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第十章 恋心
恋心
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暗く静かな海に波の音が寄せては引いて、遠く響き渡る。バーベキューを終えて、砂浜に置かれた丸太に座った。
もう遠くを見渡せなくなってしまった海の向こうを見つめる千冬。片付けをしていたあたしは、そんな千冬が気になってそっと隣に座った。
「千冬、寒くない?」
「あ、うん、平気」
お湯を注いだだけで作った即席のコンソメスープを千冬に手渡す。湯気の向こうをまた見つめている千冬の横顔が、微笑んでいるように見えた。あたしも、同じように遠くを見つめてみる。
「ありがとう、なずなちゃん。あたし、こんな楽しい夏を過ごしたの、久しぶりだよ」
なんだか、嬉しそうに笑っているのに、千冬が暗い海に吸い込まれて行ってしまうんじゃないかと錯覚してしまって、あたしは大袈裟に笑った。
「そんな! お礼なんて言わないでよ千冬。これから楽しい事は、たっくさんあるんだから!」
そうだよ、夏はこれで終わりじゃない。まだまだ明日も明後日も、来年も再来年もある。千冬は隣でふんわりした優しい笑顔を向けてくれる。
「千冬って、笑顔が可愛いよねっ」
「え?!」
「光夜くんの写真をね、見せてもらったの。そこに千冬の写真があって、それで光夜くんが千冬のことを知っているんだと思って、探したんだよ。だから、千冬に会えたんだよ」
「そうだったんだ……」
驚いたように目を見開いたかと思えば、ふふっと思い出すみたいに千冬は笑う。
「あれはね、光夜くんがいきなり撮ったんだよ。なずなちゃんにまで見られたなんて、恥ずかしい」
暗がりでよく見えないけれど、千冬が照れているように感じる。
そんな、他愛ない会話ではしゃぐあたし達を、春一と光夜くんも少し遠目で笑って見ているから、あたしは「おいで~っ」と手招きをした。
みんなで写真を撮ろうと提案してくれたのは光夜くん。アシスタントとは言え、十分プロの腕前だから、なんとなく緊張してしまう。
「表情固いぞー! もうちょい寄ってー、千冬と新堂さん!」
「あ! 光夜くん、あたしなずなでいーよ、なんかあたしだけ名字って悲しいし」
わざと泣いたフリをして見せると、千冬と春一は横で笑う。光夜くんは困った様な表情をして首筋を掻いてから、ためらいつつ言った。
「じゃあ、笑って、なずなっ!」
照れながら叫んで、春一の隣に急いで走って来る光夜くん。
カメラの赤いランプが点滅を始めた。その、数秒が、なんだかすごく長く感じる。あたしは熱くなる頬に潮風を受けて、みんなでいれることが、千冬や光夜くんや春一と、また会えたことが嬉しくて、笑った。
カシャッと、シャッター音が鳴った後で、あたしはまだほてる頬に手を当てた。一瞬だったけれど、光夜くんが呼んでくれたあたしの名前が、今も頭の中で響き続けている。
隣で微笑んでいる千冬に、あたしは首をかしげた。
「なずなちゃんって、素直だよね」
千冬はそれだけ言うと、一人で砂遊びを始めた春一の方に歩いて行った。
『笑って、なずな』
光夜くんが笑顔になったのを見た時から、なんだか心の中に何かが転がるんだ。それがなんなのか、分かるようで、分からない。思わずついてしまったため息。
カメラを確認しながら戻ってきた光夜くんが隣にきて、「疲れた?」と聞いてくれるから、あたしは慌てて首を振る。また、少しだけ気持ちが揺らいでいるのを感じる。
「そっか、カメラ車に戻してくるな」
「うん」
片付け終わった砂浜はなにもなくなって、カメラと三脚を持った光夜くんは駐車場に向かって歩いて行った。
もう遠くを見渡せなくなってしまった海の向こうを見つめる千冬。片付けをしていたあたしは、そんな千冬が気になってそっと隣に座った。
「千冬、寒くない?」
「あ、うん、平気」
お湯を注いだだけで作った即席のコンソメスープを千冬に手渡す。湯気の向こうをまた見つめている千冬の横顔が、微笑んでいるように見えた。あたしも、同じように遠くを見つめてみる。
「ありがとう、なずなちゃん。あたし、こんな楽しい夏を過ごしたの、久しぶりだよ」
なんだか、嬉しそうに笑っているのに、千冬が暗い海に吸い込まれて行ってしまうんじゃないかと錯覚してしまって、あたしは大袈裟に笑った。
「そんな! お礼なんて言わないでよ千冬。これから楽しい事は、たっくさんあるんだから!」
そうだよ、夏はこれで終わりじゃない。まだまだ明日も明後日も、来年も再来年もある。千冬は隣でふんわりした優しい笑顔を向けてくれる。
「千冬って、笑顔が可愛いよねっ」
「え?!」
「光夜くんの写真をね、見せてもらったの。そこに千冬の写真があって、それで光夜くんが千冬のことを知っているんだと思って、探したんだよ。だから、千冬に会えたんだよ」
「そうだったんだ……」
驚いたように目を見開いたかと思えば、ふふっと思い出すみたいに千冬は笑う。
「あれはね、光夜くんがいきなり撮ったんだよ。なずなちゃんにまで見られたなんて、恥ずかしい」
暗がりでよく見えないけれど、千冬が照れているように感じる。
そんな、他愛ない会話ではしゃぐあたし達を、春一と光夜くんも少し遠目で笑って見ているから、あたしは「おいで~っ」と手招きをした。
みんなで写真を撮ろうと提案してくれたのは光夜くん。アシスタントとは言え、十分プロの腕前だから、なんとなく緊張してしまう。
「表情固いぞー! もうちょい寄ってー、千冬と新堂さん!」
「あ! 光夜くん、あたしなずなでいーよ、なんかあたしだけ名字って悲しいし」
わざと泣いたフリをして見せると、千冬と春一は横で笑う。光夜くんは困った様な表情をして首筋を掻いてから、ためらいつつ言った。
「じゃあ、笑って、なずなっ!」
照れながら叫んで、春一の隣に急いで走って来る光夜くん。
カメラの赤いランプが点滅を始めた。その、数秒が、なんだかすごく長く感じる。あたしは熱くなる頬に潮風を受けて、みんなでいれることが、千冬や光夜くんや春一と、また会えたことが嬉しくて、笑った。
カシャッと、シャッター音が鳴った後で、あたしはまだほてる頬に手を当てた。一瞬だったけれど、光夜くんが呼んでくれたあたしの名前が、今も頭の中で響き続けている。
隣で微笑んでいる千冬に、あたしは首をかしげた。
「なずなちゃんって、素直だよね」
千冬はそれだけ言うと、一人で砂遊びを始めた春一の方に歩いて行った。
『笑って、なずな』
光夜くんが笑顔になったのを見た時から、なんだか心の中に何かが転がるんだ。それがなんなのか、分かるようで、分からない。思わずついてしまったため息。
カメラを確認しながら戻ってきた光夜くんが隣にきて、「疲れた?」と聞いてくれるから、あたしは慌てて首を振る。また、少しだけ気持ちが揺らいでいるのを感じる。
「そっか、カメラ車に戻してくるな」
「うん」
片付け終わった砂浜はなにもなくなって、カメラと三脚を持った光夜くんは駐車場に向かって歩いて行った。
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