今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

文字の大きさ
上 下
55 / 60
第十四章 花火

しおりを挟む
「これ。じいちゃんは過去の自分に返してって言っていたけど、たぶん君に渡したかったんだと思う。口下手なじいちゃんは、いつも俺には兄貴がいてなって、口癖みたいにたとえ話を言うことがあるんだ。この本読んだ時に、本当に仲良い兄弟がいたんだなって感じた。そんなに仲良かったら、離れたくなんかなかったよな。ずっと一緒にいたかったよな……」

 小さくなる声に、辺りがシンっと音を失ったみたいになる。

「でもさ、過去だろうが未来だろうが、きっと君はじいちゃんの兄貴であることには変わりないんだよ。だからさ、心の中ではずっと一緒なんだよ、きっと」

 キカくんの泣きそうに震えていた声は、力強くなって上を向いた。

『ありがとう。もう、日が暮れる。戻る時間だね。会えてよかった、キカ』

 泣きそうに眉を歪めて、だけど嬉しそうに笑った男の子は、こちらに向かって手を振る。

『その不思議なノートを開いて、あの言葉を言ってごらん。君たちに、最高の夏をプレゼントするよ』

 言ったそばから、ぼんやりと男の子の姿がうすあかりの中に霞んでいく。目を凝らして見ても、だんだんに形が捉えられなくなって、キラキラとキカくんが舞いあげた粉雪のように、消えていってしまった。

 辺りが暗くなってしまって、キカくんはカバンからタブレットを取り出した。
 画面にタッチすると、眩しさに目を細める。表示された日付、それは、あたし達のいた世界のもの。
 キカくんを囲んで輪になった。キカくんが、ハヅキくん、アオイくん、あたしの順に視線を合わせて、頷く。

【時明かり、青嵐が吹いたら、走り出せ】

 みんなの声が揃って、公園の奥の方からザザザザーーーっと大きな音が聞こえてきたかと思えば、突風が吹きつけた。
 目を開けていられなくなって、お互いに飛ばされないように肩を組み合った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

ハイメくんに触れた

上本 琥珀
児童書・童話
 電気が有って、飛行機が有って、スマホが有って、魔法もある世界。  そんな世界で、魔法学校に通うグラディスは、箒術の試験中に箒から落ちそうになった所を、学校の有名人ハイメが助けてくれたことで知り合いになり、優しい彼に惹かれていく。  グラディスは、一年の終わりにあるホリデーパーティーで、ハイメとパートナーになれるように頑張ることを決めた。  寮が違う、実力が違う、それでも、諦められないことが有る。

【完結済み】破滅のハッピーエンドの王子妃

BBやっこ
児童書・童話
ある国は、攻め込まれ城の中まで敵国の騎士が入り込みました。その時王子妃様は? 1話目は、王家の終わり 2話めに舞台裏、魔国の騎士目線の話 さっくり読める童話風なお話を書いてみました。

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。 そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。 どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。 しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

灰色のねこっち

ひさよし はじめ
児童書・童話
痩せっぽちでボロボロで使い古された雑巾のような毛色の猫の名前は「ねこっち」 気が弱くて弱虫で、いつも餌に困っていたねこっちはある人と出会う。 そして一匹と一人の共同生活が始まった。 そんなねこっちのノラ時代から飼い猫時代、そして天に召されるまでの驚きとハラハラと涙のお話。 最後まで懸命に生きた、一匹の猫の命の軌跡。 ※実話を猫視点から書いた童話風なお話です。

処理中です...