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第一章 はじまり

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 しばらくして町を抜けると、両側に田圃道が続く。遠くには山も見えるのかもしれないけれど、あいにく今日は曇っていて、先ほどからぽつりぽつりと雨が窓に落ちてきていた。
 ワイパーが必要になるくらいではないけれど、遠くには黒い雲が広がっているから、きっと今日は一日雨降りになるのもしれないなと思った。
 東京では、見上げてみても空なんてちっちゃくしか見えない。ここの空はなんて広いんだろう。これが青空だったら、きっと今の何倍も素敵なんだろうな。

 初めて見る景色ばかりで、ワクワクする気持ちで外を眺めていたからか、あっという間に目的地の洋さんの家まで辿り着いた。

 濡れないようにと、カーポートのある駐車場に停めてくれて、荷物を家の裏から運んでもらった。小雨のうちに急いで回り込んで玄関へと入ると、見計ったように大粒の雨が音を立てて落ちてきた。

「あらあら、本降りになってきたわね、早く中へどうぞ」

 パタパタとスリッパの音を立てながら、女の人が出てきた。

「ただいまー、濡れる直前だったからセーフだよ」
「和子さん、こんにちは。お世話になります。こっちは娘のミナです」
「こ、こんにちは」

 パパに背中を優しく押されて前に出ると、あたしは頭を下げた。

「わぁ、大きくなったねぇ。出産祝いのお返しで見た写真以来だから、おばちゃんびっくりだよ」

 あたしの姿をまじまじと見て来るのは洋さんの奥さんの和子さんだと、パパが説明してくれた。あいさつを終えて家の中へとお邪魔する。
 お昼ご飯まで少し時間があるからと、パパは洋さんと一緒に書斎に入っていってしまった。
 リビングに残ったあたしは、珠恵さんが持ってきてくれたオレンジジュースのグラスを見つめていた。

「ミナちゃんって、何年生?」
「あ、五年生です」
「え! ほんとー? うちの季夏キカと一緒だ。そのうち帰ってくるだろうからよろしくね」
「あ、はい」

 そっか、夏休みに入る前に学校を休んできたあたしと違って、本当なら小学生はまだ学校だ。
 今日から約一ヶ月。洋さんの家でお世話になるとパパは言っていた。ここに、あたしと同じ歳の子がいるなんて聞いていなかった。そっか、キカちゃんかぁ。どんな子なんだろう。少しだけ、不安が胸の中に滲む。
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