12 / 60
第四章 沢の森
2
しおりを挟む
ようやく二人に追いついて、膝丈まで伸びた草をかき分けながら家屋を見た。
遠目で見るよりもずっと酷い。
ガラス窓はヒビが入っていて所々かけているし、屋根や壁は剥がれ落ちている。家の中は薄暗く、だけど、日差しのおかげでうっすら見えた。
一部屋しかないように見えるのは、中の壁や仕切り戸がもうボロボロになって崩れているからだろう。建物自体も傾いていて、いつ倒れてもおかしくないくらいに歪んでいた。
「おいっ、ここ立ち入り禁止って看板あるぞ」
すでに家の中を覗き見ているキカくんとハヅキくんに、アオイくんが雑草に覆い隠された小さな古い看板を発見して、草をかき分けて見せてくる。
「見えなかったー!」
「キカに同じく!」
『危険』と添えられた看板にも物怖じせずに、二人は興味津々でガチャガチャと玄関らしきドアノブを回し始めた。
「あ、やっべ。壊れちゃった」
「お前、器物損害罪で捕まるぞ」
「は!? 捕まんの? 俺? ヤダヤダ」
ハヅキくんの言葉に、キカくんが慌ててドアノブを元に戻そうとしているから、あたしはそんな二人の行動に、他人の家の敷地内に入っている時点でもうすでになにかの罪とかあるんじゃないのかな? と冷静に考えてしまう。
ふと、視界に入ってきた壁にかけられたカレンダー。今は七月だけど、十一月になっている。だけど、問題はそこじゃなくて、十一月の隣の数字。
「一九六四年……?」
「あー、六十年前だな」
すぐ後ろから聞こえた声にびくりと肩が震えた。
「沢の森を抜けて高見公園まで行きたかったけど、時間切れ。また明日だな」
キカくんが一通り家屋を見て回ってきて、手にしていた木の棒を空に向けた。
ちょうど、夕方五時のチャイムが鳴り出して、ハヅキくんとアオイくんは草むらから砂利道へと戻っていく。
「五時にはみんな帰る約束だから。また明日来ような」
日の長い七月。辺りはまだまだ明るいけれど、時間はあっという間に過ぎていたようだ。あたしはポケットに入れていたスマホを取り出す。
「うわ! いいなー! スマホ! 僕も欲しいんだけど、お父さんにダメって言われてるんだよなぁ」
「別に要らなくね? 毎日学校で会えてるんだし、学校終わってもこうやって遊んでんじゃん。明日だって会うだろ」
アオイくんがあたしのスマホを羨ましそうに見てくる隣で、キカくんが呆れたように言う。
「そーだけどさぁ……でも……」
はしゃいでいたアオイくんの表情が一気に曇っていくのを見て、あたしは不思議に思った。
スマホなんて、あたしにとってはパパやママとの連絡手段以外にはなんの役にも立たない。
まぁ、好きな動画や興味のある事を調べたり見たりするのには役立ってはいるけれど、このスマホの中にあたしと本当に繋がる友達なんて、一人もいない。キカくんの言う通り、別に要らないものなのかもしれない。
遠目で見るよりもずっと酷い。
ガラス窓はヒビが入っていて所々かけているし、屋根や壁は剥がれ落ちている。家の中は薄暗く、だけど、日差しのおかげでうっすら見えた。
一部屋しかないように見えるのは、中の壁や仕切り戸がもうボロボロになって崩れているからだろう。建物自体も傾いていて、いつ倒れてもおかしくないくらいに歪んでいた。
「おいっ、ここ立ち入り禁止って看板あるぞ」
すでに家の中を覗き見ているキカくんとハヅキくんに、アオイくんが雑草に覆い隠された小さな古い看板を発見して、草をかき分けて見せてくる。
「見えなかったー!」
「キカに同じく!」
『危険』と添えられた看板にも物怖じせずに、二人は興味津々でガチャガチャと玄関らしきドアノブを回し始めた。
「あ、やっべ。壊れちゃった」
「お前、器物損害罪で捕まるぞ」
「は!? 捕まんの? 俺? ヤダヤダ」
ハヅキくんの言葉に、キカくんが慌ててドアノブを元に戻そうとしているから、あたしはそんな二人の行動に、他人の家の敷地内に入っている時点でもうすでになにかの罪とかあるんじゃないのかな? と冷静に考えてしまう。
ふと、視界に入ってきた壁にかけられたカレンダー。今は七月だけど、十一月になっている。だけど、問題はそこじゃなくて、十一月の隣の数字。
「一九六四年……?」
「あー、六十年前だな」
すぐ後ろから聞こえた声にびくりと肩が震えた。
「沢の森を抜けて高見公園まで行きたかったけど、時間切れ。また明日だな」
キカくんが一通り家屋を見て回ってきて、手にしていた木の棒を空に向けた。
ちょうど、夕方五時のチャイムが鳴り出して、ハヅキくんとアオイくんは草むらから砂利道へと戻っていく。
「五時にはみんな帰る約束だから。また明日来ような」
日の長い七月。辺りはまだまだ明るいけれど、時間はあっという間に過ぎていたようだ。あたしはポケットに入れていたスマホを取り出す。
「うわ! いいなー! スマホ! 僕も欲しいんだけど、お父さんにダメって言われてるんだよなぁ」
「別に要らなくね? 毎日学校で会えてるんだし、学校終わってもこうやって遊んでんじゃん。明日だって会うだろ」
アオイくんがあたしのスマホを羨ましそうに見てくる隣で、キカくんが呆れたように言う。
「そーだけどさぁ……でも……」
はしゃいでいたアオイくんの表情が一気に曇っていくのを見て、あたしは不思議に思った。
スマホなんて、あたしにとってはパパやママとの連絡手段以外にはなんの役にも立たない。
まぁ、好きな動画や興味のある事を調べたり見たりするのには役立ってはいるけれど、このスマホの中にあたしと本当に繋がる友達なんて、一人もいない。キカくんの言う通り、別に要らないものなのかもしれない。
12
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
初恋の王子様
中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。
それは、優しくて王子様のような
学校一の人気者、渡優馬くん。
優馬くんは、あたしの初恋の王子様。
そんなとき、あたしの前に現れたのは、
いつもとは雰囲気の違う
無愛想で強引な……優馬くん!?
その正体とは、
優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、
燈馬くん。
あたしは優馬くんのことが好きなのに、
なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。
――あたしの小指に結ばれた赤い糸。
それをたどった先にいる運命の人は、
優馬くん?…それとも燈馬くん?
既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。
ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。
第2回きずな児童書大賞にて、
奨励賞を受賞しました♡!!
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
みかんに殺された獣
あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。
その森には1匹の獣と1つの果物。
異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。
そんな2人の切なく悲しいお話。
全10話です。
1話1話の文字数少なめ。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】
小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。
そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。
どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。
しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる