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第十一章 夢物語
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ブワッと、一気に汗が吹き出す。廊下が思ったよりも日差しが入って暑いのはもちろんだけど。なによりも、今の話はまずいんじゃないだろうか。みんな、過去にも未来にも飛べるって信じきっている。なんなら、あたしだって昨日、命をかけるくらいに思い切り信じていたんだ。
なのに、過去にも未来にも飛べるだなんて話は、単なる少年時代の洋さんの夢の中でのことで、実際にできることではなかった。
どうしよう。
みんなにはなんて言ったら良いんだろう。
「この本の内容はみんな嘘で、過去にも未来にも飛べるわけないんだってー、あはははー」なんて、もはや笑って済むような状況ではない。
どうしよう。このまま黙っていたほうが良いのかな。下手に口出しして、せっかく仲良くなれたのに、もう、仲間外れにはなりたくない。
「……、で、いいか? ミナ」
自分の名前が耳に入ってきて、あたしは意識を取り戻す。
「え、あ、ごめん聞こえなかった。なに?」
「だから、花火大会の朝に様子見ながら早起きして、行けそうな時に行こうって話」
「あ、うん、良いと思う」
「よし、じゃあ決まりな」
あれから、修了式を終えた三人が揃って帰ってきて、通知表も宿題も出すことなくランドセルを放り投げて話し合いが始まった。
テーブルの上で、話に夢中になっていて放っとかれたサイダーが、グラスの中で氷を溶かして存在をアピールしているかのように鳴った。
大橋の線路は立ち入り禁止で、もう何年も使われていなくて、立ち入ったりしたら、それは大変なことだって、冷静になって考えてみる。
あんな危ない場所を走るとか、危険に決まってる。自殺行為だ。止めないと。
だけど、一度した約束。
『約束を破ったらもう友達じゃないからね』
頭の中で声が聞こえた。
机の周りを数人で囲って、あたしを睨んでいる目が怖い。
破りたくて破ったんじゃない。トキのお迎えがあるから、だからあたしはみんなとの約束の時間には間に合わなくて、結局あとから遅れて行った時にはもう誰も居なかったんだ。
理由をちゃんと聞いて欲しかった。
どうしたの? って、なにかあったの? って、心配して欲しかった。
それなのに、なにも話を聞いてもらえなかった。それは全部言い訳だって、睨まれた顔が怖かった。
ずっと、友達だと思っていた。
約束を破ったあたしが悪かったんだ。仕方がない。そう思うしかなかった。
なのに、過去にも未来にも飛べるだなんて話は、単なる少年時代の洋さんの夢の中でのことで、実際にできることではなかった。
どうしよう。
みんなにはなんて言ったら良いんだろう。
「この本の内容はみんな嘘で、過去にも未来にも飛べるわけないんだってー、あはははー」なんて、もはや笑って済むような状況ではない。
どうしよう。このまま黙っていたほうが良いのかな。下手に口出しして、せっかく仲良くなれたのに、もう、仲間外れにはなりたくない。
「……、で、いいか? ミナ」
自分の名前が耳に入ってきて、あたしは意識を取り戻す。
「え、あ、ごめん聞こえなかった。なに?」
「だから、花火大会の朝に様子見ながら早起きして、行けそうな時に行こうって話」
「あ、うん、良いと思う」
「よし、じゃあ決まりな」
あれから、修了式を終えた三人が揃って帰ってきて、通知表も宿題も出すことなくランドセルを放り投げて話し合いが始まった。
テーブルの上で、話に夢中になっていて放っとかれたサイダーが、グラスの中で氷を溶かして存在をアピールしているかのように鳴った。
大橋の線路は立ち入り禁止で、もう何年も使われていなくて、立ち入ったりしたら、それは大変なことだって、冷静になって考えてみる。
あんな危ない場所を走るとか、危険に決まってる。自殺行為だ。止めないと。
だけど、一度した約束。
『約束を破ったらもう友達じゃないからね』
頭の中で声が聞こえた。
机の周りを数人で囲って、あたしを睨んでいる目が怖い。
破りたくて破ったんじゃない。トキのお迎えがあるから、だからあたしはみんなとの約束の時間には間に合わなくて、結局あとから遅れて行った時にはもう誰も居なかったんだ。
理由をちゃんと聞いて欲しかった。
どうしたの? って、なにかあったの? って、心配して欲しかった。
それなのに、なにも話を聞いてもらえなかった。それは全部言い訳だって、睨まれた顔が怖かった。
ずっと、友達だと思っていた。
約束を破ったあたしが悪かったんだ。仕方がない。そう思うしかなかった。
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