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第十三章 過去
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ハヅキくんのお家は集合住宅の一室だった。
いつもキカくんの家に集まっていたから、あたしは初めてハヅキくんの家を知ることになる。
「こっちの棟の二階。ハヅキは来てるのかな?」
あたしもハヅキくんの所在が気になっていた。だって、一番過去に来たかったのは、ハヅキくんだ。
あたしやキカくんがハヅキくんのお母さんと会えたとしても、意味がない。
もしもハヅキくんが来れなかったとして、お母さんがどんな人だったとか、こんな感じだったとか、あたし達が伝えたところで、それだと今までハヅキくんのお母さんのことを知る人から聞いた情報と全くおんなじになってしまう。
そっと、木の影から建物を見守っていた。すると、階段の入り口から男の人が降りて出てきて、駐車場に向かって行くのが見えた。車に乗り込み、どこかへ出掛けて行く。なんとなく、今の顔に見覚えがある気がするんだけど。
「あ、ハヅキの父ちゃんだ! 若いっ」
隣で、一瞬あたしと同じように考え込んでいたキカくんが笑っている。あたしは、ハヅキくんのお父さんの姿を思い浮かべた。確かに、今の人は髪の色が黄色くて長髪だったけど、着ている作業服がキカくんの家で会った時と同じものを着ていた。
「仕事に行くのかな?」
「たぶん」
「もしかして、今家ん中ハヅキの母ちゃんだけかな?」
にやりと、悪い顔をするキカくんに、あたしは嫌な予感が頭をよぎる。
そして、その予感は的中する。駆け出したキカくんにあわてて付いていくと、さっきハヅキくんのお父さんが降りてきた棟の入り口から階段を上り、玄関ドアの前で立ち止まった。コンクリートの階段は薄暗かった。
そして、ピンポンもなしにいきなり重たいドアを開けようとドアノブを捻っているキカくん。しかし、鍵がかかっていて開かないようだ。
「やめようよ、キカくん」
「なんでだよ、ハヅキが中にいるかもしんねーじゃん」
やっぱり勝手に中に入る気だ! この前の空き家の時もだけど、キカくんを不法侵入常習者にさせてはいけないと思って、Tシャツの裾を掴んで引き止めようとした瞬間、二人でドアをすり抜けてしまった。
玄関の内側に入ってしまったあたし達は、
突然の出来事に顔を見合わせて目をぱちくりと瞬かせる。
「でもさ、ハヅキくんがいたとしても、お母さんには見えないんじゃないの?」
気を取り直して、もうどうにでもなれと、そおっと中へと進むキカくんの後ろから、あたしはTシャツの裾を掴んだままついていく。
「それでも、あいつは母ちゃんに会いたいだろ」
それは、そうだけど。
シンプルに片付いた部屋の中は、シーンとしていて誰もいない。
「……あれ?」
二人でもう一度顔を見合わせてから、隣の部屋やすべてのドアを隅々開けてみたけれど、どこにもハヅキくんのお母さんの姿はなかった。
「いない……ね」
「うん、いないな」
がっかりしてなんの収穫もないまま部屋を後にした。
そして、コンクリートの階段を降りて外に出た瞬間、すぐに違和感に気がついた。
「あ、れ? 雪が、ない?」
いつもキカくんの家に集まっていたから、あたしは初めてハヅキくんの家を知ることになる。
「こっちの棟の二階。ハヅキは来てるのかな?」
あたしもハヅキくんの所在が気になっていた。だって、一番過去に来たかったのは、ハヅキくんだ。
あたしやキカくんがハヅキくんのお母さんと会えたとしても、意味がない。
もしもハヅキくんが来れなかったとして、お母さんがどんな人だったとか、こんな感じだったとか、あたし達が伝えたところで、それだと今までハヅキくんのお母さんのことを知る人から聞いた情報と全くおんなじになってしまう。
そっと、木の影から建物を見守っていた。すると、階段の入り口から男の人が降りて出てきて、駐車場に向かって行くのが見えた。車に乗り込み、どこかへ出掛けて行く。なんとなく、今の顔に見覚えがある気がするんだけど。
「あ、ハヅキの父ちゃんだ! 若いっ」
隣で、一瞬あたしと同じように考え込んでいたキカくんが笑っている。あたしは、ハヅキくんのお父さんの姿を思い浮かべた。確かに、今の人は髪の色が黄色くて長髪だったけど、着ている作業服がキカくんの家で会った時と同じものを着ていた。
「仕事に行くのかな?」
「たぶん」
「もしかして、今家ん中ハヅキの母ちゃんだけかな?」
にやりと、悪い顔をするキカくんに、あたしは嫌な予感が頭をよぎる。
そして、その予感は的中する。駆け出したキカくんにあわてて付いていくと、さっきハヅキくんのお父さんが降りてきた棟の入り口から階段を上り、玄関ドアの前で立ち止まった。コンクリートの階段は薄暗かった。
そして、ピンポンもなしにいきなり重たいドアを開けようとドアノブを捻っているキカくん。しかし、鍵がかかっていて開かないようだ。
「やめようよ、キカくん」
「なんでだよ、ハヅキが中にいるかもしんねーじゃん」
やっぱり勝手に中に入る気だ! この前の空き家の時もだけど、キカくんを不法侵入常習者にさせてはいけないと思って、Tシャツの裾を掴んで引き止めようとした瞬間、二人でドアをすり抜けてしまった。
玄関の内側に入ってしまったあたし達は、
突然の出来事に顔を見合わせて目をぱちくりと瞬かせる。
「でもさ、ハヅキくんがいたとしても、お母さんには見えないんじゃないの?」
気を取り直して、もうどうにでもなれと、そおっと中へと進むキカくんの後ろから、あたしはTシャツの裾を掴んだままついていく。
「それでも、あいつは母ちゃんに会いたいだろ」
それは、そうだけど。
シンプルに片付いた部屋の中は、シーンとしていて誰もいない。
「……あれ?」
二人でもう一度顔を見合わせてから、隣の部屋やすべてのドアを隅々開けてみたけれど、どこにもハヅキくんのお母さんの姿はなかった。
「いない……ね」
「うん、いないな」
がっかりしてなんの収穫もないまま部屋を後にした。
そして、コンクリートの階段を降りて外に出た瞬間、すぐに違和感に気がついた。
「あ、れ? 雪が、ない?」
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