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第五章 晩夏光の図書室
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世界が、ずっと薄暗い幕を纏って見えていたことに気が付けなかった。
全てを思い出した瞬間に、眩しいほどに鮮明に明るさを感じ始める。
西澤くんの笑顔が、驚いた顔が、真剣な顔が、冗談を言ったり悩んだりする顔が、次々と記憶の中から溢れ出てくる。
寂しいのは、最初だけだった。
あたしは、西澤くんに救われたんだ。
西澤くんがあたしを見つけてくれたから。
「……西澤くんは、あたしの奇跡だよ」
全部、思い出した。
綺麗な星空も孤独な夜も、このままひとりぼっちで消えていくんじゃないかと怖くてたまらなかった時間を、西澤くんが埋めてくれたんだ。
あたしのそばにいてくれたんだ。
込み上げてくる涙が止められなくて、頬を伝っていくのも構わずに、あたしは西澤くんに微笑んだ。
「ありがとう、西澤くん。全部、思い出した」
西澤くんは、あたしに言ってくれたんだ。
『泣けって!! 泣いて泣いて、うるさいくらいに泣き喚け! それしかないだろう? 気づいてもらえ! なんもしないで終わりを迎えるなんて、そんなの悲しすぎるだろ!』
悲しみが、全部溢れ出ていく。
もう、我慢なんてしなくて良い。
泣いて、泣いて、泣き喚いて、そんなの虚しいだけだって思っていた。
「大丈夫だよ。杉崎さんの涙は、全部俺が受け止めるから、安心して」
そっと、手を伸ばしてくれる西澤くん。
涙で歪んでしまって、だけど、あたしも手をそっと伸ばして、繋いだ。
安心する──
ずっと、誰かに聞いてもらいたかった。こんなに我慢しているのに、どうしてあたしばっかりって。悪いことがあれば良いことがあるから、それまでは我慢しようって。悪いことばかりが気になって、ずっと気にして、良いことが何なのかも分からなかった。
あたしの話を聞いてくれる西澤くんに出逢えた事が、最大の良いことなんだ。奇跡なんだ。
それでも、この手の温もりは永遠なんかじゃないんだろうと、疑ってしまう。
「……西澤くん」
「ん?」
「……西澤くんのお母さんって、きっとあたしのことを捨てた人だよ」
繋いだ手に視線を落としたまま、あたしはポツリとつぶやいた。一瞬、そっと握られていた西澤くんの手に力が入った気がした。
「…………え?」
捨てた人。そんな言葉を放ってしまえば、きっと西澤くんじゃなくたって困惑するだろう。だけど、あたしはもうなにも隠したくなかった。
全てを曝け出して、泣き喚いて、西澤くんに嫌われようが、なんと思われようが、もう今更、止められないと思った。
太陽が雲に隠れて、図書室が薄暗くなる。
外からの明かりで十分だった室内の蛍光灯はつけていない。もともと誰もいなかったから、つける必要もなかったし、秋の柔らかい日差しがちょうど良かったから。
あたしが泣いて、全てを思い出して、それと同時にあたしの暗い過去も全部吐き出してしまいたくなる。西澤くんに知ってほしくなって、貪欲になる心と同じみたいに、空も翳りを増していく。
入り込む風が、泣いたからかもしれない……体や頬に、ひんやりと感じた。
全てを思い出した瞬間に、眩しいほどに鮮明に明るさを感じ始める。
西澤くんの笑顔が、驚いた顔が、真剣な顔が、冗談を言ったり悩んだりする顔が、次々と記憶の中から溢れ出てくる。
寂しいのは、最初だけだった。
あたしは、西澤くんに救われたんだ。
西澤くんがあたしを見つけてくれたから。
「……西澤くんは、あたしの奇跡だよ」
全部、思い出した。
綺麗な星空も孤独な夜も、このままひとりぼっちで消えていくんじゃないかと怖くてたまらなかった時間を、西澤くんが埋めてくれたんだ。
あたしのそばにいてくれたんだ。
込み上げてくる涙が止められなくて、頬を伝っていくのも構わずに、あたしは西澤くんに微笑んだ。
「ありがとう、西澤くん。全部、思い出した」
西澤くんは、あたしに言ってくれたんだ。
『泣けって!! 泣いて泣いて、うるさいくらいに泣き喚け! それしかないだろう? 気づいてもらえ! なんもしないで終わりを迎えるなんて、そんなの悲しすぎるだろ!』
悲しみが、全部溢れ出ていく。
もう、我慢なんてしなくて良い。
泣いて、泣いて、泣き喚いて、そんなの虚しいだけだって思っていた。
「大丈夫だよ。杉崎さんの涙は、全部俺が受け止めるから、安心して」
そっと、手を伸ばしてくれる西澤くん。
涙で歪んでしまって、だけど、あたしも手をそっと伸ばして、繋いだ。
安心する──
ずっと、誰かに聞いてもらいたかった。こんなに我慢しているのに、どうしてあたしばっかりって。悪いことがあれば良いことがあるから、それまでは我慢しようって。悪いことばかりが気になって、ずっと気にして、良いことが何なのかも分からなかった。
あたしの話を聞いてくれる西澤くんに出逢えた事が、最大の良いことなんだ。奇跡なんだ。
それでも、この手の温もりは永遠なんかじゃないんだろうと、疑ってしまう。
「……西澤くん」
「ん?」
「……西澤くんのお母さんって、きっとあたしのことを捨てた人だよ」
繋いだ手に視線を落としたまま、あたしはポツリとつぶやいた。一瞬、そっと握られていた西澤くんの手に力が入った気がした。
「…………え?」
捨てた人。そんな言葉を放ってしまえば、きっと西澤くんじゃなくたって困惑するだろう。だけど、あたしはもうなにも隠したくなかった。
全てを曝け出して、泣き喚いて、西澤くんに嫌われようが、なんと思われようが、もう今更、止められないと思った。
太陽が雲に隠れて、図書室が薄暗くなる。
外からの明かりで十分だった室内の蛍光灯はつけていない。もともと誰もいなかったから、つける必要もなかったし、秋の柔らかい日差しがちょうど良かったから。
あたしが泣いて、全てを思い出して、それと同時にあたしの暗い過去も全部吐き出してしまいたくなる。西澤くんに知ってほしくなって、貪欲になる心と同じみたいに、空も翳りを増していく。
入り込む風が、泣いたからかもしれない……体や頬に、ひんやりと感じた。
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