今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

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第九章 覚悟を決める

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「はぁ? 今更気づいたのかよ。アオイいっつも負けるーっていじけんじゃん。そーいうのは嫌だし、外出て色んなこと教えてくれるのはアオイじゃん? アオイと遊ぶのは外のほうが面白いから、俺もキカもそうしてるだけ」
「な、なんだよー、じゃあ僕が転校してったら二人ともゲームばっかするようになるんじゃないのー?」
「あー、それは否定できないかもな」

 キカくんが慣れた手つきでタブレットを操作しながら笑う。

「アオイ、確かめてきてよ。俺たちがゲームばっかやってる大人になっていないか」

 冗談で言っているんだろうと思ったけれど、アオイくんは張り切って嬉しそうに頷いている。

「とりあえず、大橋で開催予定の花火大会と被るのだけは避けないといけない」

 タブレットを覗き込むと、今年の花火大会のチラシが表示されていて、みんなで日付と時間を確認する。

「準備とかもあるだろうし、多分今からはあのへんに人が多く集まりやすい時期なんだ。普段は犬の散歩とかランニングする大人くらいしかいないのにさ」
「でも、試すのは夜明けから朝方の時間でしょ、さすがにその時間帯は当日前後くらいしか人いないんじゃないの?」
「だよな、そこまで警戒することはないか」
「あ、あの……」

 話を進めていく三人に、ずっと聞き役だったあたしが手を挙げると、一斉にこちらを振り返るから、一瞬怯んでしまう。
 だけど、聞いておかないとと思った。

「大橋って、あたし高見公園から見ただけで、実際どのくらいの広さとか、距離があるとか全然わからないんだけど……」

 ずっと思っていた。あたしは遠目からしか、大橋とその向こうにあった古い線路を見ていない。実際にどんな幅で距離は何メートルで、どんな風になっているのかなんて高見公園からの離れた位置からは捉えることは無理だった。
 分かっているのは、線路の終わりが森へと続いているように見えたことだけ。あの線路がその先も続いているのか、そこで終わっているのかさえも、分からなかった。

「あー、そっか! まだ大橋には連れて行ってなかったんだっけ」
「一番肝心なとこ忘れてたな」
「え、ミナちゃんあの線路見てなかったの? やばいじゃん。あれ見たら行くって言えなくなるよ。僕だって何日も悩んだんだから」

 青ざめた顔をしてアオイくんがごくりと喉を鳴らした。
 そういえば、最初の頃に言っていた気がする。アオイくんの顔を見て思い出した。

 『命綱もなしに大橋に掛かる柵のない線路を走り抜けろって言われた?』

 過去や未来に飛ぶことは、命をかけるくらい価値のあることだって話していた。ハヅキくんもアオイくんも、覚悟を決めたんだ。今更、あたしがおじけついてしまったら申し訳ない。
 大丈夫。もし、こっちに戻れなくなっても、悲しむ人なんて誰もいない。
 友達も、ママもトキも、きっとあたしが夏休み前からいなくなって、清々しているに違いない。

「じゃあ、本番の前に下調べを兼ねて、明日は大橋に行ってみようぜ」

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