VRMMOの世界で薬屋を開いたレベル1の薬師

永遠ノ宮

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売れ行きが伸びない日々

マスターの提案

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「なんかアグナさんの叫び声聞こえたけど……よっ!」
「マスターさん!? どうしてここに!?」
「可憐さんが休憩時間に相談しにきてくれて力になれればと思ってな! 俺から提案があるんだが……聞いてくれるか?」

 治癒ボランティアのお昼休憩中に、マスターさんのところへ可憐さんが売れ行きのことについて相談してくれていたらしい。
 可憐さんはやっぱり気が利く人だな。私も店長として見習わないと。

「提案ときたかマスター! それなら聞かせてもらうぞ!」
「おー! リミアちゃんと会えたんだなお姉ちゃん! それは良かったよー!」 
「マスターのおかげでコロシアムの前でちゃんとな! それでは提案を聞こう!」

 実はマスターさんと姉は個人的に知り合いだったらしく、私の居場所を教えてもらっていたのだった。
 ゲームを始めたことを教えてはいないが、一回の緊急クエストで有名になった私の情報を聞いて現実の容姿と同じ私に気づいて探してくれたのだと思う。
 ガシッとマスターさんと肩を組み、「それでは提案を話そう!」と、何も知らないはずの姉も声を揃えて言った。

「俺の店にポーションを置かないか? レジの前にポーションがあることでかなりアピールになるだろうからな」
「でもいいんですか? マスターさんに得はないのに……」
「得とかそんなのはいいのいいの! 同じ店を持つ同士でありながら俺達の仲だ! 俺のところに飲みに来てくれるのありがたいし、返しをしたいんだ!」

 本当なら、返しをしなければいけないのは私達のほう。
 3日間限定イベントに出るために、マスターさんは1日のうちで唯一の休憩時間であるお昼も私達のお店を開いてくれていた。
 それなのに、また私達のためにマスターさんは手伝いをしてくれると言う。
 マスターさんは本当にいい人すぎて、神様みたい。でもやっぱり悪いような……。

「リミアちゃん! ここはマスターさんに頼ろうよー! お店に毎日のように行っている私達への返しと言ってくれているんだからありがたく……ね?」
「そうだよリミアちゃん! 人の好意にはありがとうと言って受け入れないと……ね?」
「そうですね。ではありがたく……お願いしますマスターさん」

 カチーシェさんとルルさんに説得され、私はマスターさんに頭を下げる。
 マスターさんは私の背中を叩いて笑う。
 マスターさんにお世話になってばっかだから、次こそは何かお返しをみんなでしないと!

「じゃあ……とりあえずダンボールに売りたい商品を入れてくれ! 今日は店を閉めているから明日から置いてみるとするよ!」

 言われた通り、みんなで選んだポーションをダンボールに入れてマスターさんに渡した。
 ダンボール箱を抱えてマスターさんは帰っていった。

「いい人すぎるよお父さんは!」
「ほんとどよねー!」
「……あっ! 私達も今のうちにできることをしませんか?」
「ホストはもう嫌だぞ!?」
「違いますよ……アグナさん。今から新薬を作りたいんです!」

 マスターさんが動いてくれるなら、私達も動かないと意味が無いと思い考えついたのが新薬の開発。
 だからそれをみんなですることが動くことだと私は思った。


「おーい! いるかー?」
「……うーん。いまー……ふ……」
「寝てたかリミアちゃん! ……って、みんな揃ってか!?」

 新薬をみんなで作り出し、作業時間は5時間超え。
 試行錯誤しながらやっと1つ新薬を液状に変え終えたところでみんなして疲れに負け、気づけば固まって床に寝てしまっていた。
 朝早くからお店に来たマスターさんの声で起きた私は、目を擦りながらみんなを起こした。
 大きなあくびを一斉にして起き上がってくるみんなを見て、マスターさんは左端に寝ていたルルさんから順番に額へデコピンしていった。

「お父さん……おはよぅ……」
「おとー……さーん……」
「はいはい。ところで──学校は?」

 ……。
 マスターさんの一言に沈黙が流れた。
 そう。今日は平日の月曜日で、休みが終わった次の日。
 つまり……

「今何時!?」
「やばい! 8時だ!」
「間に合わねーぞこれじゃあ!」
「どうしましょー……」
「可憐さんは寝ぼけてないで起きて学校に行く準備をしてくださいー!」
「僕は午後からだから……。午前も授業取ってあるんだった!」
「私とか、もろ遅刻確定ですよこんな時間!」

 慌ててみんなで店裏の生成台に散るばる物を片付け、電気を消してログアウトした。
 戸締まりはマスターさんに任せたことで、私達はゲームから現実に戻り、ギリギリで授業に飛び込めた。
 霧ちゃんは1人高校生で間に合わなかったらしく後に「怒られちゃいました……」と、泣きながら電話を掛けてきた。
 昼まで授業をしっかりと受けた私達は、次の午後の授業までに近くのハンバーガー屋で新薬の生成手順、必要な物をまとめた。

「新薬の名前は?」
「カッコイイのか……凄そうなのがいいよね!」
「ならこんなのはどうですか?」

 ──希望の薬で……ホープポーション。

 「おぉー!」と、私の意見に目を輝かせてカチーシェさんとルルさん。
 アグナさんとカイトさんも、「カッコイイ」と言ってくれ、可憐さんは微笑んでくれた。
 全員文句無しと確認した私は、メモ帳の一番上のスペースに──

「希望の薬……ホープポーション! 新薬誕生です!」

 ホープポーションと力強く書いた。
 すると、笑い声が聞こえてきた。
 高い笑い声は私達の真横から聞こえ、みんなで一斉に通路に顔を向けるとそこに居たのはリリーさんだった。
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