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第二章 友達トリオ
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「ただいまー‼︎」
突然、聞こえてきた大きな声に驚いてあたしは本の世界から戻って来た。
息をするのも忘れるくらいに夢中で読んでいたから、ゆっくりと深呼吸をする。
い草の香りが鼻を抜けていくのを感じていると、ダダダダッと廊下に響いてくる足音に本を持ったままの姿勢で固まってしまう。次の瞬間、思い切り障子戸を開け放たれた。
視界に映り込んできた短パンから伸びたヒョロリと細い足。上へと視線を上げていく。黒縁のメガネの奥の瞳と視線が合った瞬間、不審そうにその目が細くなる。そして、眉は思いっきり下がっていく。
「なんだよ、女かよ! 俺、キカ、よろしくー」
いきなり現れて、はじめましてもなく第一声がそれ!? あたしだってキカちゃんだと思っていたのに、男かよ!
そして自己紹介、雑すぎない!?
「きっかー、お友達どんな子ー?」
「おい、アオイ、まずキカのばあちゃんに挨拶してこようぜ」
次々に聞こえてくる声に、あたしは固まったまま動けずにキカと名乗った男の子の方を向いたまま。
「おじゃましまーす」
「あ、待ってよ、ハヅキー」
後から聞こえてきた声はこちらに来ないで遠ざかっていった。
「それ、じいちゃんに渡されたんだろ?」
「え、あ、うん」
「読んだのか?」
「うん、まだ途中だけど、すごく面白い」
舞台はこの町で、もう廃線してしまった電鉄の線路から未来へと飛べるお話。
「じいちゃんになんて言われた?」
「え……、この本を、過去の私に返してきて欲しいって」
「やっぱり」
ため息を吐き出したキカくん。
「じいちゃんさ、俺にも同じようにこの前頼んで来たんだよね。俺は速攻断ったけど」
「……どうして?」
「だって、過去とか未来とかどうでも良くない? 今が楽しけりゃいいじゃん。じいちゃんにどんな悔いがあるのかわかんないけど、なんか面倒くさそう。お前やるの?」
「……や、やるのって言われても、どうやったら過去の洋さんにこれを返しになんていけるの?」
そんなことできるわけがない。
「え? ちゃんと読んだ? その本と同じことすればいいんだよ」
「同じこと?」
「そしたら、過去へも未来へも行けるんだよ」
真面目な顔を崩さないままキカくんが言うから、頭の中がますます混乱してしまう。洋さんの孫だから、難しいことを言うのだろうか。
突然、聞こえてきた大きな声に驚いてあたしは本の世界から戻って来た。
息をするのも忘れるくらいに夢中で読んでいたから、ゆっくりと深呼吸をする。
い草の香りが鼻を抜けていくのを感じていると、ダダダダッと廊下に響いてくる足音に本を持ったままの姿勢で固まってしまう。次の瞬間、思い切り障子戸を開け放たれた。
視界に映り込んできた短パンから伸びたヒョロリと細い足。上へと視線を上げていく。黒縁のメガネの奥の瞳と視線が合った瞬間、不審そうにその目が細くなる。そして、眉は思いっきり下がっていく。
「なんだよ、女かよ! 俺、キカ、よろしくー」
いきなり現れて、はじめましてもなく第一声がそれ!? あたしだってキカちゃんだと思っていたのに、男かよ!
そして自己紹介、雑すぎない!?
「きっかー、お友達どんな子ー?」
「おい、アオイ、まずキカのばあちゃんに挨拶してこようぜ」
次々に聞こえてくる声に、あたしは固まったまま動けずにキカと名乗った男の子の方を向いたまま。
「おじゃましまーす」
「あ、待ってよ、ハヅキー」
後から聞こえてきた声はこちらに来ないで遠ざかっていった。
「それ、じいちゃんに渡されたんだろ?」
「え、あ、うん」
「読んだのか?」
「うん、まだ途中だけど、すごく面白い」
舞台はこの町で、もう廃線してしまった電鉄の線路から未来へと飛べるお話。
「じいちゃんになんて言われた?」
「え……、この本を、過去の私に返してきて欲しいって」
「やっぱり」
ため息を吐き出したキカくん。
「じいちゃんさ、俺にも同じようにこの前頼んで来たんだよね。俺は速攻断ったけど」
「……どうして?」
「だって、過去とか未来とかどうでも良くない? 今が楽しけりゃいいじゃん。じいちゃんにどんな悔いがあるのかわかんないけど、なんか面倒くさそう。お前やるの?」
「……や、やるのって言われても、どうやったら過去の洋さんにこれを返しになんていけるの?」
そんなことできるわけがない。
「え? ちゃんと読んだ? その本と同じことすればいいんだよ」
「同じこと?」
「そしたら、過去へも未来へも行けるんだよ」
真面目な顔を崩さないままキカくんが言うから、頭の中がますます混乱してしまう。洋さんの孫だから、難しいことを言うのだろうか。
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