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一章〜ギルド設立を目指して〜

六話 冒険者適正①

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 マスターは考えていた。
 私の魔法適正値の高さとはまた違うことを、一人真剣に、顎に手を添えて考える姿はーー様になっている。
 
「冒険者適正ーー」

 マスターはボソッと、呟いた。
 ーー冒険者適正。
 そう言ったように、私には聞こえた。

「冒険者……適正?」

「お嬢ちゃん、知らないのかい? 冒険者には、冒険者になるための適正値があるか、それが大事になる。適正値が無ければ、ギルドは作らないこととか」

「冒険者適正が無ければ、ソロプレイになるの? なんでなの?」

「そりゃあお嬢ちゃんーー」

 マスターは髭を触りながら私に振り返る。
 
「冒険者適正は強さじゃないんだよ。強さは魔法適正、行動力やコミュニケーションが冒険者適正」

 行動力やコミュニケーションを冒険者適正と言うらしい。
 
「へえ~」

 適当に返事をしながら、私は自分の冒険者カードを見つめる。
 やっとなれた冒険者ーー。
 たった一つの、冒険者カード。

 冒険者カードには、名前、住所、冒険者ナンバー、そして魔法適正値が記入されている。
 何かがあって、誰かが拾えば、これが事件なり事故なり、落とし主に辿り着く。
 例えばモンスターに食われた際に落ちた私のカードが、騎士団に渡れば元姫が胃袋で消化されていることが分かる。
 大体は食われたらカードごと無くなるけど。

「お嬢ちゃんは、可愛いねえ、本当に。カードばかり見つめて」

「馬鹿にしないでよ、マスター。私はこう見えて十八歳よ~」

「それは失礼。で、どうするかね? 行ってみるかい?」

「……ん?」

 首を傾げると、

「聞いていなかったのかい?」

 マスターが苦笑する。
 カードに気を取られ過ぎて、何もマスターの言葉を聞いていなかった。
 行くかと聞かれて、「うん」と頷けないまで、意識は冒険者カードにいっていた。

 そもそも何に行くのかーー初クエスト? 

 マスターにジュースのおかわりを貰いながら、カードを財布にしまい、話をちゃんと聞くことにする。
 咳払いしたマスターに申し訳ない気持ちを抱きながら、もう一度話してもらうことになった。

「お嬢ちゃんに冒険者適正があるかを確かめるべく、クエスト前の参加自由型試験に出るかどうかって話だよ。冒険者適正をそこで確かめることが可能だよ」

「それに出たら、何か報酬はあるの?」

「あるといえばある。そこで冒険者適正がある者は、すぐに仲間ができて試験後にはギルドを設立しているからねえ」

「ギルド……そうなんだ。じゃあ、マスターに今頼めば私は試験参加できるの?」

「ああ、できるとも。私はマスターだ、頼まれれば参加させてあげられるからね。それに、お嬢ちゃんは話しやすいからギルド設立を狙うならメンバー探しの場にもなる。ただーーある一つのクエストを参加者全員で達成するまで終わらない試験だから何日掛かるかは私も予測不能だけどねーー」

 とは言いながらも、マスターはスッと参加用書類をカウンターに出した。
 つまり、参加したほうが良いーーと、私に勧めている。いや、もう最初から、勧めてくれていた。

 マスターの言うことだ。
 ここまで集会場の頭が、新人の駆け出し冒険者に良くすることはまず無いと思うーー。
 つまり、マスターが親切に試験のことを私に教えてくれるのは珍しいことのはず。

 私は、ジュース一杯から繋がったこの縁を忘れないためにも、マスターの勧めに乗ることを決める。
 書類の参加に丸をして、マスターに返す。

「お嬢ちゃんなら、良い友達を作れるはずだ」

「友達なら居るわよ? 影縫って忍者」

「……『忍』のメンバーだね、その子は。影縫ーー懐かしい、彼女もまた、私とカウンターを挟めみながら幼少期、ギルドのリーダー厚成と来ていたかい。お嬢ちゃん、彼女の知り合いとはこれまた珍しい」

 マスターは厚成さんと、影縫を知っていた。
 それどころか、ギルドの名をほとんど知られていない(いや、知られていないのではなくあえて広めていない)『忍』を知っていた。
 人の縁も何とやらーー。世界は案外、狭いのかもしれない。

「お嬢ちゃん、影縫ちゃんと厚成がギルド『忍』を結成した場は、その試験でのこと。あの時影縫ちゃんは、小さかったからまだ冒険者でもなかったけど、その他の睡蓮、白夜がメンバーになった際、ちょうどマスターと試験監視官を務めていた私の記憶には新しい。君は厚成に似ている、人を引き寄せる力があるーーだから、期待しているよ」

「マスターに言われると、照れるわねえ……。じゃあ、もし私が一人でも友達作ってギルド設立したら、ご褒美くれる!?」

 子供じみた発想と、自分ですら思った。
 だけどマスターは、笑ってから頷いてくれた。
 
「良いとも! そうなったら、お嬢ちゃんのギルドメンバーのみ、ここでの飲み放題無料としようかあ」

 マスターは拭いていたグラスと布を置くと、小指を立てて、私の顔の前に手を持ってくる。

「約束ーーね! 見てなさいマスター! 私がギルド作ったら、そりゃもう世界がひっくりかえるんだから!」

 私も小指を立てて、前に出す。
 マスターと私の小指が絡まり、

「「嘘ついたら針千本のーます! 指切った!」」

 二人で仲良く、指切りで口約束を交した。
 その直後の事だった。
 ここ、集会場では鈍くさいーーいや、注意力散漫な冒険者は損することがを分かる事案が発生した。

 一人の可愛らしい私と似た年齢程度の女性冒険者が、あたふたしながらあっちこっちを何か探し回っている。
 物を落としたか、失くした……そんな感じ。
 私とマスターが温かい目で、見つかることを祈りながら見守っていると、膝から崩れ落ち泣き出したのだ。

