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一章〜ギルド設立を目指して〜

九話 冒険者適正④

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 楽しく思えたのは、ほんの一瞬だったと、さっきの心境を語ったがそれは撤回しなければならない。
 相手は狼で、群れで襲い掛かって来たところで相手にもならないことは言うまでもない。

 しかし、量が多すぎてーー殲滅に時間が掛かり過ぎる。

 日暮れ前に集合ーーなんて、言っておいてなんだが食料は大量に確保できる状況にある。
 だけど……。
 だけど、リーダーの私から場所と時間を指定しておきながら遅れてしまうのは失態と言える。

 もしかしたら二人は、待ってくれていないかもしれない。
 約束も守れないーーそう言って、私から離れていくかもしれない。
 私は人を強く信頼することができない人間だ。
 それは城に幽閉されていると言っても過言ではない、不自由な生活を送ってきたからこそ、ジーゼルやグレモリー、レベッカと違い、昨日今日出会ったばかりの男女に信頼を寄せれない。

 口約束は、約束でなければ、いつでも破ることのできる約束でしかない。
 書類に印を押したと訳が違ってくるのだからーー。

「おいおい、これ間に合わないぞ?」

「みたいね……。ハア……ハア……。服は大丈夫?」

「何とかな。それよりお前だーースカートなんて履いてくるからだぞ、太腿が露出してる。とりあえず、これを腰に巻いてろ」

 そう言って、シュートは鎧を脱ぎ捨て中に着ていた自分の服を破り私に投げてきた。
 
「でもそうしたらーー」

「女の肌を他の奴に見せられっか! 良い見世物になるじゃねーか」

「あんたも大概馬鹿ね……ああ、もう! 分担よシュート。私は狼、あんたは剣のリーチがあるからスライム」

「そうした方がーー良いだろうな。んじゃあ、早く終わらせて夜までには戻るかーー相棒」

「だからーー!」

 また背中合わせになり、私は狼を。シュートは集まり群れを生したスライムを相手に構える。
 相棒と呼ばれ、否定しようとしたが、しかしそれが心地良くてーー嬉しくてーー。

「良いじゃないーーそうね! 頼むわよ相棒!」

 少なくとも、シュートからは信頼されていると私は思った。
 だからこそ、初めて他人を私は信頼することにした。
 
「「ーー早く終わらせろよっ! 相棒おおおお!!」」





「散々だったわあ……ねえ、シュート。変なところ触らないでね、布が無いんだから」

「触らねーよ。触って誰得だっての」

「何か言った? 私が十八歳にしては子供だからって何か言った?」

「何も言ってねーだろ。てか、身長はどうであれお前は普通に美人だからな。とりあえずこの草道の中抜けてりゃ、他の奴らの目にはつかないって」

 シュートにおぶられながら、私は頬を膨らませていた。
 とうに日暮れは過ぎ、星空が綺麗な時間。
 シュートの魔法で灯火だけを頼りに、道でない道を進んでいる最中だ。

 シュートが斬ったスライムの分裂体が、私の服に飛び、殲滅した頃には片胸と、片脚が付け根から、しっかりと露出状態になり、こうしてシュートにおんぶされながら移動しないと胸が隠せないので不本意ながらお願いして運ばれている。

「ーー私、時間守れなかった。みんな、怒ってるかな……」

「んなことねーさ! アリアータなら、多分いびきかいて寝てーー」

「だーれがいびきかいて寝てるだああああ!? 乙女はいびきーーかかねええええ!!」

 突如アリアータの声が、横の大木の上から聞こえ見上げると同時にシュートの顔面に膝蹴りが入った。
 目の前でシュートが、一撃で仕留められる様子を見てしまった。

「ーー遅いと思って探しにきたけど、リリー凄い格好じゃない。スライムにやられたの?」

「うん、分かる?」

「服が溶けてるから。破れているではなく、溶けているだから良くね。でーーと」

 アリアータはシュートの顔を踏みながら、辺りをキョロキョロする。
 多分、狼を探している。私達が狩ってきた今晩の食料を。 

 アリアータは自分の足元ーー丁度、シュートの顔の前に転がる狼数匹を目にすると縄を持って顎に手を置く。
 アリアータに着いてきたのだろうネネは、狼の死体を目にすると私達に背を向けて茂みで下世話な話、汚物を吐き出す。

「狼の死体くらいで……。こんなにいるなら、とりあえず焼肉、素揚げ、コラーゲンを取るのに水煮かしら」

「できる?」

「まーねー! ねえ、ネネちゃん。私達、泉の他に油の吹き出る岩場を見つけてそれも入手してきたのよね!」

「……うええええ。は、はい……」

 吐き過ぎて、胃の中身が空っぽになったらしいネネは真っ青な顔のまま立ち上がり、小さく頷く。
 
「……ああ、その前に服着替えないと」

「はい、リュック持ってきてあげたわよ。置きっぱになってたから、戻ってきてからここ来る前に拾ってきたから。シュートが見ないようにしておくから着替えて着替えて」

 アリアータは私のリュックから、赤のワンピースと黒のロングコートを取り出して渡してくれる。
 しかし、組み合わせがーー。動き難いったらありゃしない。

「動き難いと思ったらダメ。女は冒険者の前に、乙女でなきゃ」

 アリアータのウインクに、返すことができず仕方なく着ることとした。
 私が着替えている間、シュートはアリアータにタコ殴りにされていた。
 私の服がはだけたことを、シュートの原因にしているらしい。
 さっきまで、スライムのせいと言っていたのに。

