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第九章 覚悟を決める
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しおりを挟むここはもう、天国なんじゃないかと思うほどに毎日が楽しい。
みんなは自由で、あたしを仲間に入れてくれて、ちゃんと一緒にいてくれる。帰りたくなんて、ないかもしれない。
アオイくんがみんなといたいって気持ちが、すごく分かる。あたしも、ここにいたい。ここで、キカくんやハヅキくん、アオイくんと一緒に、いつまでも遊んでいたい。
ざっと足を進めて、三人の前を横切ると、ザブンッとぬるくなった水の中に手を突っ込んだ。
きゅうりを手に取って、真似をしてカリッとかじってみる。そして、顔を上げてみんなのことを見た。
「あたしも、行きたい!」
真っ直ぐなあたしの決意に、みんな一瞬目を大きく見開いてから、笑顔になってくれた。
「仕方ねーなぁ。わーかったよ、俺もいくよ!」
項垂れつつも、キカくんが大きな声で言うからみんなで笑った。
そうと決まれば話は早い。作戦を立てるために家の中へと入った。
リビングでは和子さんが茹でた枝豆をざるいっぱいに運んできてくれて、豆のいい香りが部屋中に漂った。
ノートを広げて、ペンを持つキカくんの横であたしはスマホを操作する。すると、アオイくんが枝豆を食べながら覗き込んできた。
「わ! この辺の地図じゃん。すげー」
「なんだよアオイ、スマホ使ったことないの?」
「ないよ。お父さんもお母さんも貸してくれないし」
膨れるアオイくんに、キカくんが少し気まずそうにノートを取り出したカバンからもう一冊、薄いノートのようなものを取り出してテーブルにのせた。
「は!? なにそれ!」
すぐさま反応するアオイくんに、諦めたようにキカくんは取り出したタブレットの画面に触れた。
「なんだよそれ、なんで持ってんだよ」
先ほどから声が大きくなっているアオイくんから顔を逸らしながら、キカくんは苦笑い。
「誕生日に買ってもらってたんだよ。じいちゃんの真似してこれで色々やってる」
渋々画面をタッチしながら操作していると、横でアオイくんが拗ねるように口を尖らせた。
「いいなー、キカんちはゲームもそう言うのもすぐに買ってもらえて」
「アオイはゲームあんまりやんねーだろ」
ハヅキくんはキカくんがタブレットを持っていたことを知っていたのか、反応が薄い。
「まぁ、そうだけどさ。あれ? もしかして二人が僕と遊ぶ時にあんまりゲームやらないのって、僕がゲーム苦手だからなの?」
きょとんとしながらも、アオイくんが嬉しそうに頬を赤らめるから、キカくんもハヅキくんも呆れた目をしている。あたしですら気が付いていたのに。
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