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第六章 泣くのは大事
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しおりを挟む 初めて授業をさぼったあたしと西澤くんは、そのまま「かき氷を食べに行こう」と、学校を抜け出した。二人で別々の味を買って、分け合う。
西澤くんはきっと、こう言うことには慣れていない。もちろん、あたしだって慣れてるはずもないから、この前のまりんちゃんと隆大くんみたいなじゃれあいなんて出来ないけれど、なんだかすごく、楽しい。
「このカップで目元冷やしたらいいんじゃない?」
「え!」
かき氷のカップを目元に持ち上げて、西澤くんがニヤリと笑う。
あたしはすっかり泣き腫らしてしまった目のことを忘れてしまっていて、慌ててスマホで自分の目元を確認した。
「うわ、やばい。酷すぎる……」
思った以上に赤くなって腫れぼったくなっている瞼にまたしても泣きそうだ。
「大丈夫だって、かわいいから」
「え?」
「かわいいから大丈夫……!」
パクリと掬った氷を口に運んで、西澤くんは目を見開いてあたしに振り返った。
「あ! いや、えっと……」
一気にいちご味のかき氷みたいに真っ赤になっていく顔に、あたしはスマホをポケットにしまって、小さく「ありがと」と伝えると、ストローで溶けかけのかき氷を吸い込んだ。底に沈んでいたシロップの濃い味が冷たさと一緒に体に染み渡る。
西澤くんは素直だ。そんなところが、あたしは好きかもしれない。
「かき氷の次は、花火だよね」
ふと、そんなことを思って口にしてしまった。
「花火したいよね。俺の密かな夏の目標だもん」
「え?」
「杉崎さんと花火大会……は、叶わなかったけど、花火はまだ出来るよね。よし、食べたら花火買いに行こう!」
「え!?」
急いでかき込むから、西澤くんは「うっ!」と言ってから、こめかみにグッと手のひらを当てて俯いた。
どうやら、冷たさが頭に直にきたらしい。
分かっててやってんのかなぁ、西澤くんって、ほんと……
唖然と見つめていたあたしに気が付いて、西澤くんが目を細めた。
「絶対俺のことバカにしたでしょ? 今」
「し、してないしてない……」
慌てながら首を振るあたしに、ジト目をやめないから、苦笑いするしかない。
「いや、しました……」
観念して、ごめんと謝ると西澤くんが吹き出して笑うから、あたしまでおかしくなった。やっぱり、西澤くんになら素直になれる気がする。
あの日、忘れていた夏休みの日々が、なんだか懐かしく感じて、愛おしい。
食べ終わったカップをゴミ箱に捨てて、西澤くんが歩き出す方向に着いていく。
「今日は花の迎えは母さんが行くから、花火買って、なんか食べない? お腹空いたんだけど」
確かに。朝からサボってお昼も食べずに図書室で過ごしていたから、何も食べていなかった。しかも、たくさん泣いてしまってお腹は空いている。かき氷がこんなに美味しく感じられたのは、きっと空腹も相まってな気もする。西澤くんとコンビニに入っておにぎりとサンドイッチを買って食べた。
図書室から抜け出してきたから、靴も上靴だし、鞄も教室だ。一度取りに戻らなくちゃいけない。
「学校、戻る?」
「そうだな、なんか、怖いけど」
サボっていることは当然バレているだろうし、きっと担任と鉢合わせたら怒られる気がする。だけど、なんでだろう。西澤くんと一緒なら、あたしは怖くないと思っている。
「怖いの?」
「……いや、絶対俺が連れ出したんだろって言われそう。あ、いや、別にそれでも良いんだけどね、実際そうだし」
言いながらため息をついて、足取りも心なしか遅くなっていく西澤くんに、あたしは笑った。
「怒られる時は一緒にだよ」
軽く背中に手を置いて叩くと、落ちていた肩がシャキンっと上がった。眉が下がる笑顔で、「よろしく」と言われて、あたしは頷いた。
