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第十四章 花火
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しおりを挟む目が覚めて起き上がったハヅキくんとキカくんが、あたし達の横に来てしゃがんだ。
「え! 泣いたの、僕のせい!?」
慌ててしまうアオイくんに、あたしは笑って首を思い切り横に振った。
「ありがとう! みんな、ありがとう! あたし、ここに来れて良かった! みんなに会えて良かった! ありがとう! あーりーがーとー!」
立ち上がって、町全体に響くくらいに叫んだあたしに、みんなが驚いて慌てている。
「今何時だと思ってんだよ!」
「近所迷惑だっつーの!」
「ミナちゃんのありがとう、嬉しい……」
怒ってくるハヅキくんとキカくんとは違って、アオイくんはまたしてもニヤニヤしている。そんなアオイくんにみんなが呆れていると、どこからともなく、ヒュ──っと、笛のような音。
次の瞬間、背後で光が放たれた。そして、遅れて鳴るドンっという突き上げるような大きな音。
「花火だ!!」
唯一、町の方向を見ていたアオイくんが満面の笑みで叫んだ。
今の一発を皮切りに、次々と広い街並みに花火の花が咲く。
桜の木が葉をいっぱいにつけている隙間から、四人並んで幾つもの花火を眺めた。
この時間は永遠じゃない。
今しかできないことがある。今だから、できることがある。
この夏、あたしはたくさんのことを教えてもらった。
きっと、パパが洋さんに相談してくれた事がきっかけで、この出会いがあったこと、パパにありがとうを言いたい。
ママには、いつまでもケンカしっぱなしじゃ気まずいだけだし、トキのことを見ながらも、いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとうって伝えよう。
学校が始まったら、あたしを気にかけてくれていたあの子と、思い切って話をしてみよう。
つまらなかった毎日が、急に花火みたいに色とりどりに輝いて行くように感じた。
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