45 / 60
第十二章 飛べた!
5
しおりを挟む「フルールさん、あちらにクレープがあってよ!」
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
12
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる