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第十二章 飛べた!
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しおりを挟む『条件を満たしました。これより、文字変換の使用文字数がリセットされます』
視界に表示された画面を見てレイナは危うく声を出そうになったが、どうにか抑える。文字数が元に戻ったという事は日付が変更されたらしく、知らない間にレイナは大迷宮内で1日近くを過ごした事らしい。
文字数がリセットされた事で文字変換の能力も扱えるようになり、ここでレナは3人の様子を伺う。まだイヤンに仕掛けられた罠の影響が残っているのかリルは目元を抑え、チイやネコミンも眠たそうに目を擦る。その様子を見てレイナは脱出の前に安全な場所で休息が必要だと判断して文字変換を使って3人が休める場所を作り出す事にした。
(銃を生み出したとき、俺の思い通りの物が出てきた……なら、あれも作り出せるかもしれない)
レイナは立ち上がるとカバンの中から文字変換に使えそうな道具を探し出し、万が一の場合に想定してカバンのポケットの中に文字変換の材料として入れていた金貨を取り出す。
『金貨――世界中で発行されている金貨』
金貨を見つめてレイナは特に勿体ない気がしたが、今回作り出す物を考えると一文字よりも二文字の文字の方が「想像」しやすく、文字変換の能力を発動させて作り上げる事にした。
「すいません、ちょっと待っててください」
「ん、何処へ行く気だ?」
「大丈夫です、何処へも行きませんから」
立ち上がって移動を始めたレイナにリルが声を掛けるが、言葉通りに数歩ほど離れた場所でレイナは立ち止まり、そして解析と文字変換の能力を発動して「金貨」の名前を変更させる。
「……頼む、成功して」
祈るようにレイナは金貨の詳細画面の名前の部分を書き換えた瞬間、金貨が光り輝き、それを見たレイナは咄嗟に放り投げる。そして地面に落ちた瞬間に金貨は形状を大きく変化させ、やがてレイナの前に「一軒家」が誕生した。
――第四階層の安全地帯の中央にてレイナが生まれた時から住み続けていた『自宅』が誕生し、その光景を見てレイナは無意識に瞳を潤ませる。何しろ異世界で自分の家を目にするなど考えてもおらず、扉を開けば家族が出迎えてくれるのではないかと考えてしまう。
一方で金貨から建築物を誕生させたレイナにリル達は唖然とした表情を浮かべ、まさか建物まで作り出せるとは思わず、リルが珍しく焦った声を上げる。
「こ、こ、これはいったい……何なんだ!?」
「あ、すいません……説明するのを忘れてました。これが俺の家です」
「いや、家ですって……」
「……わおっ」
リル達は目の前に誕生した建物を前にして唖然とした表情を浮かべ、恐る恐る近付いて本物である事を確認する。レイナの方も扉に手を伸ばし、鍵が開いている事を確認すると中に入り込む。
外見だけではなく、建物の中身の方も完璧に再現されており、リル達を中に通すとレイナは部屋の間取りや家具も存在する事を確認し、これで気兼ねなく休むことが出来ると判断した。その一方で家の中に案内されたリル達は興奮した様子でレイナに話しかける。
「お、おい!!この天井付近に張り付いているのは何なんだ!?」
「あ、それはクーラーです。部屋の中を温かくしたり、逆に冷たくする事も出来ます」
「なら、こっちの箱のような物は?」
「電子レンジです。中に冷たい食べ物とかを入れると温めることが出来ます」
「なら、この変なの?」
「テレビです。今は使えないと思いますけど……」
リル達は初めて見る電子機器に戸惑い、部屋の中の物をあちこちと調べまわる。彼女達にとっては初めて見る未知の道具がいくつも存在し、その間にレイナは建物の様子を確認する。
(俺がこっちの世界に召喚される前の状態の家だ……やっぱり、文字変換を発動させるとき、作り出す物は俺の想像が反映されるんだ)
レイナの予想通り、文字変換の能力を使用するときは欲しい物を想像すればその願いが反映されて望み通りの物が現れるらしく、だからこそレイナは想像力を高めるために「家」ではなく「自宅」という文字を使用した。結果としてはそれが功を奏し、見事にレイナは異世界で自分の家を作り出す事に成功した。
しかし、何でもかんでも思い通りにはいかず、残念ながら照明を付けるためにレイナはスイッチを押すが反応はなく、冷蔵庫の方も確認すると中身が空で機能していない事が判明する。
(あ、そうか……家を作り出した所で電気やガスや水道が使えるはずがないじゃん。失敗した……)
家だけを生み出したところで電気等が都合よく通っているはずがない事に気付いたレイナは頭を抑え、これでは身体を休める事は出来ても住む場所としては不適合だと判断する。物置部屋に行けばカセットコンロの類があるので火はどうにかできるが、水道と電気に関してはどうする事も出来ない。
(参ったな、折角作り出したのにこれじゃあ心行くまで休むことが出来ないよ……ん?待てよ、それならあれを作り出せば電気やガスや水道どころか、移動も楽になるんじゃないのか?)
ソファに座り込みながらレイナは自分の叔父が所持していたとある車の存在を思い出し、今度身体を休める場所を作る時はあの車を出してみるのも悪い手ではないかと考え、一先ずはリル達に声を掛ける。
「今日はここで休みましょう。アリシアさんもベッドで寝かせたいし、必要な道具があるなら全部持ってき行きましょう」
「ん……そ、そうだな」
「これが異界の勇者の家だというのか……何とも不思議な物だな」
「今度、ゆっくり見学したい」
「それはまた別の機会という事で……両親の部屋にベッドがありますから、そこで休ませましょう」
外で寝かせているアリシアを運び込み、レイナの両親の部屋へ運び込む。柔らかいベッドの上で寝かせたお陰か心なしかアリシアの表情も和らぎ、そんな彼女を見てリルが看病を申し出る。
「アリシアの事は私が見ておこう。君たちは先に休んでいてくれ」
「リル様、それなら私が……」
「いや、いいから休むんだ。アリシアとしても私の方が相手をしやすいだろう」
「そ、そうですか……分かりました」
「じゃあ、客室もあるのでそっちへ案内します」
アリシアの事はリルに任せるとレイナはチイとネコミンのために客室へ案内すると、自分は二階の自室へ向かう。入って早々にレイナは見慣れた部屋の光景にため息を吐き出し、ここが異世界である事を忘れてしまいそうになった。
読みかけの漫画や朝起きる際に床に落としてしまった毛布を見て本当に自分の部屋に戻って来た感覚に襲われるが、レイナは自分の胸元に手を伸ばし、乳房に触れる。別に邪な気持ちで触れたわけではなく、現在の自分の姿の変化を自覚してここが地球ではない事を再確認した。
「……見慣れた天井だな」
ベッドに横たわり、懐かしく感じる自分の部屋の天井を眺めながらもレイナは瞼を閉じる。無意識に涙が流れてしまい、本当の元の世界へ戻りたいという気持ちが強まっていく。
「帰りたい……」
地球の家族や友人の顔を思い出しながらもレイナは睡魔に襲われ、意識が薄れかけた時、部屋の扉が開いて誰かが中に入り込む。その人物はレイナがベッドの上で涙を流しながら眠っている事に気付くと、黙ってレイナの方へ近づき、手を握り締めた。
「よしよし……大丈夫、ゆっくり休んで」
「んっ……」
手を握り締めた人物はレイナが立ち去る際に彼から「不安」の臭いを嗅ぎ取ったネコミンであり、心配した彼女はレイナの様子を確認するために部屋まで訪れる。そして子供の様に泣いているレイナの姿を見た彼女は落ち着かせるようにレイナの頭を撫でながら安心させた。
視界に表示された画面を見てレイナは危うく声を出そうになったが、どうにか抑える。文字数が元に戻ったという事は日付が変更されたらしく、知らない間にレイナは大迷宮内で1日近くを過ごした事らしい。
文字数がリセットされた事で文字変換の能力も扱えるようになり、ここでレナは3人の様子を伺う。まだイヤンに仕掛けられた罠の影響が残っているのかリルは目元を抑え、チイやネコミンも眠たそうに目を擦る。その様子を見てレイナは脱出の前に安全な場所で休息が必要だと判断して文字変換を使って3人が休める場所を作り出す事にした。
(銃を生み出したとき、俺の思い通りの物が出てきた……なら、あれも作り出せるかもしれない)
レイナは立ち上がるとカバンの中から文字変換に使えそうな道具を探し出し、万が一の場合に想定してカバンのポケットの中に文字変換の材料として入れていた金貨を取り出す。
『金貨――世界中で発行されている金貨』
金貨を見つめてレイナは特に勿体ない気がしたが、今回作り出す物を考えると一文字よりも二文字の文字の方が「想像」しやすく、文字変換の能力を発動させて作り上げる事にした。
「すいません、ちょっと待っててください」
「ん、何処へ行く気だ?」
「大丈夫です、何処へも行きませんから」
立ち上がって移動を始めたレイナにリルが声を掛けるが、言葉通りに数歩ほど離れた場所でレイナは立ち止まり、そして解析と文字変換の能力を発動して「金貨」の名前を変更させる。
「……頼む、成功して」
祈るようにレイナは金貨の詳細画面の名前の部分を書き換えた瞬間、金貨が光り輝き、それを見たレイナは咄嗟に放り投げる。そして地面に落ちた瞬間に金貨は形状を大きく変化させ、やがてレイナの前に「一軒家」が誕生した。
――第四階層の安全地帯の中央にてレイナが生まれた時から住み続けていた『自宅』が誕生し、その光景を見てレイナは無意識に瞳を潤ませる。何しろ異世界で自分の家を目にするなど考えてもおらず、扉を開けば家族が出迎えてくれるのではないかと考えてしまう。
一方で金貨から建築物を誕生させたレイナにリル達は唖然とした表情を浮かべ、まさか建物まで作り出せるとは思わず、リルが珍しく焦った声を上げる。
「こ、こ、これはいったい……何なんだ!?」
「あ、すいません……説明するのを忘れてました。これが俺の家です」
「いや、家ですって……」
「……わおっ」
リル達は目の前に誕生した建物を前にして唖然とした表情を浮かべ、恐る恐る近付いて本物である事を確認する。レイナの方も扉に手を伸ばし、鍵が開いている事を確認すると中に入り込む。
外見だけではなく、建物の中身の方も完璧に再現されており、リル達を中に通すとレイナは部屋の間取りや家具も存在する事を確認し、これで気兼ねなく休むことが出来ると判断した。その一方で家の中に案内されたリル達は興奮した様子でレイナに話しかける。
「お、おい!!この天井付近に張り付いているのは何なんだ!?」
「あ、それはクーラーです。部屋の中を温かくしたり、逆に冷たくする事も出来ます」
「なら、こっちの箱のような物は?」
「電子レンジです。中に冷たい食べ物とかを入れると温めることが出来ます」
「なら、この変なの?」
「テレビです。今は使えないと思いますけど……」
リル達は初めて見る電子機器に戸惑い、部屋の中の物をあちこちと調べまわる。彼女達にとっては初めて見る未知の道具がいくつも存在し、その間にレイナは建物の様子を確認する。
(俺がこっちの世界に召喚される前の状態の家だ……やっぱり、文字変換を発動させるとき、作り出す物は俺の想像が反映されるんだ)
レイナの予想通り、文字変換の能力を使用するときは欲しい物を想像すればその願いが反映されて望み通りの物が現れるらしく、だからこそレイナは想像力を高めるために「家」ではなく「自宅」という文字を使用した。結果としてはそれが功を奏し、見事にレイナは異世界で自分の家を作り出す事に成功した。
しかし、何でもかんでも思い通りにはいかず、残念ながら照明を付けるためにレイナはスイッチを押すが反応はなく、冷蔵庫の方も確認すると中身が空で機能していない事が判明する。
(あ、そうか……家を作り出した所で電気やガスや水道が使えるはずがないじゃん。失敗した……)
家だけを生み出したところで電気等が都合よく通っているはずがない事に気付いたレイナは頭を抑え、これでは身体を休める事は出来ても住む場所としては不適合だと判断する。物置部屋に行けばカセットコンロの類があるので火はどうにかできるが、水道と電気に関してはどうする事も出来ない。
(参ったな、折角作り出したのにこれじゃあ心行くまで休むことが出来ないよ……ん?待てよ、それならあれを作り出せば電気やガスや水道どころか、移動も楽になるんじゃないのか?)
ソファに座り込みながらレイナは自分の叔父が所持していたとある車の存在を思い出し、今度身体を休める場所を作る時はあの車を出してみるのも悪い手ではないかと考え、一先ずはリル達に声を掛ける。
「今日はここで休みましょう。アリシアさんもベッドで寝かせたいし、必要な道具があるなら全部持ってき行きましょう」
「ん……そ、そうだな」
「これが異界の勇者の家だというのか……何とも不思議な物だな」
「今度、ゆっくり見学したい」
「それはまた別の機会という事で……両親の部屋にベッドがありますから、そこで休ませましょう」
外で寝かせているアリシアを運び込み、レイナの両親の部屋へ運び込む。柔らかいベッドの上で寝かせたお陰か心なしかアリシアの表情も和らぎ、そんな彼女を見てリルが看病を申し出る。
「アリシアの事は私が見ておこう。君たちは先に休んでいてくれ」
「リル様、それなら私が……」
「いや、いいから休むんだ。アリシアとしても私の方が相手をしやすいだろう」
「そ、そうですか……分かりました」
「じゃあ、客室もあるのでそっちへ案内します」
アリシアの事はリルに任せるとレイナはチイとネコミンのために客室へ案内すると、自分は二階の自室へ向かう。入って早々にレイナは見慣れた部屋の光景にため息を吐き出し、ここが異世界である事を忘れてしまいそうになった。
読みかけの漫画や朝起きる際に床に落としてしまった毛布を見て本当に自分の部屋に戻って来た感覚に襲われるが、レイナは自分の胸元に手を伸ばし、乳房に触れる。別に邪な気持ちで触れたわけではなく、現在の自分の姿の変化を自覚してここが地球ではない事を再確認した。
「……見慣れた天井だな」
ベッドに横たわり、懐かしく感じる自分の部屋の天井を眺めながらもレイナは瞼を閉じる。無意識に涙が流れてしまい、本当の元の世界へ戻りたいという気持ちが強まっていく。
「帰りたい……」
地球の家族や友人の顔を思い出しながらもレイナは睡魔に襲われ、意識が薄れかけた時、部屋の扉が開いて誰かが中に入り込む。その人物はレイナがベッドの上で涙を流しながら眠っている事に気付くと、黙ってレイナの方へ近づき、手を握り締めた。
「よしよし……大丈夫、ゆっくり休んで」
「んっ……」
手を握り締めた人物はレイナが立ち去る際に彼から「不安」の臭いを嗅ぎ取ったネコミンであり、心配した彼女はレイナの様子を確認するために部屋まで訪れる。そして子供の様に泣いているレイナの姿を見た彼女は落ち着かせるようにレイナの頭を撫でながら安心させた。
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