今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

文字の大きさ
上 下
24 / 60
第七章 アオイくんの思い

しおりを挟む
「あっちの公園で遊んで行こうぜ」

 キカくんがまた走り出す。少し奥に行くと遊具が置かれていて、すべり台やブランコ、入り組んだジャングルジムや鉄棒、うんていまであった。
 小さな子供が小さめの遊具で遊んでいるから、邪魔にならないようにしながら、あたしたちは公園で遊んだ。広い芝生の広場では鬼ごっこやかくれんぼもした。

「ミナー、キカ見つかった?」

 キカくんだけが、かくれんぼをしていてしばらく見つけられずにいて、みんなで探し回った。

「キカはかくれんの上手いんだよねー」
「そうそう、気配消すの上手いよな」

 褒めているのか、貶しているのか。二人のやりとりを聞きながら、あたしは広場に向かった。
 こんな見通しのいい場所には隠れる場所なんてない。だけど、広場のちょうど真ん中らへん。さわさわと、長く垂れ下がった枝と葉っぱが風で揺れ動く、大きな垂れ桜の木があった。そんなに強い風でもないのに、まるで意志があるみたいで、不思議に感じる。心臓がドキドキするけど、同時にワクワクもする。

「あ! あそこにいるじゃん!」

 すぐ隣に走ってきたアオイくんが真っ直ぐ枝垂れ桜の木を指差して、嬉しそうにまた走っていく。

「キカみーっけ!」

 垂れ桜の木のかげに隠れていたキカくんは、なんだか様子が少しおかしい。

「どうした? キカ」

 ハズキくんもこちらに来て、悩むようにあごに手を当てて目を閉じているキカくんの肩をポンっと叩くと、今気が付いたみたいにキカくんが「うわぁ!」と声を出した。

「あー、ハズキか」
「なんだよ、俺で悪いか。先に見つけたのはたぶんミナだぞ。で、アオイが自分の手柄にしようとしてた」
「え!? なんでだよ! そんなことないってば」

 いつもの言い合いが始まって、あたしは笑ってしまう。

「本当に仲良しだよね」

 羨ましいなぁ。思わず出そうになった言葉を心の中に閉じ込めた。
 そうして今日も、あっという間に時間が過ぎて帰る時間になってしまった。
 元来た道を、ゆっくりと下っていく。

「ねぇ、僕たち、ずっと友達でいられるよね?」

 ふざけ合いながら歩くキカくんとハヅキくんの後ろ、あたしと並んで歩いていたアオイくんが、突然立ち止まって聞いてきた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

老犬ジョンと子猫のルナ

菊池まりな
児童書・童話
小さな町の片隅で、野良猫が子猫を生み、暖かく、安全な場所へと移動を繰り返しているうちに、一匹の子猫がはぐれてしまう。疲れきって倒れていたところを少年が助けてくれた。その家には老犬のジョンがいた。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...