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第九章 四人の夏
四人の夏
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それから、あたし達は懐かしい思い出話に花を咲かせて、リビングには笑いが絶えず溢れていた。
しばらくして、青ちゃんが顔を覗かせたかと思えば、綺麗になった千冬を見て驚いていた。
すっかり陽が傾いて、オレンジ色の空に、カナカナカナ……とヒグラシの鳴き声が耳に心地よく聞こえ出した頃、あたしのスマホに光夜くんからメッセージが届いた。
「光夜くん、今から来るって!」
扇風機の前で転がる春一と、すっかり小説話で意気投合して盛り上がっていた千冬が、揃ってあたしの方へ振り向いた。
「よっし、じゃあとりあえず買い出しだなっ。千冬は……重いの持てないだろうから、花火係りかな。なずなと一緒に」
春一はあたしに同意を求めるようにこちらを見てくる。けれど、さっきの光夜くんからのメッセージの返事に、「駅まで迎えに行くね」と送ってしまった手前、ちょうど話も盛り上がっていた二人を見ていたから、あたしは花火係りは千冬と春一に任せることにした。
「なずな大丈夫か? 材料重いぞ?」
「平気平気! 光夜くんもいるし」
玄関であたしが片腕を上げて意気込むと、二人は笑って「じゃあ、また後でね」と手を振った。
駅までの道のり、高いビルもなく遠くの空まで見渡せる「星と花」から一歩を踏み出す。坂道を下って、景色が先ほどより下がってゆくけれど、まだ橙と朱の空に、薄い水色を見つけて足を止めた。
いつも見慣れている景色とはいえ、改めて眺めると、燃えるように沈んでいく夕陽は見惚れてしまうほどに綺麗だ。
ふと、光夜くんの写真を思い出した。
姉から借りて見せてもらったアルバムの中の写真は、あたしの中ですごく心に残っている。いつまでも眺めていたくなるくらいに魅力的な風景の写真が、脳内にまた蘇ってくる。
「光夜くん写真集とか出さないのかなっ。絶対買うんだけどな」
あたしは軽くスキップをしながら駅までの残りの坂を、軽やかに下りて行く。その途中で、カシャッと、シャッターを切る音が聞こえた。
すぐ後ろで聞こえた気がして、驚いて咄嗟にあたしは振り返った。
「写真集は残念ながらまだないんだよなー」
カメラ片手に笑う光夜くんの姿に、驚いて思わず真っ直ぐに姿勢を正して立ち尽くした。スキップをしていたことを思い出して、急に恥ずかしくなる。
「新堂さん、俺に気が付かないで通り過ぎちゃうから焦ったよ。おかげでいい写真が撮れたけど」
「今のって、あたしを撮ったの?!」
慌てて光夜くんの近くまで駆け戻ると、笑いながら「後であげるな」と言ってくれた。
そんな光夜くんの優しい笑顔が、ちょうど夕焼けにキラキラと反射していて、眩しくて、あたしの胸の奥で何かが転がったような、跳び跳ねたような、そんな感覚になった。
「もう千冬は着いてたの?」
「うん! 今ね、春一と一緒に花火の買い出しに向かってる」
「そっか」
安心した様にホッと肩の力が抜けた様に見えた光夜くん。みんなが千冬のことを心配しているんだと感じた。だから、今日は、千冬がいるこの数日間の夏は、大事に過ごしたい。
「今から、バーベキューの材料買いに行こうと思ってたんだけど、光夜くん手伝ってもらってもいい?」
「もちろん」
即答で答えてくれる光夜くんに、あたしは嬉しくなって隣に並んで歩き始める。
夕陽は沈みそうに見えるけれど、まだまだ沈まない。
しばらくして、青ちゃんが顔を覗かせたかと思えば、綺麗になった千冬を見て驚いていた。
すっかり陽が傾いて、オレンジ色の空に、カナカナカナ……とヒグラシの鳴き声が耳に心地よく聞こえ出した頃、あたしのスマホに光夜くんからメッセージが届いた。
「光夜くん、今から来るって!」
扇風機の前で転がる春一と、すっかり小説話で意気投合して盛り上がっていた千冬が、揃ってあたしの方へ振り向いた。
「よっし、じゃあとりあえず買い出しだなっ。千冬は……重いの持てないだろうから、花火係りかな。なずなと一緒に」
春一はあたしに同意を求めるようにこちらを見てくる。けれど、さっきの光夜くんからのメッセージの返事に、「駅まで迎えに行くね」と送ってしまった手前、ちょうど話も盛り上がっていた二人を見ていたから、あたしは花火係りは千冬と春一に任せることにした。
「なずな大丈夫か? 材料重いぞ?」
「平気平気! 光夜くんもいるし」
玄関であたしが片腕を上げて意気込むと、二人は笑って「じゃあ、また後でね」と手を振った。
駅までの道のり、高いビルもなく遠くの空まで見渡せる「星と花」から一歩を踏み出す。坂道を下って、景色が先ほどより下がってゆくけれど、まだ橙と朱の空に、薄い水色を見つけて足を止めた。
いつも見慣れている景色とはいえ、改めて眺めると、燃えるように沈んでいく夕陽は見惚れてしまうほどに綺麗だ。
ふと、光夜くんの写真を思い出した。
姉から借りて見せてもらったアルバムの中の写真は、あたしの中ですごく心に残っている。いつまでも眺めていたくなるくらいに魅力的な風景の写真が、脳内にまた蘇ってくる。
「光夜くん写真集とか出さないのかなっ。絶対買うんだけどな」
あたしは軽くスキップをしながら駅までの残りの坂を、軽やかに下りて行く。その途中で、カシャッと、シャッターを切る音が聞こえた。
すぐ後ろで聞こえた気がして、驚いて咄嗟にあたしは振り返った。
「写真集は残念ながらまだないんだよなー」
カメラ片手に笑う光夜くんの姿に、驚いて思わず真っ直ぐに姿勢を正して立ち尽くした。スキップをしていたことを思い出して、急に恥ずかしくなる。
「新堂さん、俺に気が付かないで通り過ぎちゃうから焦ったよ。おかげでいい写真が撮れたけど」
「今のって、あたしを撮ったの?!」
慌てて光夜くんの近くまで駆け戻ると、笑いながら「後であげるな」と言ってくれた。
そんな光夜くんの優しい笑顔が、ちょうど夕焼けにキラキラと反射していて、眩しくて、あたしの胸の奥で何かが転がったような、跳び跳ねたような、そんな感覚になった。
「もう千冬は着いてたの?」
「うん! 今ね、春一と一緒に花火の買い出しに向かってる」
「そっか」
安心した様にホッと肩の力が抜けた様に見えた光夜くん。みんなが千冬のことを心配しているんだと感じた。だから、今日は、千冬がいるこの数日間の夏は、大事に過ごしたい。
「今から、バーベキューの材料買いに行こうと思ってたんだけど、光夜くん手伝ってもらってもいい?」
「もちろん」
即答で答えてくれる光夜くんに、あたしは嬉しくなって隣に並んで歩き始める。
夕陽は沈みそうに見えるけれど、まだまだ沈まない。
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