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第五章 夏野菜
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半分開いた戸の向こうは、こちらとは世界が違うんじゃないかと思うくらいに緊張して足が進まない。パパは用事があると出かけてしまったから、洋さんと話をするのはあたしだけ。助けは求められない。
ごくりと生唾を飲み込んでから、つま先からゆっくりと書斎に踏み込んだ。
「物語を書くことが好きなんだってな、君は」
ギィっと音を立てて椅子に体を預けた洋さんが、こちらを向いて微笑んだように見えた。
「あ、は、はいっ! 小さい時から……こうだったらいいのにな、とか、こんな世界があったら楽しいのになって、頭の中で色々考えるのが楽しくて……」
緊張のせいか、自分でも驚くほど口が回ってしまった。だけど、そんなあたしに洋さんが今度こそ微笑むから、緊張も解れた。
「そうか、その気持ちを大切にしなさい」
「あ、はいっ」
「できれば、一日でも早くあの本の真意に気がついてほしい」
「……しん、い……?」
「少し篭りたいから、また後で何か用事がある時は来なさい」
「あ、はい」
きちんとお辞儀をしてから、障子戸を引いて廊下に出ると、窓の外に庭を歩く和子さんの姿を見つけた。
ツバの広いピンク色に小花模様の帽子は襟元を隠す共布が付いていて、まるで保育園児の帽子みたいに見えた。
腕には同じような小花柄の袖をつけている。なんだか気になって、あたしは玄関から外へと出た。
ちょうど、玄関先で和子さんと鉢合わせると、「ミナちゃん」と声をかけられた。
「ちょうど野菜収穫したとこだよ」
「え、野菜?」
「ほら、あそこの畑にいっぱいあるから」
笑顔で指差す方向には高いツルが伸びる葉っぱや、もりもりと盛り上がった葉の中に見える赤や緑に紫。様々な色の野菜がかくれんぼしているみたいに見えた。
ごくりと生唾を飲み込んでから、つま先からゆっくりと書斎に踏み込んだ。
「物語を書くことが好きなんだってな、君は」
ギィっと音を立てて椅子に体を預けた洋さんが、こちらを向いて微笑んだように見えた。
「あ、は、はいっ! 小さい時から……こうだったらいいのにな、とか、こんな世界があったら楽しいのになって、頭の中で色々考えるのが楽しくて……」
緊張のせいか、自分でも驚くほど口が回ってしまった。だけど、そんなあたしに洋さんが今度こそ微笑むから、緊張も解れた。
「そうか、その気持ちを大切にしなさい」
「あ、はいっ」
「できれば、一日でも早くあの本の真意に気がついてほしい」
「……しん、い……?」
「少し篭りたいから、また後で何か用事がある時は来なさい」
「あ、はい」
きちんとお辞儀をしてから、障子戸を引いて廊下に出ると、窓の外に庭を歩く和子さんの姿を見つけた。
ツバの広いピンク色に小花模様の帽子は襟元を隠す共布が付いていて、まるで保育園児の帽子みたいに見えた。
腕には同じような小花柄の袖をつけている。なんだか気になって、あたしは玄関から外へと出た。
ちょうど、玄関先で和子さんと鉢合わせると、「ミナちゃん」と声をかけられた。
「ちょうど野菜収穫したとこだよ」
「え、野菜?」
「ほら、あそこの畑にいっぱいあるから」
笑顔で指差す方向には高いツルが伸びる葉っぱや、もりもりと盛り上がった葉の中に見える赤や緑に紫。様々な色の野菜がかくれんぼしているみたいに見えた。
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