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第九章 覚悟を決める

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「俺はやめとくよ」

 いつも通りにキカくんの家にみんなで集まって庭で話していると、突然キカくんが言った。

「命かけてまでする意味あるのかも分からないし、そもそも俺はこんな作り話は、はなっから信じてない。じいちゃんが俺たちを面白がって楽しんでいるだけだ」

 和子さんが朝早く収穫した夏野菜がキラキラと流しのところで水に浸かって色鮮やかに光り輝いている。
 その中からきゅうりを一本取り出して水気を払うと、キカくんがボリッと豪快に口にしてポリポリと食べている。
 きゅうりを丸ごと食べるなんて、したことがなかったけれど、こんがりといい色に日焼けした肌をしているキカくんが食べているきゅうりが、とても美味しそうに見えた。もちろん、この前食べたトマトもだけど、和子さんの野菜はみんな美味しい。

 ここ最近、キカくんが夜に洋さんの書斎に入って行くのを何回か見ていた。
 何を話しているのか気になったけれど、盗み聞きするわけにもいかなくて、キカくんにも何を話していたの? とも聞けなくて、なんだかもどかしい思いをしていた。そして、高見公園でキカくんが悩むような顔をしていたのも、少し気になっている。何か物語のヒントでも見つけたのだろうか。

「僕は、行くよ」

 あたしの思考を遮るように、ザブンッとアオイくんも水の中に勢いよく手を突っ込んできゅうりを取り出すと、腕を振って水滴を払う。そして、躊躇うことなくガリッと食いついた。ボリボリといい音が夏の空に響く。

「俺も! もう決めた」

 ハヅキくんも強く言葉を放つと、ザブッとトマトを掴んで取り出した。片手に収まりきれないほどの大きなトマトをシャクっとかじった。
 二人の決意に拍手でも送っているかのように、先ほどから忙しなく鳴いていたセミたちがより一層激しく鳴き始めた。

 見上げた空には、高く遠く、飛行機が青い空に真っ白い線を描いて飛んでいくのが見えた。
 出来始めの入道雲が、ゆっくりゆっくり形を変えながら積み上がっていく。
 すっかりこちらの空気に慣れ親しんでしまったあたしは、あのどんよりとしたよどんだ世界に戻れるのだろうかと、少し不安になった。
 だって、楽しいことなんて、なんにもなかったから。
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