晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

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第四章 自分じゃない自分

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「疲れない? 自分じゃない自分でいるのって」

 あたしはずっと我慢してきた。今だってしてる。正直しんどい。だから、誰とも深くは関わりたくないし、自分のことも話したくない。

「そりゃ、疲れるよー」
「でしょ?」

 だったらそんなのやめたら良いのに。

「でもね……楽しいんだもん」
「え?」
「可愛くなれるのが楽しいし、リュウちゃんにかわいいって言ってもらえるのも嬉しい。たまにメイクが下手すぎとか、髪型かっこわるとか、酷いこと言われたりはするけど、あたしはかわいいって思ってやってるし、リュウちゃんがかわいいって言ってくれるのが嬉しいから、だから、やめられない」

 真っ直ぐに、まりんちゃんの思いの強さを感じる。
 なんだろう、こうやって、前にも誰かの強い思いを聞いたことがあったような気がしてくる。

「あはは、あたしだいぶリュウちゃん大好きだよね」

 すっかり震えもおさまって、まりんちゃんは笑っている。

「ありがとう、涼風ちゃん。助けてくれて」
「え……あ、いや、助けたのは古賀くんで」

 あたしじゃない。

「でも、古賀くんのこと呼んでくれたのは、涼風ちゃんでしょ? あたしが助けてって目で合図したの、ちゃんと分かってくれた。ありがとう」

 あ、やっぱり、あの目は助けを求める目で間違いじゃなかったんだ。
 勘で動いてしまったことを後悔していたけれど、お礼を言われると良かったと安心する。

『合図して』

 また、頭の中で声がする。なんとなく、それが西澤くんの声に聞こえるのは何故だろう。
 やっぱり、あたしの知らない西澤くんとの時間があったのかもしれない。

 制服のリボンを結び直して、まりんちゃんはスッと立ち上がった。

「あと……、この事はリュウちゃんには言わないで」
「え……」
「心配かけたくないから。リュウちゃん今、サッカーの試合にめちゃくちゃ集中してて、こんな事で心配、かけたくないから」
「……こんなことって」

 そんな簡単に隠してしまうような事じゃない気がする。今回はたまたまあたしや古賀くんが気がついたから良かったけど、ここの階段下は、ほとんど使われていない教室に上がっていく階段で、普段から生徒はもちろん先生もあまり通らない場所だ。
 なんでそんなところにまりんちゃんがいたのかは分からないけど、もしかしたら誰も助けに来なくて嫌な思いをしてしまったかもしれないんだよ。古賀くんの言う通りに、ちゃんと隆大くんに話して守ってもらわないと。

「大丈夫、今回は生徒会長って肩書きを信用しちゃっただけ。そもそもこんなとこに呼び出すのがおかしかったよね。あたしももっと気をつけるから」

 また大きなため息を吐き出したまりんちゃんは、ハッとしてから両手でため息を取り戻すようにかき集めている。
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