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第三章 繋がりはマンデリン
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咄嗟に身を縮めて隠れようとしたけれど、しっかり目が合ってしまった。みーつけた!とでも言うように、ニタリと笑う顔を見て背筋にゾワリと何かが走っていくのを感じて震える。
「ちょっと、付き合ってくんないかなぁ」
教室の中までは入ってこないけど、私に向かって言っているんだろう。
必死に首を振って拒否をする。
「ねぇ、呼んでるのって、そよちゃんのことじゃないの?」
浜崎さんが近づいて聞いてくるけど、壁の方を向いたまま、知らないふりを決め込む。
「あたし達とのお弁当はとりあえずいいからさ、行っておいでよ」
村上さんもやってきて、そう言ってくれる。仲良し三人組とのお昼を断る理由が出来たけど、さらに厄介な人に声をかけられているから、だったらみんなとお弁当の方が断然よかったと頭の中で叫ぶ。
「あの先輩めっちゃカッコいいじゃん。え、もしかして、彼氏?」
楽しそうにやって来たのは竹山さん。
そんなわけあるか。
思わず真顔で振り返ってしまって、竹山さんが動きを止めた。
「あ、ち、違うの? でも、ほらなんかまだ呼んでるし、あの辺人が増えて来てるよ?」
指を差して心配そうに言うから、仕方がなく立ち上がった。
「お、良かった。やっぱ待つノ木さんだよね? ほら、あのウサギのこと詳しく知りたくてさ。ちょっと話せない?」
あのウサギのことと言われて、私は思わず机の横にあるリュックに視線を向けた。
「持ってきてんの?」
興味深々に机の方を見るから、私はリュックを掴んで持ち、和久さんの息子の所まで行くと、そのまま廊下に出た。
とにかく、これ以上目立ちたくない。そう思って、あてもなく昇降口の方へと進んでいると、「こっちの方がいいかも」と手を引かれた。
二階に上がる階段の方へ体を引かれて、よろめきながらも私はされるがままに階段を上がった。次の階には行かずに、特別教室の棟へつながる渡り廊下に進むと、すぐに引かれた腕の力が緩んで解放された。
「ここまで来れば誰もいないし、大丈夫でしょ」
軽く周りを警戒してから、彼は私が抱えていたリュックに視線を落とすと続けて私の顔を見た。
「あ、その前に君、なんて名前なの?」
「え?」
「さっきは喫茶店『待つノ木』の子だから、待つノ木さんって声かけちゃったけどさ」
やっぱり、ヘラリと笑う彼は親しみやすそうに話しかけて来るけど、私からしたら馴れ馴れしくて困る。でも、聞かれているのに答えないわけにもいかないから、俯きながら精一杯の声で答えた。
「……松ノ木、です」
「え?」
「松ノ木、そよ葉、です」
声が震える。リュックを持つ手に力が入って、ギュッと抱え込んだ。
「へー! 待つノ木って苗字だったんだ! おもしろー! すげぇ」
急に、弾けたような声が廊下に響き渡るから、つい顔を上げて辺りを見回してしまう。
「そよ葉ちゃんね、おっけ、覚えた」
目の前の彼が楽しそうに笑っている。屈託のない子供みたいにやんちゃな顔に、なんだか不安だった心が少しだけ晴れる。
「あ、俺のことは理穏でいいよ」
「え……」
「みんなそう呼んでるから、気軽に呼んで」
「え、いや」
そんな軽々しくなんて呼べない。
あまりに近い距離感に、一歩後退りした。
「ん? 嫌?」
「い、いや……」
さらに詰めて来るから、後退りする。
「嫌なの?」
いや、嫌なわけではなくて。
眉を下げて悲しげな表情をされても、近づかれると引いてしまう。なんと言えば良いのか分からなくなって、もう一度リュックをギュウっと抱え直した。
「こらー! また窒息するってばー!」
すると、勢いよく私の腕の中から弾けるように飛び出して来たのは、威勢のいいマンデリン。
「ちょっと、付き合ってくんないかなぁ」
教室の中までは入ってこないけど、私に向かって言っているんだろう。
必死に首を振って拒否をする。
「ねぇ、呼んでるのって、そよちゃんのことじゃないの?」
浜崎さんが近づいて聞いてくるけど、壁の方を向いたまま、知らないふりを決め込む。
「あたし達とのお弁当はとりあえずいいからさ、行っておいでよ」
村上さんもやってきて、そう言ってくれる。仲良し三人組とのお昼を断る理由が出来たけど、さらに厄介な人に声をかけられているから、だったらみんなとお弁当の方が断然よかったと頭の中で叫ぶ。
「あの先輩めっちゃカッコいいじゃん。え、もしかして、彼氏?」
楽しそうにやって来たのは竹山さん。
そんなわけあるか。
思わず真顔で振り返ってしまって、竹山さんが動きを止めた。
「あ、ち、違うの? でも、ほらなんかまだ呼んでるし、あの辺人が増えて来てるよ?」
指を差して心配そうに言うから、仕方がなく立ち上がった。
「お、良かった。やっぱ待つノ木さんだよね? ほら、あのウサギのこと詳しく知りたくてさ。ちょっと話せない?」
あのウサギのことと言われて、私は思わず机の横にあるリュックに視線を向けた。
「持ってきてんの?」
興味深々に机の方を見るから、私はリュックを掴んで持ち、和久さんの息子の所まで行くと、そのまま廊下に出た。
とにかく、これ以上目立ちたくない。そう思って、あてもなく昇降口の方へと進んでいると、「こっちの方がいいかも」と手を引かれた。
二階に上がる階段の方へ体を引かれて、よろめきながらも私はされるがままに階段を上がった。次の階には行かずに、特別教室の棟へつながる渡り廊下に進むと、すぐに引かれた腕の力が緩んで解放された。
「ここまで来れば誰もいないし、大丈夫でしょ」
軽く周りを警戒してから、彼は私が抱えていたリュックに視線を落とすと続けて私の顔を見た。
「あ、その前に君、なんて名前なの?」
「え?」
「さっきは喫茶店『待つノ木』の子だから、待つノ木さんって声かけちゃったけどさ」
やっぱり、ヘラリと笑う彼は親しみやすそうに話しかけて来るけど、私からしたら馴れ馴れしくて困る。でも、聞かれているのに答えないわけにもいかないから、俯きながら精一杯の声で答えた。
「……松ノ木、です」
「え?」
「松ノ木、そよ葉、です」
声が震える。リュックを持つ手に力が入って、ギュッと抱え込んだ。
「へー! 待つノ木って苗字だったんだ! おもしろー! すげぇ」
急に、弾けたような声が廊下に響き渡るから、つい顔を上げて辺りを見回してしまう。
「そよ葉ちゃんね、おっけ、覚えた」
目の前の彼が楽しそうに笑っている。屈託のない子供みたいにやんちゃな顔に、なんだか不安だった心が少しだけ晴れる。
「あ、俺のことは理穏でいいよ」
「え……」
「みんなそう呼んでるから、気軽に呼んで」
「え、いや」
そんな軽々しくなんて呼べない。
あまりに近い距離感に、一歩後退りした。
「ん? 嫌?」
「い、いや……」
さらに詰めて来るから、後退りする。
「嫌なの?」
いや、嫌なわけではなくて。
眉を下げて悲しげな表情をされても、近づかれると引いてしまう。なんと言えば良いのか分からなくなって、もう一度リュックをギュウっと抱え直した。
「こらー! また窒息するってばー!」
すると、勢いよく私の腕の中から弾けるように飛び出して来たのは、威勢のいいマンデリン。
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