さっきまで本当にあたしは泣いていたんだろうかと思うほどに、気持ちが軽くて、今なら何にでも耐えられる気がした。
西澤くんはきっと、こう言うことには慣れていない。もちろん、あたしだって慣れてるはずもないから、この前のまりんちゃんと隆大くんみたいなじゃれあいなんて出来ないけれど、なんだかすごく、楽しい。
「このカップで目元冷やしたらいいんじゃない?」
「え!」
かき氷のカップを目元に持ち上げて、西澤くんがニヤリと笑う。
あたしはすっかり泣き腫らしてしまった目のことを忘れてしまっていて、慌ててスマホで自分の目元を確認した。
「うわ、やばい。酷すぎる……」
思った以上に赤くなって腫れぼったくなっている瞼にまたしても泣きそうだ。
「大丈夫だって、かわいいから」
「え?」
「かわいいから大丈夫……!」
パクリと掬った氷を口に運んで、西澤くんは目を見開いてあたしに振り返った。
「あ! いや、えっと……」
一気にいちご味のかき氷みたいに真っ赤になっていく顔に、あたしはスマホをポケットにしまって、小さく「ありがと」と伝えると、ストローで溶けかけのかき氷を吸い込んだ。底に沈んでいたシロップの濃い味が冷たさと一緒に体に染み渡る。
西澤くんは素直だ。そんなところが、あたしは好きかもしれない。
「かき氷の次は、花火だよね」
ふと、そんなことを思って口にしてしまった。
「花火したいよね。俺の密かな夏の目標だもん」
「え?」
「杉崎さんと花火大会……は、叶わなかったけど、花火はまだ出来るよね。よし、食べたら花火買いに行こう!」
「え!?」
急いでかき込むから、西澤くんは「うっ!」と言ってから、こめかみにグッと手のひらを当てて俯いた。
どうやら、冷たさが頭に直にきたらしい。
分かっててやってんのかなぁ、西澤くんって、ほんと……
唖然と見つめていたあたしに気が付いて、西澤くんが目を細めた。
「絶対俺のことバカにしたでしょ? 今」
「し、してないしてない……」
慌てながら首を振るあたしに、ジト目をやめないから、苦笑いするしかない。
「いや、しました……」
観念して、ごめんと謝ると西澤くんが吹き出して笑うから、あたしまでおかしくなった。やっぱり、西澤くんになら素直になれる気がする。
あの日、忘れていた夏休みの日々が、なんだか懐かしく感じて、愛おしい。
食べ終わったカップをゴミ箱に捨てて、西澤くんが歩き出す方向に着いていく。
「今日は花の迎えは母さんが行くから、花火買って、なんか食べない? お腹空いたんだけど」
確かに。朝からサボってお昼も食べずに図書室で過ごしていたから、何も食べていなかった。しかも、たくさん泣いてしまってお腹は空いている。かき氷がこんなに美味しく感じられたのは、きっと空腹も相まってな気もする。西澤くんとコンビニに入っておにぎりとサンドイッチを買って食べた。
図書室から抜け出してきたから、靴も上靴だし、鞄も教室だ。一度取りに戻らなくちゃいけない。
「学校、戻る?」
「そうだな、なんか、怖いけど」
サボっていることは当然バレているだろうし、きっと担任と鉢合わせたら怒られる気がする。だけど、なんでだろう。西澤くんと一緒なら、あたしは怖くないと思っている。
「怖いの?」
「……いや、絶対俺が連れ出したんだろって言われそう。あ、いや、別にそれでも良いんだけどね、実際そうだし」
言いながらため息をついて、足取りも心なしか遅くなっていく西澤くんに、あたしは笑った。
「怒られる時は一緒にだよ」
軽く背中に手を置いて叩くと、落ちていた肩がシャキンっと上がった。眉が下がる笑顔で、「よろしく」と言われて、あたしは頷いた。
さっきまで本当にあたしは泣いていたんだろうかと思うほどに、気持ちが軽くて、今なら何にでも耐えられる気がした。
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