今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

文字の大きさ
上 下
31 / 60
第九章 覚悟を決める

しおりを挟む
「はぁ? 今更気づいたのかよ。アオイいっつも負けるーっていじけんじゃん。そーいうのは嫌だし、外出て色んなこと教えてくれるのはアオイじゃん? アオイと遊ぶのは外のほうが面白いから、俺もキカもそうしてるだけ」
「な、なんだよー、じゃあ僕が転校してったら二人ともゲームばっかするようになるんじゃないのー?」
「あー、それは否定できないかもな」

 キカくんが慣れた手つきでタブレットを操作しながら笑う。

「アオイ、確かめてきてよ。俺たちがゲームばっかやってる大人になっていないか」

 冗談で言っているんだろうと思ったけれど、アオイくんは張り切って嬉しそうに頷いている。

「とりあえず、大橋で開催予定の花火大会と被るのだけは避けないといけない」

 タブレットを覗き込むと、今年の花火大会のチラシが表示されていて、みんなで日付と時間を確認する。

「準備とかもあるだろうし、多分今からはあのへんに人が多く集まりやすい時期なんだ。普段は犬の散歩とかランニングする大人くらいしかいないのにさ」
「でも、試すのは夜明けから朝方の時間でしょ、さすがにその時間帯は当日前後くらいしか人いないんじゃないの?」
「だよな、そこまで警戒することはないか」
「あ、あの……」

 話を進めていく三人に、ずっと聞き役だったあたしが手を挙げると、一斉にこちらを振り返るから、一瞬怯んでしまう。
 だけど、聞いておかないとと思った。

「大橋って、あたし高見公園から見ただけで、実際どのくらいの広さとか、距離があるとか全然わからないんだけど……」

 ずっと思っていた。あたしは遠目からしか、大橋とその向こうにあった古い線路を見ていない。実際にどんな幅で距離は何メートルで、どんな風になっているのかなんて高見公園からの離れた位置からは捉えることは無理だった。
 分かっているのは、線路の終わりが森へと続いているように見えたことだけ。あの線路がその先も続いているのか、そこで終わっているのかさえも、分からなかった。

「あー、そっか! まだ大橋には連れて行ってなかったんだっけ」
「一番肝心なとこ忘れてたな」
「え、ミナちゃんあの線路見てなかったの? やばいじゃん。あれ見たら行くって言えなくなるよ。僕だって何日も悩んだんだから」

 青ざめた顔をしてアオイくんがごくりと喉を鳴らした。
 そういえば、最初の頃に言っていた気がする。アオイくんの顔を見て思い出した。

 『命綱もなしに大橋に掛かる柵のない線路を走り抜けろって言われた?』

 過去や未来に飛ぶことは、命をかけるくらい価値のあることだって話していた。ハヅキくんもアオイくんも、覚悟を決めたんだ。今更、あたしがおじけついてしまったら申し訳ない。
 大丈夫。もし、こっちに戻れなくなっても、悲しむ人なんて誰もいない。
 友達も、ママもトキも、きっとあたしが夏休み前からいなくなって、清々しているに違いない。

「じゃあ、本番の前に下調べを兼ねて、明日は大橋に行ってみようぜ」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...