星と花

佐々森りろ

文字の大きさ
上 下
24 / 41
第九章 四人の夏

四人の夏

しおりを挟む
 それから、あたし達は懐かしい思い出話に花を咲かせて、リビングには笑いが絶えず溢れていた。
 しばらくして、青ちゃんが顔を覗かせたかと思えば、綺麗になった千冬を見て驚いていた。
 すっかり陽が傾いて、オレンジ色の空に、カナカナカナ……とヒグラシの鳴き声が耳に心地よく聞こえ出した頃、あたしのスマホに光夜くんからメッセージが届いた。

「光夜くん、今から来るって!」

 扇風機の前で転がる春一と、すっかり小説話で意気投合して盛り上がっていた千冬が、揃ってあたしの方へ振り向いた。

「よっし、じゃあとりあえず買い出しだなっ。千冬は……重いの持てないだろうから、花火係りかな。なずなと一緒に」

 春一はあたしに同意を求めるようにこちらを見てくる。けれど、さっきの光夜くんからのメッセージの返事に、「駅まで迎えに行くね」と送ってしまった手前、ちょうど話も盛り上がっていた二人を見ていたから、あたしは花火係りは千冬と春一に任せることにした。

「なずな大丈夫か? 材料重いぞ?」
「平気平気! 光夜くんもいるし」

 玄関であたしが片腕を上げて意気込むと、二人は笑って「じゃあ、また後でね」と手を振った。
 駅までの道のり、高いビルもなく遠くの空まで見渡せる「星と花」から一歩を踏み出す。坂道を下って、景色が先ほどより下がってゆくけれど、まだ橙と朱の空に、薄い水色を見つけて足を止めた。
 いつも見慣れている景色とはいえ、改めて眺めると、燃えるように沈んでいく夕陽は見惚れてしまうほどに綺麗だ。
 ふと、光夜くんの写真を思い出した。
 姉から借りて見せてもらったアルバムの中の写真は、あたしの中ですごく心に残っている。いつまでも眺めていたくなるくらいに魅力的な風景の写真が、脳内にまた蘇ってくる。

「光夜くん写真集とか出さないのかなっ。絶対買うんだけどな」

 あたしは軽くスキップをしながら駅までの残りの坂を、軽やかに下りて行く。その途中で、カシャッと、シャッターを切る音が聞こえた。
 すぐ後ろで聞こえた気がして、驚いて咄嗟にあたしは振り返った。

「写真集は残念ながらまだないんだよなー」

 カメラ片手に笑う光夜くんの姿に、驚いて思わず真っ直ぐに姿勢を正して立ち尽くした。スキップをしていたことを思い出して、急に恥ずかしくなる。

「新堂さん、俺に気が付かないで通り過ぎちゃうから焦ったよ。おかげでいい写真が撮れたけど」
「今のって、あたしを撮ったの?!」

 慌てて光夜くんの近くまで駆け戻ると、笑いながら「後であげるな」と言ってくれた。 
 そんな光夜くんの優しい笑顔が、ちょうど夕焼けにキラキラと反射していて、眩しくて、あたしの胸の奥で何かが転がったような、跳び跳ねたような、そんな感覚になった。

「もう千冬は着いてたの?」
「うん! 今ね、春一と一緒に花火の買い出しに向かってる」
「そっか」

 安心した様にホッと肩の力が抜けた様に見えた光夜くん。みんなが千冬のことを心配しているんだと感じた。だから、今日は、千冬がいるこの数日間の夏は、大事に過ごしたい。

「今から、バーベキューの材料買いに行こうと思ってたんだけど、光夜くん手伝ってもらってもいい?」
「もちろん」

 即答で答えてくれる光夜くんに、あたしは嬉しくなって隣に並んで歩き始める。
 夕陽は沈みそうに見えるけれど、まだまだ沈まない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語

花閂
ライト文芸
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鬼と怖れられモンスターだと自覚しながらも、恋して焦がれて愛さずにはいられない。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女・禮と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて最悪の不良校に入学。女子生徒数はわずか1%という特異な環境のなか、入学早々にクラスの不良に目をつけられたり暴走族にさらわれたり、学園生活は前途多難。 周囲に鬼や暴君やと恐れられる強面の彼氏は禮を溺愛して守ろうとするが、心配が絶えない。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...