今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

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第十四章 花火

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 ギュッと固くつむっていた目を、辺りが静かになった気配を感じてそっとあけてみた。
 芝生の上で仰向けになって寝ている状態。
 目の前には、満天の星が広がっている。真っ暗闇のはずなのに、星あかりが見惚れてしまうくらいに眩しくて綺麗だ。吸い込まれそう。そう思っていると、ヌッと目の前に顔が現れた。

「ぎゃ!」
「あ、ごめん。大丈夫? ミナちゃん」

 現れたのはアオイくんだったから、あたしは安心して起き上がった。

「あれ、ここ、高見公園だよね? 戻ったのかな? みんなは?」
「たぶん、帰ってきてる。二人はそこで寝てるよ。全然起きないんだよ、疲れたのかも」

 呆れ顔で笑うアオイくんに、あたしも笑った。
 ハヅキくんはお母さんに会えて安心しただろうし、キカくんは無事に二人を過去と未来に連れ帰ってきたことに安心したのかもしれない。みんな、良かったな。

「ねぇ、ミナちゃん」
「なに?」

 アオイくんが隣に座って、膝を抱えた。

「僕ね、転校先、東京なんだ」
「……え」
「僕、未来を見てきたって言ったでしょ?」
「……うん」

 あの時、嬉しそうにしていたのは、みんなと変わらずに友達でいられたからってことだよね。

「この先の未来がさ、その通りになればいいなってすっごく思うんだよね。だから、これからも僕とずっとずっと仲良くしていてほしいな」

 アオイくんがこちらを向いて、照れ笑いをする。
 アオイくんの見た未来には、あたしもいたってことだろうか。
 そうだとしたら、そうだとしたら……

「……うん、嬉しい」

 湧き上がってくる嬉しさが抑えきれなくて、涙になってこぼれ落ちた。

「え! 大丈夫? ミナちゃん」
「うん、ごめ……」

 ごめんと言おうとして、キカくんの言葉を思い出した。

『ごめんて言うなよ。嬉しいなら、ありがとうって言えよ』

「あー!! アオイがミナのこと泣かしてるー!」

 急に後ろから聞こえた声にびっくりして、アオイくんと一緒に振り返った。

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