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第五章 夏野菜

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 次の日、朝早くからドタバタと忙しない足音が聞こえてきて目が覚めた。ゆっくり起き上がると、隣ではまだいびきをかいて寝ているパパの姿。
 縁側のカーテンの隙間から光が漏れている。 
 今日は天気が良さそうだ。
 扇風機のスイッチを入れて、じんわり汗ばんでいた体。まだ目覚めない頭に心地良い風を浴びているとまた瞼が重たくなって来た。

 「いってきまーすっ!」

 元気のいい声が聞こえて、一気に目が覚めた。
 キカくんが学校に行ったんだ。
 外から賑やかな声が聞こえてくるから、きっと昨日の二人も一緒に登校するんだろうと思って、そっとカーテンから覗く。
 楽しそうに歩いていく三人の男の子達の後ろには、昨日見たランドセル。
 本当に仲が良いんだなぁ。
 小さく、ため息が出てしまった。

 朝ごはんをいただいた後、布団を畳んで、蝉の声と窓から吹き込む柔らかな風に包まれながら、本を開く。
 今日は高見公園に行くって言っていた。ちょうどその場面が出てくるページで手を止めて、じっくりと読み進めることにした。

 沢の森から奥へと続く山道。急な崖があったり草木がますます生い茂っていたりして、行く手を阻む。過酷な道だ。そんな山道を登り切ると、ひらけてきた場所に整備された公園。公園自体は昔からあるけれど、遊具が取り付けられたのは最近らしい。
 と、言っても、それは本の中の話で、実際には行ってみないと分からない。

 物語の中の場所を巡ることで、洋さんの過去に何か結びつくようなことが分かるのだろうか?

 本を手にしたまま、あたしはゴロンと畳の上に寝転んだ。
 仰向けに天井を見上げる。今日の天気はずっと晴れだ。さっき朝ごはんを食べながら見ていた朝の情報番組で、天気予報が映った時に確認した。
 降水確率もゼロ。暑くなりそうだ。

 ぼーっとしていると、カタンっと、廊下の方から物音がした。

 ゆっくり起き上がって、テーブルに本を置いた。開いていた障子戸から、そっと音の聞こえた方を覗き見る。
 一番奥の書斎前に、洋さんの姿を見つけた。
 あたしがジッと見つめていると、視線に気がついたのか、洋さんがこちらを振り向いた。
 思わず、戸から半分以上出かかっていた体を引っ込めて、顔半分だけ出してもう一度洋さんの行動を見守る。

「来なさい」
「……え」
「書斎に興味があるんだろう? おいで」

 低いけれど、優しい声に聞こえた気がして、あたしは洋さんが書斎に入っていくのを確認した後にゆっくり向かった。
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