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第六章 泣くのは大事
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「おばあちゃんはね、涼風ちゃんと出来ることならずっと一緒にいたいよ。だけどね、やっぱり限界はあるのよ。それに、涼風ちゃんのお母さんは、涼風ちゃんのことを捨てたわけじゃない。それだけは、分かって……」
分かんない。
じゃあ、どうしてあたしを置いて今は別の家庭を持って幸せにしているの?
あたしの存在なんてなかったみたいに。
「これから、お母さんに会ってくる」
「……え?」
「あたしのクラスメイトのお母さんが、あたしのお母さんなの」
「……そう、なのかい?」
知らなかったらしい。あたしの言葉に、おばあちゃんは目を見開いて驚いている。
「ちゃんと、話してくる……」
あたしのことを捨てたわけじゃないのなら、どうしてあたしを置いていなくなったのか、あたしのことが要らなかったからって理由しか思いつかないから、本当の母の気持ちを、怖いけれど、ちゃんと聞いてみたい。
西澤くんのおかげで、気持ちがだいぶ前向きになれている。さっき繋いだ手から伝わった体温が、一人じゃないって、思わせてくれた。だから、きっと大丈夫。
「そうかい……うん。行っておいで。涼風ちゃんのお母さんは素敵な人だよ。ろくでもないのは、父親の方だ」
深いため息を吐き出すおばあちゃんの隣に、あたしはソファーから立ち上がって座った。そして、落ち込む背中にそっと手を当てた。
だいぶ丸くなった背骨、あたしよりずっと大きくて優しくてたくましかったおばあちゃんが、今はこんなに小さく見える。いつも笑顔を絶やさないおばあちゃんが、泣いている。
おばあちゃんには、幸せでいてほしい。
ため息なんて吐き出さないで、笑っていて欲しい。
あたしは、おばあちゃんをギュッと抱きしめた。
「おばあちゃん、大好き」
あたし、ちゃんと聞いてくる。怖くて蓋をしていた過去は、もう全部思い出したし、吐き出せた。聞いてくれて、受け止めてくれた西澤くんがいたから。
だから、きっと今日だって大丈夫。
あたしは、ちゃんと話をすることが出来るはず。
父と母のことを知りたい。
全部を受け止めて、前に進みたい……
「もう、いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろうねぇ。ずっとちっちゃいままなら良いなってばぁちゃんはいつも思っていたよ。だけどね、そんなことは無理なんだよね。涼風ちゃんは毎日毎日一生懸命生きてるから。だから、こうやっていつの間にか、優しくて我慢強い子になったんだね」
トントンと、ゆっくり優しく背中を摩ってくれる。
小さかった頃を思い出す。おばあちゃんはいつもあたしが泣きそうになると、こうして大きな胸で抱きしめてトントンと背中をさすってくれた。
とても安心した。今だって、安心感は変わらない。だけど、今は大きかった胸の中からはみ出てしまっている。今度はあたしが、おばあちゃんを守ってあげたい。
「いつまでもかわいい涼風ちゃんでいて良いんだからね」
「うん、ありがとう。着替えたら行ってくるね」
「うん、行っておいで。私は適当に食べるから、ゆっくりしておいで」
笑顔で手を振り、おばあちゃんはテレビの音量を元に戻してまた見始めた。
分かんない。
じゃあ、どうしてあたしを置いて今は別の家庭を持って幸せにしているの?
あたしの存在なんてなかったみたいに。
「これから、お母さんに会ってくる」
「……え?」
「あたしのクラスメイトのお母さんが、あたしのお母さんなの」
「……そう、なのかい?」
知らなかったらしい。あたしの言葉に、おばあちゃんは目を見開いて驚いている。
「ちゃんと、話してくる……」
あたしのことを捨てたわけじゃないのなら、どうしてあたしを置いていなくなったのか、あたしのことが要らなかったからって理由しか思いつかないから、本当の母の気持ちを、怖いけれど、ちゃんと聞いてみたい。
西澤くんのおかげで、気持ちがだいぶ前向きになれている。さっき繋いだ手から伝わった体温が、一人じゃないって、思わせてくれた。だから、きっと大丈夫。
「そうかい……うん。行っておいで。涼風ちゃんのお母さんは素敵な人だよ。ろくでもないのは、父親の方だ」
深いため息を吐き出すおばあちゃんの隣に、あたしはソファーから立ち上がって座った。そして、落ち込む背中にそっと手を当てた。
だいぶ丸くなった背骨、あたしよりずっと大きくて優しくてたくましかったおばあちゃんが、今はこんなに小さく見える。いつも笑顔を絶やさないおばあちゃんが、泣いている。
おばあちゃんには、幸せでいてほしい。
ため息なんて吐き出さないで、笑っていて欲しい。
あたしは、おばあちゃんをギュッと抱きしめた。
「おばあちゃん、大好き」
あたし、ちゃんと聞いてくる。怖くて蓋をしていた過去は、もう全部思い出したし、吐き出せた。聞いてくれて、受け止めてくれた西澤くんがいたから。
だから、きっと今日だって大丈夫。
あたしは、ちゃんと話をすることが出来るはず。
父と母のことを知りたい。
全部を受け止めて、前に進みたい……
「もう、いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろうねぇ。ずっとちっちゃいままなら良いなってばぁちゃんはいつも思っていたよ。だけどね、そんなことは無理なんだよね。涼風ちゃんは毎日毎日一生懸命生きてるから。だから、こうやっていつの間にか、優しくて我慢強い子になったんだね」
トントンと、ゆっくり優しく背中を摩ってくれる。
小さかった頃を思い出す。おばあちゃんはいつもあたしが泣きそうになると、こうして大きな胸で抱きしめてトントンと背中をさすってくれた。
とても安心した。今だって、安心感は変わらない。だけど、今は大きかった胸の中からはみ出てしまっている。今度はあたしが、おばあちゃんを守ってあげたい。
「いつまでもかわいい涼風ちゃんでいて良いんだからね」
「うん、ありがとう。着替えたら行ってくるね」
「うん、行っておいで。私は適当に食べるから、ゆっくりしておいで」
笑顔で手を振り、おばあちゃんはテレビの音量を元に戻してまた見始めた。
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