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第十四章 花火
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町はゆっくりと夕暮れを運んできていた。こちら側に沈む夕陽は、もうとっくに山の陰で見えなくなっていて、町だけが黄金色に照らされていた。
あたし達が生まれる前の世界。
キカくん、アオイくんのまだいない町。
ハヅキくんだけは産まれたばかりで、ここからの未来で、十年後にあたし達は出会うことになる。
巡り合わせ。そうなる運命だったのかもしれない。
『おかえり。なにか気がつけたことはあったかい?』
あたし達のことを待っていてくれたのか、男の子がにっこりと笑って聞いてくる。
四人で互いに視線を合わせて、微笑み合った。みんなそれぞれに感じた気持ちがあったはず。
あたしにも、この町のことは知らなくても、みんなと仲間になれて、友達になれて、あたしを必要としてくれて、すごくすごく、嬉しかった。今まで感じたことのない喜びが、胸の中いっぱいになって、心が嬉しさで満たされた。
「ありがとな、じいちゃん」
キカくんが男の子に歩み寄ってそう言うから、思わず「え!?」と声が出てしまったのは、あたしだけじゃなかった。アオイくんもハヅキくんも驚いた顔をして、お互いを見合った後に、キカくんへと視線を戻した。
『あー、バレてた? と言うかね、ちょっと惜しいんだよなぁ』
「え?」
あははと五厘刈りの坊主頭をカリカリとかいた男の子。
「僕は、君のじいちゃんではないよ。洋の兄貴なんだよ。これまでのこと、全部僕のわがままが引き起こしたことなんだ。君たちのことを巻き込んだのはごめんね。過去や未来になんて、飛べるわけないと思ってたんだ。それなのに、君たちはそれをやってのけたんだ、すごいよ!」
洋さんのお兄さんだと言った男の子がキラキラと目を輝かせた。
『洋と……弟と、もう一度だけ会いたかったんだ。だから、洋の夢の中でよく一緒に遊んだ。僕の願いは叶ったはずなのに、それでも、弟の生きる未来に自分も生きていれたらと思うと、一向に成仏できずにずっとここにいたんだ。君が現れた時は、また洋が来てくれたんだと本気で思ったよ。もしかして、君は……』
「じいちゃんの孫だよ。 キカ!」
『……孫……っはは、そっかぁ、キカって言うんだね』
嬉しそうに涙ぐむ男の子に、キカくんがバックから一冊の本を取り出した。
あたし達が生まれる前の世界。
キカくん、アオイくんのまだいない町。
ハヅキくんだけは産まれたばかりで、ここからの未来で、十年後にあたし達は出会うことになる。
巡り合わせ。そうなる運命だったのかもしれない。
『おかえり。なにか気がつけたことはあったかい?』
あたし達のことを待っていてくれたのか、男の子がにっこりと笑って聞いてくる。
四人で互いに視線を合わせて、微笑み合った。みんなそれぞれに感じた気持ちがあったはず。
あたしにも、この町のことは知らなくても、みんなと仲間になれて、友達になれて、あたしを必要としてくれて、すごくすごく、嬉しかった。今まで感じたことのない喜びが、胸の中いっぱいになって、心が嬉しさで満たされた。
「ありがとな、じいちゃん」
キカくんが男の子に歩み寄ってそう言うから、思わず「え!?」と声が出てしまったのは、あたしだけじゃなかった。アオイくんもハヅキくんも驚いた顔をして、お互いを見合った後に、キカくんへと視線を戻した。
『あー、バレてた? と言うかね、ちょっと惜しいんだよなぁ』
「え?」
あははと五厘刈りの坊主頭をカリカリとかいた男の子。
「僕は、君のじいちゃんではないよ。洋の兄貴なんだよ。これまでのこと、全部僕のわがままが引き起こしたことなんだ。君たちのことを巻き込んだのはごめんね。過去や未来になんて、飛べるわけないと思ってたんだ。それなのに、君たちはそれをやってのけたんだ、すごいよ!」
洋さんのお兄さんだと言った男の子がキラキラと目を輝かせた。
『洋と……弟と、もう一度だけ会いたかったんだ。だから、洋の夢の中でよく一緒に遊んだ。僕の願いは叶ったはずなのに、それでも、弟の生きる未来に自分も生きていれたらと思うと、一向に成仏できずにずっとここにいたんだ。君が現れた時は、また洋が来てくれたんだと本気で思ったよ。もしかして、君は……』
「じいちゃんの孫だよ。 キカ!」
『……孫……っはは、そっかぁ、キカって言うんだね』
嬉しそうに涙ぐむ男の子に、キカくんがバックから一冊の本を取り出した。
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