今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

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第四章 沢の森

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 ようやく二人に追いついて、膝丈まで伸びた草をかき分けながら家屋を見た。
 遠目で見るよりもずっと酷い。
 ガラス窓はヒビが入っていて所々かけているし、屋根や壁は剥がれ落ちている。家の中は薄暗く、だけど、日差しのおかげでうっすら見えた。
 一部屋しかないように見えるのは、中の壁や仕切り戸がもうボロボロになって崩れているからだろう。建物自体も傾いていて、いつ倒れてもおかしくないくらいに歪んでいた。

「おいっ、ここって看板あるぞ」

 すでに家の中を覗き見ているキカくんとハヅキくんに、アオイくんが雑草に覆い隠された小さな古い看板を発見して、草をかき分けて見せてくる。

「見えなかったー!」
「キカに同じく!」

 『危険』と添えられた看板にも物怖じせずに、二人は興味津々でガチャガチャと玄関らしきドアノブを回し始めた。

「あ、やっべ。壊れちゃった」
「お前、器物損害罪で捕まるぞ」
「は!? 捕まんの? 俺? ヤダヤダ」

 ハヅキくんの言葉に、キカくんが慌ててドアノブを元に戻そうとしているから、あたしはそんな二人の行動に、他人の家の敷地内に入っている時点でもうすでになにかの罪とかあるんじゃないのかな? と冷静に考えてしまう。
 ふと、視界に入ってきた壁にかけられたカレンダー。今は七月だけど、十一月になっている。だけど、問題はそこじゃなくて、十一月の隣の数字。

「一九六四年……?」
「あー、六十年前だな」

 すぐ後ろから聞こえた声にびくりと肩が震えた。
「沢の森を抜けて高見公園まで行きたかったけど、時間切れ。また明日だな」

 キカくんが一通り家屋を見て回ってきて、手にしていた木の棒を空に向けた。
 ちょうど、夕方五時のチャイムが鳴り出して、ハヅキくんとアオイくんは草むらから砂利道へと戻っていく。

「五時にはみんな帰る約束だから。また明日来ような」

 日の長い七月。辺りはまだまだ明るいけれど、時間はあっという間に過ぎていたようだ。あたしはポケットに入れていたスマホを取り出す。

「うわ! いいなー! スマホ! 僕も欲しいんだけど、お父さんにダメって言われてるんだよなぁ」
「別に要らなくね? 毎日学校で会えてるんだし、学校終わってもこうやって遊んでんじゃん。明日だって会うだろ」

 アオイくんがあたしのスマホを羨ましそうに見てくる隣で、キカくんが呆れたように言う。

「そーだけどさぁ……でも……」

 はしゃいでいたアオイくんの表情が一気に曇っていくのを見て、あたしは不思議に思った。
 スマホなんて、あたしにとってはパパやママとの連絡手段以外にはなんの役にも立たない。
 まぁ、好きな動画や興味のある事を調べたり見たりするのには役立ってはいるけれど、このスマホの中にあたしと本当に繋がる友達なんて、一人もいない。キカくんの言う通り、別に要らないものなのかもしれない。
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