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第五章 晩夏光の図書室
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「ずっと一緒にやってきたのに、俺の抜けた穴をどうやって埋めるんだよって、言い争いになってて。仕方ないから、俺のいない体制に慣れるしかないだろって、揉めてて……小学生の時からお互いに信頼しあってたチームメイトだから、喧嘩なんてしたこと無かったんだ。なのに、俺のせいでこんなことになってしまうなんて、申し訳なくて……あの日、図書室に逃げてきたんだ」
眉を下げて、西澤くんは小さくまた息を吐く。
「杉崎さんが突然現れた時は、めちゃくちゃビビったよ。俺、たぶんあん時腰抜かしてたと思う」
泣きそうに眉を下げたかと思えば、今度はあたしに視線を戻して笑ってくれる。
思い出すみたいに話す西澤くんの話は、あたしには身に覚えがなくて、やっぱり首を傾げたくなるけれど、西澤くんの話は最後まで聞いてあげたいと思った。
「杉崎さんとここで会えて、明日も来る? って聞いてくれてさ、俺、なんかすげぇ嬉しくなっちゃって。もちろん、落ち込んでく気持ちはあったんだけど、帰りに隆大と会って部室でのことを聞いたら、みんなが俺のこと慕ってくれてるし、頼ってくれてることを知ったんだ。きっと、杉崎さんとここで会えてなかったら、たぶん卑屈になって終わってたかもしれない。隆大とも口も聞かなかったかもしれない。サッカー部の奴らとも、距離置いてたかもしれない。そう思うと、杉崎さんがここにいてくれたのは、俺にとって奇跡だったんじゃないかなって、思うんだよね」
「……奇跡……」
「大袈裟? そんなことないよ。マジで奇跡だと思う。杉崎さんとのあの日々があったから、俺は今楽しいし、笑っていられるんだよ。だから、本当にありがとう」
目を細めて満面の笑みを見せたあと、西澤くんが頭を下げる。
「忘れちゃってるならそれでも良いんだ。だって俺は覚えてるから。杉崎さんに救われて、杉崎さんのことが、好きになったんだよ」
晴れやかに笑う西澤くんだけど、そんな西澤くんにとっての奇跡があったことを語られても、あたしの心までは晴れることはない。
あたしが西澤くんのことを笑顔に出来たなら、それはそれで良いことだとは思う。
だけど、あたしだって心から笑えたらいいのになって、思ってしまう。
幸せが何なのかも、今はわからないけれど……
「杉崎さんはさ、なんかいっつも寂しそうな顔してるんだよね」
目と目が合って、ジッと見つめられる。
真っ直ぐな視線からは、逸らすことができなくて、困る。
「俺がそれをどうこう出来るなんて思ってないよ。だって、俺はまだ、杉崎さんのことなんにも知らないから。学校で見せている姿は、なんだか嘘くさいなぁとは思っていたんだ。ずっと」
「……え?」
「あ、ごめん。でもさ、ほんと。みんながみんな口を揃えて杉崎さんは可愛くて優しくて、勉強も出来て頼りになるって言ってたけど、確かにその通りなんだけどさ、俺にもよく分かんないんだけど、たまに寂しそうな顔してるのが、ずっと気になってたんだよね」
「……ずっと……って?」
「あー……入学した頃から? みんなに囲まれながらも、たまになんか暗い顔してるのが気になってた」
あたし、顔には絶対に出していない自信があったのに。周りに合わせて笑顔を貼り付けるのが、もはや特技みたいになっていた。
小さい頃から、自分が笑顔でいれば周りから寄って来てくれるんだということを、知っていた。
楽しくなくたって笑って、嬉しくなくたって笑って、悲しみを誤魔化すために笑っていた。暗い顔なんて、一人の時くらいにしかしたことがなかったはずだ。
それなのに……
「俺もさ、そんな感じの時期が、あったんだよな」
躊躇いがちに、西澤くんがため息を吐き出すみたいに話し始める。
眉を下げて、西澤くんは小さくまた息を吐く。
「杉崎さんが突然現れた時は、めちゃくちゃビビったよ。俺、たぶんあん時腰抜かしてたと思う」
泣きそうに眉を下げたかと思えば、今度はあたしに視線を戻して笑ってくれる。
思い出すみたいに話す西澤くんの話は、あたしには身に覚えがなくて、やっぱり首を傾げたくなるけれど、西澤くんの話は最後まで聞いてあげたいと思った。
「杉崎さんとここで会えて、明日も来る? って聞いてくれてさ、俺、なんかすげぇ嬉しくなっちゃって。もちろん、落ち込んでく気持ちはあったんだけど、帰りに隆大と会って部室でのことを聞いたら、みんなが俺のこと慕ってくれてるし、頼ってくれてることを知ったんだ。きっと、杉崎さんとここで会えてなかったら、たぶん卑屈になって終わってたかもしれない。隆大とも口も聞かなかったかもしれない。サッカー部の奴らとも、距離置いてたかもしれない。そう思うと、杉崎さんがここにいてくれたのは、俺にとって奇跡だったんじゃないかなって、思うんだよね」
「……奇跡……」
「大袈裟? そんなことないよ。マジで奇跡だと思う。杉崎さんとのあの日々があったから、俺は今楽しいし、笑っていられるんだよ。だから、本当にありがとう」
目を細めて満面の笑みを見せたあと、西澤くんが頭を下げる。
「忘れちゃってるならそれでも良いんだ。だって俺は覚えてるから。杉崎さんに救われて、杉崎さんのことが、好きになったんだよ」
晴れやかに笑う西澤くんだけど、そんな西澤くんにとっての奇跡があったことを語られても、あたしの心までは晴れることはない。
あたしが西澤くんのことを笑顔に出来たなら、それはそれで良いことだとは思う。
だけど、あたしだって心から笑えたらいいのになって、思ってしまう。
幸せが何なのかも、今はわからないけれど……
「杉崎さんはさ、なんかいっつも寂しそうな顔してるんだよね」
目と目が合って、ジッと見つめられる。
真っ直ぐな視線からは、逸らすことができなくて、困る。
「俺がそれをどうこう出来るなんて思ってないよ。だって、俺はまだ、杉崎さんのことなんにも知らないから。学校で見せている姿は、なんだか嘘くさいなぁとは思っていたんだ。ずっと」
「……え?」
「あ、ごめん。でもさ、ほんと。みんながみんな口を揃えて杉崎さんは可愛くて優しくて、勉強も出来て頼りになるって言ってたけど、確かにその通りなんだけどさ、俺にもよく分かんないんだけど、たまに寂しそうな顔してるのが、ずっと気になってたんだよね」
「……ずっと……って?」
「あー……入学した頃から? みんなに囲まれながらも、たまになんか暗い顔してるのが気になってた」
あたし、顔には絶対に出していない自信があったのに。周りに合わせて笑顔を貼り付けるのが、もはや特技みたいになっていた。
小さい頃から、自分が笑顔でいれば周りから寄って来てくれるんだということを、知っていた。
楽しくなくたって笑って、嬉しくなくたって笑って、悲しみを誤魔化すために笑っていた。暗い顔なんて、一人の時くらいにしかしたことがなかったはずだ。
それなのに……
「俺もさ、そんな感じの時期が、あったんだよな」
躊躇いがちに、西澤くんがため息を吐き出すみたいに話し始める。
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