晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

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第四章 自分じゃない自分

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「涼風ちゃん……、もしかして、なんか悩み事でもある?」
「……え?」
「なんか、すっごく、辛そうな顔してるよ?」

 眉を目一杯下げて、まりんちゃんがあたしを覗き込むようにただただ心配してくれるから、一気に色んなことを考えすぎていた自分がなんだか馬鹿馬鹿しくなる。最低だ。ただ純粋にあたしを心配してくれているのに、あたしはいざとなれば弱みをって、考えてしまっていた。
 どうにか嫌われないように、離れて行かないように、繋ぎ止めておく何かがあることに安心しているだけだ。
 だからいつも苦しいのかな。
 でも、不安なことなんて簡単には吐き出せない。

「悩み事はあるけど大したことじゃないし、大丈夫」

 あたしもスプーンを手にとって、生クリームとイチゴを一緒に掬って食べた。甘くてまったりとした濃いクリームの中のイチゴを噛み締めると、じゅわぁと甘酸っぱさが口の中に広がった。

「涼風ちゃんは、大空くんのことどう思ってるの?」
「……え?」

 唐突に聞かれて驚いてしまう。

「大空くんは確実に涼風ちゃんのこと好きだよね? 今朝、古賀くんから涼風ちゃんのこと連れ去っていくのあたし見たよー」

 言い逃れはできないといわんばかりに、まりんちゃんは笑顔を向けてくる。
 校門前から昇降口まで手を繋がれて歩いていれば、確かに誰かしらには見られていてもおかしくなかった。葉ちゃんには見られていなくてよかったなと、少しだけホッとしていたのに。

「見てたんだ」
「うん、なんかね、大空くん頑張ってるーって廊下の窓から応援してたの」
「……応援」
「さっき、涼風ちゃん何も覚えていないって言ってたけど、大空くんは全部覚えているみたいだよ。涼風ちゃんと過ごした夏休み期間」

 話しながらもパフェを食べる手は止まらないから、あっという間にメインの果物もアイスクリームもほとんどなくなった。

「それって、思い出さなきゃいけないのかな」

 あたしが花ちゃんのことを覚えているような接し方をした時、西澤くんはすごく嬉しそうに笑ってくれた。思い出してあげたいけど、忘れていることを無理に思い出そうとして、やっぱり思い出さなきゃよかったってなったら、その方が嫌だ。

「無理にとは言わないよ。でも、大空くんとはこれからも仲良くしていてほしいなって思っただけだよ」
「友達になったから、仲良くはするつもりだけど」
「え! そうなのっ?」

 さらりと流すように言ったあたしの言葉に、弾むような笑顔で食いついてきたまりんちゃんに、驚いてしまう。

「じゃあ、また四人でデートしようねっ」

 また? デート?
 思わず考え込んでしまう。

「よかった、なんか涼風ちゃんと話してたら落ち着いてきた」

 ずっと、楽しそうだけど強張ったような笑顔に感じてはいたのは、やっぱり間違いなかった。

「西澤くんと仲良くするから、隆大くんにちゃんと今日のこと話してね」
「むぅー、分かった」

 ようやく観念したのか、まりんちゃんが頷くからあたしもホッとする。

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