今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

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第五章 夏野菜

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 昨日と同じ時間に、三人が学校から帰ってくると一気に賑やかになった。

「和子さんのトマト、すっごくすっごく美味しかった!」
「だろう? ばぁちゃんの野菜はなんでも美味いよ。ハヅキもうちに来てから食えるようになったもんな、ナスとピーマン」
「別に食えてたけど、食わなくてもいいって感じだっただけだよ」
「そーなのー? ハヅキのとーちゃん全然食べないって困り果ててたじゃん」
「勝手に困ってたんだよ。知らねーし」
「なんだよ、とーちゃんに優しくしろよ」
「……うるせーし」

 今日は玄関先でみんなトマトにかぶりつきながら騒いでいる。

「今日の夜ご飯はナスとピーマンの味噌炒めと、パプリカの肉詰めだってよ。みんなハズキの好物じゃん」

 ははっと笑いながらキカくんがハヅキくんの肩を叩いた。

「ハヅキがくるとハヅキメインだからな、うちの食卓」
「……悪かったな」

 なんとなく、照れているような表情をして、嬉しそうなのをごまかすみたいにそっぽを向いたハヅキくん。それを見ていたあたしに、茹でたてのとうもろこしを食べながらアオイくんがこっそり教えてくれた。

「ハヅキんち、お母さんいないんだ。だから、キッカんとこにしょっちゅう来てご飯食べてくんだよ。ハヅキのお父さん仕事で帰りもいつも遅いしさ、そのまま泊まってくこともあるんだよ。僕は毎回粘っても連れ帰されるんだけどねー」

 悔しそうな顔をしながら、とうもろこしのきみをプチプチと噛み締めるアオイくん。
 そうなんだ……ハヅキくんには、お母さんがいないんだ。それなら、お父さんと二人暮らしなのかな。
 そのお父さんも仕事で忙しいんだったら、きっとお家の中はひとりぼっちで寂しいのかもしれない。
 キカくんと楽しそうに笑っているハヅキくんを見て、最初の近づきがたい印象が少しだけ薄れた。
 昨日、あたしのことをハヅキくんも仲間だと言ってくれた。すごく、嬉しかった。なにかあたしに出来ることがあるなら、ハヅキくんが寂しくないようにしてあげるお手伝いがしたいな。

 すっかり夏野菜を満喫した三人はなぜかあたしとパパの部屋を占領して寝転がっている。
 あんなに賑やかだった数分前が幻だったかのように、まわる扇風機の音とけたたましい蝉の声しか今は聞こえてこない。時折、スースーと右からも、左からも寝息が聞こえてきた。

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