「うへぇーん! お金取られちゃいましたですよー!」

 どうやら、布巾着に入れていたお金が根こそぎ盗まれたようだった。
 幸い布巾着は無事だったらしい。
 でも、大事な中身は見知らぬ冒険者に綺麗さっぱり、頂戴された後だった。

「はあ……。マスター、冒険者ってあんなのも居るのね」

「みたいだねえ……しかし、ああいった子に限って、実は強かったりするから不思議なものでね」

「どうしましょうですよー! 今月の生活費が失くなったですよー!」

 「マスター……あの子の分も飲み放題払うから呼んでも良い?」

「もちろん」

 マスターが笑顔で頷くで、もう一人分の飲み放題代を払って、私は泣き叫ぶその冒険者を無理矢理隣に座らせた。
 泣き叫んでいた冒険者の、叫びの内容が、お金を盗まれたことから私に強引に席に座らされたことへと変わったのはーー非があり、申し訳なかった。

 さて、隣に座らせたは良いもののーー。
 とりあえず五月蝿いから、飲み物で黙らせる。なんて、最近の餓鬼でも騙されない手法をとった訳のだが、これまた影縫に似た馬鹿なのか。オレンジジュースを目にするなり泣きやんだ。

「見苦しいところをお見せしてしまい、ごめんなさいです。お金、ちゃんと返しますですよ」

「いや、そんなの良いんだけど……幾ら入っていたの?」

「10000ギルなのですよ……」

 10000ーーそう聞いて、並の冒険者ならこの子をお金持ちと思うのかもしれない。
 ただ、昨日まで自分で言うと自慢なのか親への僻みなのか分からなくなるけれど、事実お金持ちだった私には海に落ちも惜しくない金額でしかない。

 手持ちはそこそこある訳でーー通帳を入れたら、十八歳にしては持ち過ぎてもいる。
 ので、私はこの子に10000ギルをポンと、普通に今渡してみせた。

「はい、あげる」

「ええええ!? だ、ダメなのですよ!? 10000ギルなんて返せないですよおおおお!」

 冒険者Aは固くなくに、私からお金を受け取らない。

「……人の親切は大切にしなさい。そういえば、名前は?」

 とりあえずお金はしまって、世間話に持っていくことに。
 仲良くなれば、ギルド設立に一歩近づくかもしれない。

「ネネです。アーシャネーコ・ネネ。ネネは猫族なので、この通りーー」

 ネネは、被っていたフードを取り、可愛らしい猫耳を見せてくれる。
 自由自在に動く猫耳が、ペコペコと頭を下げるように何回か折れる。

 フードが取れてようやく分かったが、髭も付いている。
 口と鼻の間から、六本の髭が左右に三本ずつ。私は初めて猫族と知り合いになった。
 そもそも、猫族がまだ居たなんてーー。
 猫族は、百年前に絶滅危惧種族として国際連盟環境省の保護観察対象となっていた。

 ーーなのに普通に冒険者できるんだ。

「アハハハ……ですよ。冒険者している理由は、逃げているからなんですよーー私は猫族のメス。猫族のメスは貴重ですよ。なので、奴隷商人が欲しがるのですよーー性処理の道具として……なので、冒険者に交じることで今まで逃げてきているですよ」

「誰も聞いてないのに、そう言う事はペラペラ話したらダメよ?」

「あれ? あれれ!? 本当なのですよ!」

 マスターは「君は傑作だね!」と、大笑いするが何処かーーいや、身近に似た馬鹿の傑作が居ると思うのだけど。

 私がため息を吐くと、ネネはしゅんと縮こまってしまう。
 
「どうしたの?」

「いえ……私、実は人見知りですよ……」

 人見知りの割に、自分の事をペラペラと話していた気がする。
 話し出したら止まらないタイプらしい。
 にしても、猫族は高い戦闘能力を秘め魔力の力を何倍にも向上させることを得意とするーー『強化魔法』を主な武器としている。

 欲しい存在ではある。でも、見た目からして、弱そうで頼りない。
 全くーー誘う気になれない。
 
「ーーどうかねお嬢ちゃん。この猫族の子を守りながら、二人で冒険者適正試験を受けてみては」

「……マスター、この子大丈夫に見える? 戦場に出したら泣いて逃げそうな勢いよ」

 小声でマスターにそう返した。
 しかしマスターは、

「大丈夫大丈夫。猫族を何人か見てきた私が言うんだ……あの子は、一見気弱に見えるけど戦えばかなりやる子だよ」

 と、小さな声で返してきた。
 それを言われては、何も私は言い返せない。
 仕方なしに、ネネを誘ってみることとする。

「ネネ、私と試験受けない?」

「……試験ですか? えーと……お嬢様が良いのなら良いですよ」

「お嬢様って……私はリリー」

「あ、はい! ごめんなさい……リリーさんが良いのでしたら私も行くですよ」

 何だか曖昧な返事をしてきたので、とりあえず勝手だと思ったけどネネの分も書類に参加を示してーー。
 また明日ここで集合することとなった。
 私は今日は、寝床が無いのでとりあえずマスターの家に置いてもらうこととなり、ネネは親戚の家に泊まりに戻っていった。
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