないのかもしれない。ガリレオを、讃えたが正しい。

 ガリレオのカラクリは、私も欲しいと思う代物ばかり。
 戦争の兵器に使った奴らを、私は許せないとすら思ってしまうほどにだ。
 今日さっき出会ったばかりでも、こうして一緒にみんなで涙を流し認めあえる。
 もうこれは、友達であり、チームや行動は違えど仲間となったも同然。

 ガリレオの号泣が終わると、観客達は一斉に立ち上がり、拍手を送る。
 この光景を見ていて、何処の誰が、ガリレオのカラクリへの強い思いを笑うだろうか?
 誰も笑わない。だから、観客達はみんな、拍手する。
 
「ガリレオ、カラクリ頑張るのよっ!」

「うん、うん! リリー……私の負け。また、良いカラクリができたら……その時は、何度でも私と戦ってくれる?」

「ええ、もちろんよ。この勝負は一生のお預けよ、私達はもうーー仲間でしょ? みんな、この八人は」

「……うん。ありがとう、リリー。……みんな、戻るよ。観客席から、決勝戦を見ようーー仲間の勝利を祈るの」

 ガリレオは立ち上がり、ニコッと笑みを浮かべると仲間に背中を擦られながら、裏へと下がっていった。
 ガリレオ率いるチームは、これで棄権となった。
 だからこそ、私達は決勝戦で『クイーン』を絶対に圧倒して倒さなくてはならなくなった。

 それでもって、優勝して、最後にはバルテン王国から世界中へ届くように。醜い戦争をまだする国へ。
 もうやめなさいーーカラクリは兵器ではないーー人の為になる最強で最高のバルテン王国が誇る技術。
 そう、言ってやると強く胸に決める。

「ーークイーン。私は目的が二つできた……だから、殺す気で行くわよ!!」

 何処で見ているのか分からない『クイーン』に、私は宣戦布告して、三人と裏へ下がったのだった。
 敗北の涙をーー知りなさいっ!


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