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売り上げを伸ばしながらクエスト

バイトの中で得たヒント

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「可憐さんってバイトするんですか?」
「しますよー? お金稼がないと、誰も仕送りもしてくれないのでー」
  
 夕方の18時のハンバーガー屋さんは一頻りお客様が引くと次は深夜まで暇になる。
 レジに立つ私と可憐さんは、暇なお客様のいなくなった暇な間に話しをすることにした。

「聞きました。可鱗さんから過去のこと」
「それはそれはー。うーん、でもいい話じゃなかったですよね?」
「あれがもしいい話だと感じるならば……かなりやばい人ですね」

 可憐さんって、存在自体がほのぼのだからなんか聞きづらいかも。
 いつ何時もほんのり笑顔でほのぼのしている可憐さんに、これ以上聞いてもいいのか私は迷った。
 けれど、可憐さんは普通に話始めた。

「ひどいひどい、酷インコですよ? 私が断れない性格だからと言っていいように使ってー。私は玩具じゃないのですよーって」
「どうして断らなかったんですか?」
「それは自分が断られた時の心境を咄嗟に考えての可憐ちゃんの優しさよ」
「……店長?」

 私と可憐さんの話に入ってきたのは店長だった。
 白泉花子さん。ここのハンバーガー屋の店長で、年齢は33歳。
 白泉店長は、可憐さんの肩に手を起きながら少し悲しそうな顔をして語り出した。

「私はこの子の元教師だったのよ。それで、この子のイジメに片割れの可鱗ちゃん同様に気づけなくて──落ちた可憐ちゃんを見て絶望したわ。それで責任を感じて教員を辞め、ここでバイトしてたら……可憐ちゃんが来てくれてね」
「白泉先生がいるって可鱗から聞いて来たら本当に居て、それでここでバイトをしようかな、なんてー」

 とてもいい話で涙が出てきそうになった私に、可憐さんは持っていたハンカチを貸してくれた。
 気が利く可憐さんは、やっぱり優しい。
 優しい人がイジメの対象になるなんて、絶対に許せない。と言うか、イジメ自体許せない。
 私が可憐さんをイジメた人達のことを考えながらムッとすると、一人のお客様が来た。

「チーズハンバーガー5のLLセットを1つくださいなー!」
「はーい! ──何やっているんですか?」
「ルルが帰りの買い物忘れてしまったから外食にきたんだよね」

 レジの前でピョンピョン跳ねるルルさん、その後ろで腰に手を当てて「アハハハ」と笑うカチーシェさんがお客様だった。

「あら? お友達なら可憐ちゃんの初接客相手になってもらったらどう?」
「じゃあルルさん、カチーシェさんお願いしますねー」
「「はいはーい!」」

 今日が初出勤日の可憐さんにプレッシャーを与えないよう、私と白泉店長は裏に下がってスマホのカメラを壁から出して画面越しに見守る。

「それでは、チーズハンバーガー5のLLセットを1つと……お客様はどれになさいますか?」
「じゃあ私は──ベーコンレタスバーガーのLセットを1つ」
「それでは注文を繰り返します。チーズハンバーガー5のLLセットを1つ、ベーコンレタスバーガーのLセットを1つ、お間違いないでしょうか?」
「間違えてないよー!」

 初接客とは思えないほどに慣れている。
 いや、慣れていると言うよりかは──それが自然になっている。
 すごい……あそこまで接客を自分の自然の姿にまで取り込むなんて。
 
「では、2点の合計金額は1500円です」
「じゃあ、2000円で」
「2000円いただきます。……500円のお返しと、良ければですがレシートの裏にあるQRを読み取ってキャンペーンに参加してください。豪華景品が当たるチャンスですので」

 とても丁寧にレシート裏の説明を加えながらお釣りを返す可憐さんはベテラン顔負けだった。
 すると、接客を終えた可憐さんのところに白泉店長は出て行き、店内に人がいないのを見てルルさんとカチーシェさん、そして私を誘ってテラス席に座った。

「突然なんだけど、お二人さんは可憐ちゃんの接客を見てどうだった?」
「とても気持ち良かったです! レシの裏って見ずに捨てますが、説明があれば気づきますし」
「じゃあ可憐ちゃん。どうしてそうしたの?」
「それはー……相手の気持ちを考えたら、もしキャンペーンとかにマメな人だったら知らずに捨てたら──なんてー」
「マニュアルにないことを自分で考えてする。凄いと思わない? 私は教えていないし、これを自分でやってのけるのだから」

 マニュアルにないことをやる……。
 お客様の立場に立って、お客様がもし知らなかったら──

「それですよ! それですそれです!」
「うんうん! 私も分かっちゃったよー!」
「えーと……何を分かったの?」
「「お店を繁盛させ、常連さんを確保する方法!」」

 それは思いやりと、お客様の立場に立って接客すること。
 私達はそれができていなかった。
 考えてみれば、ポーションが売っているのに可憐さんは治癒ボランティアをしていた。
 つまりそれは、ポーションではおっつかない人のことを考えての行動だったんだ。
 お客様と接するうえで、私達は一番大事なことを忘れていたのだった。
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