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第十四章 花火
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「これ。じいちゃんは過去の自分に返してって言っていたけど、たぶん君に渡したかったんだと思う。口下手なじいちゃんは、いつも俺には兄貴がいてなって、口癖みたいにたとえ話を言うことがあるんだ。この本読んだ時に、本当に仲良い兄弟がいたんだなって感じた。そんなに仲良かったら、離れたくなんかなかったよな。ずっと一緒にいたかったよな……」
小さくなる声に、辺りがシンっと音を失ったみたいになる。
「でもさ、過去だろうが未来だろうが、きっと君はじいちゃんの兄貴であることには変わりないんだよ。だからさ、心の中ではずっと一緒なんだよ、きっと」
キカくんの泣きそうに震えていた声は、力強くなって上を向いた。
『ありがとう。もう、日が暮れる。戻る時間だね。会えてよかった、キカ』
泣きそうに眉を歪めて、だけど嬉しそうに笑った男の子は、こちらに向かって手を振る。
『その不思議なノートを開いて、あの言葉を言ってごらん。君たちに、最高の夏をプレゼントするよ』
言ったそばから、ぼんやりと男の子の姿がうすあかりの中に霞んでいく。目を凝らして見ても、だんだんに形が捉えられなくなって、キラキラとキカくんが舞いあげた粉雪のように、消えていってしまった。
辺りが暗くなってしまって、キカくんはカバンからタブレットを取り出した。
画面にタッチすると、眩しさに目を細める。表示された日付、それは、あたし達のいた世界のもの。
キカくんを囲んで輪になった。キカくんが、ハヅキくん、アオイくん、あたしの順に視線を合わせて、頷く。
【時明かり、青嵐が吹いたら、走り出せ】
みんなの声が揃って、公園の奥の方からザザザザーーーっと大きな音が聞こえてきたかと思えば、突風が吹きつけた。
目を開けていられなくなって、お互いに飛ばされないように肩を組み合った。
小さくなる声に、辺りがシンっと音を失ったみたいになる。
「でもさ、過去だろうが未来だろうが、きっと君はじいちゃんの兄貴であることには変わりないんだよ。だからさ、心の中ではずっと一緒なんだよ、きっと」
キカくんの泣きそうに震えていた声は、力強くなって上を向いた。
『ありがとう。もう、日が暮れる。戻る時間だね。会えてよかった、キカ』
泣きそうに眉を歪めて、だけど嬉しそうに笑った男の子は、こちらに向かって手を振る。
『その不思議なノートを開いて、あの言葉を言ってごらん。君たちに、最高の夏をプレゼントするよ』
言ったそばから、ぼんやりと男の子の姿がうすあかりの中に霞んでいく。目を凝らして見ても、だんだんに形が捉えられなくなって、キラキラとキカくんが舞いあげた粉雪のように、消えていってしまった。
辺りが暗くなってしまって、キカくんはカバンからタブレットを取り出した。
画面にタッチすると、眩しさに目を細める。表示された日付、それは、あたし達のいた世界のもの。
キカくんを囲んで輪になった。キカくんが、ハヅキくん、アオイくん、あたしの順に視線を合わせて、頷く。
【時明かり、青嵐が吹いたら、走り出せ】
みんなの声が揃って、公園の奥の方からザザザザーーーっと大きな音が聞こえてきたかと思えば、突風が吹きつけた。
目を開けていられなくなって、お互いに飛ばされないように肩を組み合った。
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