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一章〜ギルド設立を目指して〜

八話 冒険者適正③

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 不思議は余所に、さて、食料調達へ出向く私とシュート。
 食料調達といっても、何でもかんでも倒して持ち帰れば良い訳もなくーー食べられるモンスターを探すことから始まった。

 モンスターの知識が全くない私としては、シュートに頼るしかない。
 否ーー頼る以外に今夜を満腹で過ごす道はない。しかし、シュートは冒険者歴がある程度長いと道中私に語りながらも実は、モンスターを食べたことがある訳ではなかった。

 モンスターは狩るものであり、食べ物ではないと言う。
 ならどうして、私が食料調達班に選んだ際それを言わなかったのかーー。
 この男は、人生を適当になるようにフラフラ生きている浮浪者なのだろうか。
 
「てかモンスターなんてまず食べて大丈夫なの? 食べたら死なない? 毒とかあって」

「それなら心配ないわあ……あんたと言う毒味係が私達のチームには居るもの……アハハハッ!?」

 シュートの肩を両手で鷲掴みにして揺する。
 シュートがドン引きーーいや、私の思わず溢してしまった不吉な笑いに怯えてしまった。

「……もう、最初からそれを言いなさいよ」

「いやあ、モンスター狩ることに今は生きる意味持ってるかさ? そこは譲れないって言うかーー」

「なら責任取って?♡」

 最後にハートを付け加え、可愛い萌系妹風に、お願いではなくそれは強制である。私はシュートに毒味係を完全に委ねた。
 
「あ、俺妹系が大嫌いだから」

「ーー大好きと、言ってみなさい?」

 今度は頭を片手で鷲掴みにし、ニコッとグレモリーのように笑ってやる。

「う、うわあ~! 可愛い妹だあ~妹の頼みは聞くしかないな~(棒)」

 シュートは棒読みではあったが、毒味係を快く(心に私というトラウマを刻みながら)受けてくれた。

「でもさ、冒険者ってモンスター食って生きてないんだよ案外。普通にクエストで稼いだ金で飲んで食べてしてるしよ」

「そうだと思ってたけど、でも今回はキャンプでそれをしないといけないのだから、とりあえず適当に倒して食べましょう」

「致死性の高い毒持ってたら、俺確実にあの世だぜそれ。あー、怖い怖い」

 怖いと言いながらも、私と普通にモンスターを探す辺り、多分シュートは実際この状況を楽しんでいる。もしくは嬉しく思っているのかもしれないと思った。
 自分語りの中に、盗賊を辞めて冒険者になってからはずっとソロで活動していたとも言っていた。

 性格がこんなちゃらんぽらんだから、どこのギルドも欲しがらず、一人でソロ活動するしか他なかったはずだ。
 そう考えると、可愛い一面を持っていると思えた。
 ちゃらんぽらんで、一人で自由に生きることを幸せにしているように見せて実は、ただの寂しがり屋ーー。
 私に似ているのかもしれないーー。

「んだよ、ニヤニヤして」

「別に~? シュートも案外可愛いらしいじゃないと思って」

「……! ケッ、勝手に言ってろう」

「頬を赤くしてーーまさか照れたの? 照れたのお!?」

「照れて何が悪いんだってーーおい! 避けろっ!!」

 私はシュートに引き寄せられる。
 片手で何百キロもありそうな大剣を瞬時に構えたシュートは、私の後ろから飛び掛かって来る狼の牙を弾いた。

「馬鹿かお前っ! 死ぬぞっ!?」

「実戦経験無いのよ! モンスターの気配を感じ取れるくらい、私は出来上がってないの!」

「……ちっ! なら離れるなよ、俺がお前を守ってやるから」

 シュートはそう言うと、私を左腕のみでお姫様抱っこして狼に飛び掛る。
 右手のみで大剣を振るうつもりだ。
 それには身体的、筋肉的に無茶がある。
 ジーゼルや厚成みたく、筋肉で出来上がった身体でないシュートは細身で痩せ型。大剣を片手で振れば、それこそ筋肉が千切れる。

「無茶しないでシュート!」

「無茶なんてしねーって。俺は自分のできることを、するだけだっての」

「……馬鹿ね、ほんま」

 シュートは大剣を、本当に片手のみで振るう。
 薙ぎ払いで狼は吹き飛び、さらにそれを追ってシュートは大剣で一刀両断してみせる。
 地面に大きな凹みができた。

 狼は息の根が止まり、それを確認してからシュートは私を下ろしてくれた。
 お姫様抱っこを初めてされた感想についてーー悪くなかった。
 むしろ、キュンキュンしたが正直の感想だった。

