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第十三章 過去

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 地面を長い列をつくって歩くアリ。一生懸命になにかを運んでいる。
 アリなんて、気にして見たこともなかったな。うわ、よく見るとめちゃくちゃたくさんいる。ぞわりと腕に鳥肌が立つ。
 雑草のかげや土のひび割れの隙間からも現れるのを見て驚いた。

「面白いよねー、アリってさ、こんなに小さいのに力も体力もあってすごいよね。間違って踏んでも生きてるし」
「そうだよな、生命力あるよなー……って! アオイ!?」

 ズサっと後ずさる音が聞こえて、あたしは立ち上がった。驚くキカくんの目の前に、アオイくんがいた。

「なんだよアオイ! びっくりさせんな」
「なんか二人して慌ててる感じだったから、声かけづらくて」

 あははと笑うアオイくん。

「今までどこいたんだよ」

 キカくんの言葉に、アオイくんの顔がほころぶ。

「な、なんだよそのニヤけ顔。キモ」
「えー、だってさー、ふふふ」

 体をよじりながらアオイくんは照れているのかなんなのか、笑いを堪えきれないようだ。その反応に、キカくんの言葉に同意してしまっては怒られそうだけど、が正解だろう。

「僕、さっきまで未来にいたんだ」

 今度は、どうだすごいだろう! と言わんばかりに胸を張って満面の笑みを浮かべるから、びっくりしてしまう。

「え!? まじ?」
「うん」

 アオイくんの表情を見て、アオイくんが未来でなにを見て来たのかが手に取るように分かる気がするのは、あたしだけじゃないだろう。もちろんずっと仲良しなキカくんの方が勘付いている。

「まぁ、とりあえず、よかったな」

 ぽんっと肩に手を置いて、話を聞いて欲しそうにウズウズしているアオイくんに背を向けた。

「は!? ちょっと、どうだったのか聞かないのかよ!」
「別に聞かなくても分かる」

 キカくんの言葉にあたしも横で深く頷いた。

「なんだよそれー、聞けよー」
「それよりさ、アオイはハヅキと会わなかった?」

 明らかに、アオイくんの表情が曇った。そして、さっきまでの陽気な雰囲気を取り払って、後ろを振り向いた。

「ハヅキなら、向こうにいるよ」
「……え」

 アオイくんに連れられて来たのは、二棟の建物の間にある小さな公園。ハヅキくんが、一人でブランコに乗っていた。
 座って、揺れるでもなく、ただ下を向いている。風で運ばれてきた桜の花びらが、さみしそうに踊りながら、過ぎていく。

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