 私が着替え終えると、シュートのタコ殴り刑も終わった。
 アリアータからリュックを受け取り、背負い、財布を見てお金が減っていないことを確認する。
 と、すぐに頭を擦りながらシュートが起き上がってきて、

「あー……。白髪の女にタコ殴りされる夢を見てた」

「それ現実、ですよ……」

 アリアータにタコ殴りされていたことを、夢と勘違いしていた。
 ネネがすぐに否定し、シュートはアリアータを睨み凝らしたが、逆に睨み返されて縮こまった。

「ーーさあ、ご飯にしましょっ! 明日に向けて寝るために、テントにも向かわなきゃ」

「そうね、そうしましょう」

 アリアータが狼を括り付けた縄を引っ張り出し、その後を私達三人は着いて森を抜けた。
 森を抜けると当たり前ではあるがすぐに草原が現れ、私達の集合場所が見えた。
 
 シュートの顔に、城を出る前レベッカから持たされた塗り薬を塗ってあげながら、集合場所(もう集合しているので集合場所ではない)へ向かい、着くとみんな腰をすぐに下ろした。

「じゃあご飯作るから待ってて」

 アリアータが私達から少し離れる。
 するとすぐに、骨をぶった斬る音が響いてくる。
 ビックリして私達はアリアータを見た。
 すると、魔女の調理如くーー。
 剣で狼の腕や足を切り離していた。
 
 その剣……包丁代わり……なんだ……。

 三人が三人共、そう声を漏らした。

「ーー何見てるのよ? 火をつけて、はい早く」

「「「は、はい……」」」

 アリアータの気に触れれば、私達もいつかああして、四肢をバラされる。危険を感じながらの返事だった。

「ーーまあ、木はモンスター狩りのどさくさに紛れて集めていたしな。これで良いだろ」

「ありがとうシュート。ああ、服どうする?」

「あ? 服かーーよし、奪うか」

「ーーえ、ええ!?」

 シュートは鞄代わりにしていたのか、鎧の中から木材をぶちまき、そこにネネが火をつけていた。
 その火付け役ネネちゃんが、猫耳をビクビクッ! と、動かして驚いた。
 だいぶとでかい声で、私とシュートも驚いた。

「……て、お前猫族だったのか?」

「今更ね……」

「は、はい。猫族……です」

「そっかあ。生き残ってたんだな猫族。それか末裔? か。うん、まあ、良いやーー別にだからって何でもねーし」

 シュートは何かを濁した。ように、私には見えた。
 プライベートっぽい上に、それはもしかしたら私の見間違いかもしれなかったので、触れずに流しておくことにした。
 
「でも服奪わねーと、俺、荷物系は全部置いてきてるぜ?」

「なら奪うしかないとして、他のチームとそう運良く出会えるかしら?」

 シュートが頭を掻き、「それな」と困った顔をする。
 困った顔をしないで欲しいーー罪悪感に苛まれる。
 これと言って私が何かした訳ではないのだけれども、しかし、シュートが服を私にくれたのはそれは私のスライムへの注意力が散漫だったことも少なからず原因と言えるかもしれなかったからだ。

「ごめんなさいね、シュート」

「謝るなよ、リリー悪くねーし! ほら、俺は男だから代謝良いし、全然寒くないからーーハクショッ!」

 胸を張っておきながら、すぐにくしゃみをして体をブルっと震わせる。
 シュートが強がっているだけで、事実この時間帯は案外冷え込む。
 ネネが火をおこしてはくれたものの、寒さを凌ぐには足りない。

 私は自分のコートを脱ぎ、シュートに掛けてあげる。
 シュートはビックリして、私の顔を見つめてくる。
 ネネは私の斜め前で、ニコニコしている。
 この空気……私だけ、恥ずかしい思いしてない?

「わ、悪い」

 私からやっと目を逸らすと、シュートは頬を指で掻きだす。
 思わず恥ずかしくなり、

「べ、別に良いわよっ!! ああ、私も料理手伝ってこようかしらね~」

 わざとらしくその場から逃げ出してしまう。
 立ち上がり、アリアータの元へ向かう。

「ーーあれ? どうしたのリリー」

「て、ててて、手伝いしようかなって」

「ん? 終わったわよ」

 と、アリアータは丁寧に石のお皿まで造り、その上に狼の食べられる部分だけを山盛りにしていた。
 
「え、ああ……そう」

「さあ、食べましょう! 美味しいわよ、絶対!」

 アリアータが微笑み、私は苦笑いする。
 アリアータの調理スキルは、見た目をオブラートに包む気はなく、素材そのままの見た目を重要としているらしい。
 ただのーーぶつ切りだった。
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