「ーーうーし。一匹目」

「シュート、ありがとう」

「……? ああ、まあ、お前だから守っただけだって」

「……アリアータなら?」

「あ? アリアータをここで引き合いに出すか? そうだな……あいつなら放置だな。多分、死なないし」

 そう言って、シュートは笑う。
 
「ふーん。じゃあ、次はちゃんと戦うからモンスターの気配感じたら教えて? それとーー」

「ん? なんだよ」

「この試験終わったら、個人的に……モンスターの気配を感じ取る為の訓練して、くださいーーお願いします」

「…………。まあ、暇だったら」

 私は照れくさかった。他人にお願いすることが、これほどまでにこっ恥ずかしいとは思っていなかった。
 シュートは謎に赤面しながらも、お願いを聞いてくれた。
 私とシュートの間に少し沈黙が流れる。

 その沈黙は長かった。

 シュートが狼を紐に括りつけ、背中に巻きつけるまでの作業中ずっと、沈黙で押しつぶされそうだった。
 しかしそれだけではなく、私は身体の奥から熱を感じていてそれが更なる圧迫感を生み出し、私を潰そうとしていた。

「ーーお、終わった?」

 先に口を開いたのは私だった。

「ああ、バッチリだ! このまま次々ーー」

「頭下げなさいシュート!!」

 作業を終え、私に振り返ったシュートの頭頂部を足で、もう既に下げる間も与えず踏んでしまっていた。
 作業を終えたシュートの後ろにあった茂みから、別の狼が飛び出してきたのを私は見たからだ。
 気配でシュートも気づいたようだった。しかし、その時には私に頭を踏まれ前のめりに倒れていた。
 
「ーーリリー!」

「平気よっ! DEATH MARCH!」

 両手に魔力を集中させ、一匹の狼を約二十発ほど殴り最後は両手を合わせて地面に叩き落とした。
 狼の顔が地面に突き刺さり、首から下だけが地上に残る姿となった。

「はい、もう一作業よ」

「……はあ、そうみたいだな……。その強さ何処で手にしたかは聞かないでやるーーだが、一作業の前に一暴れだぜ相棒っ!!」

「ーー!? まだこんなに居たのっ!? て、相棒とか勝手に決めないで!」

 起き上がったシュートは、私と背中合わせに立って剣を構える。
 狼は一匹居たら、三十匹は居ると思えーーそう、ゴキブリの出ない私の生活環境において教えられてきた。

 そして現状ーー実際、それは現実となった。
 
 私達を取り囲むように、三十匹ーーそれ以上居るかもしれない。
 狼が四方八方から現れ、円を作ってきたのだった。
 私とシュート、一人十五匹は最低やらなければいけない。
 いや、それくらい朝飯前だ。だけど、狼に混じってスライムまで参戦してきているのが厄介でしかない。

 スライムは強力な酸で己の身体を作り上げている為、触れたものを溶かす効果を持つ。
 倒す方法は、分裂させれば良いだけーー。
 一般常識的にはそう伝えられている。太古の昔から存在するモンスター故に、事実、それが本当なのか明らかとなっていない。

「スライムも居るじゃない……」

「こりゃ一本取られた。でも、スライムの分裂体を水に溶かして熱入れると極上ゼリーになるらしいぜ? 殺す価値あんだろ!」

「でも服が溶けたら最悪よ……私女よ」

「心配ねーよ。そん時は、俺がお前の身を隠しながら変な気起こした奴らぶち殺して連れ帰るからよ」
 
「へえ~、なら任せるわあ? 私が裸になったらーーその時はあんたも裸になってもらいけどーーねっ!!」

「ーー良いぜ、そんくらいよっとっ!!」

 私とシュートは一斉に狼に飛び掛る。
 飛び込んで来る狼を殴り殴りーー。斬り斬りーー。
 しかし、倒しても倒してもうじゃうじゃどこからか湧き出てくる狼の群れ。
 先が長くなることは目に見えていた。

 しかし、私とシュートはこの状況下で笑った。
 この状況をーー楽しいと、心から思えたのだ。
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